サンキュータツオ、春日太一『俺たちのBL論』河出書房, 2016.
男性向けBL解説。サンキュータツオが春日にBLの読み方を指南するというスタイルで議論が進む。なぜ、腐女子が男女間の恋愛を描いた作品を楽しめず、男男間のそれならば楽しめるのかについての疑問に対して、「男は傷つけられても大丈夫だという考えを腐女子側が持っているから」という仮説が提示されている。これってめちゃくちゃ性役割的な発想なんだが、フェミ系のBL論者は納得してくれるのだろうか。あと、BLで描かれる人間関係の多彩さが強調されて腐女子はクリエイティブであると評価されるのだが、男性同士のさまざまな関係をすべて恋愛関係に見立ててしまうのは多様性がある状態とはほど遠いだろう。いや、ためになる知識も与えてくれるので悪い本ではないのだけれども、BLの魅力について説得力ある解釈が提示されているわけでもないという印象。
成田悠輔 『22世紀の民主主義:選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』(SB新書), SBクリエイティブ, 2022.
民主主義の問題を「新しい仕組み」によって解決しよう提言する書。冒頭で民主主義国の停滞や失敗と非民主主義国の成功という21世紀の現況が示されるので、読んですぐさま「独裁国家のほうがいいというのか!!」といきり立つ読者もいるかもしれない。しかし、さらに読み進めると、著者が民主制の停止を目論んでいるのではなく、バカや利権(日本では特に高齢者支配)に毒されない仕組みを取り入れましょうという穏健な提案をしているだけなのがわかるはずである。しかしなあ、そうした仕組みの採用自体が現行の仕組みでは不可能だろう。その辺も著者もわかっているようで、改革に対する深い絶望感があるゆえに提案自体もあまり真剣なものに感じられない。あまり売れそうにないテーマだと思うのだが、露出が多い人が著者だとベストセラーになるのか。
山本敏郎 『高校生が感動した確率・統計の授業』(PHP新書), PHP研究所, 2017.
確率・統計とあるけど確率がメインの記述で、順列と組み合わせの話がほとんどである。確率分布は出てこない。問題を出してひたすら解いてゆくという内容であり、複数の解法を丁寧に解説してくれる。ちゃんと問題に取り組めば、PとCの使い方はしっかりとマスターできると思う。ただし、タイトルはちょっと引くなあ。
藤沢数希 『コスパで考える学歴攻略法』(新潮新書), 新潮社, 2022.
親を読者対象とした教育戦略論。学習塾や私立中学受験に投資してペイするか、とまずは問う。日東駒専レベルがGマーチレベルの大学歴になるならば、入ることのできる企業からみてペイすると著者はいう。ただし、学歴で人生が劇的に変わるわけではなく、「ワンランク上」になれるかもしれない程度であるとも強調される。以上の認識をベースに、中学受験を論じ、公立高校を評価してゆく。損得勘定だけで考えたアドバイスばかりでとても潔い。とはいえ、個人主義を徹底したときのベストな選択(「医者になる」)と、国全体のメリットとの乖離が垣間見える瞬間もあって、ちょっとだけ考えさせられるところもある。
本郷和人『歴史学者という病』(講談社現代新書), 講談社, 2022.
東大の史料編纂所に所属する著者の自伝。偉人伝など「物語」としての魅力から歴史を好きになり、大学に入って「実証」の重要性を理解し、キャリアを積み重ねることによってまた史料重視の「実証」一辺倒の問題にも気づくようになった、という知的遍歴を披露している。この間、1980年代~90年代の東大の日本史研究者や網野善彦が論評され、また奥さんとの出会いなどの話も出てくる。歴史学は流行に左右されやすい、と著者はいうものの、この点についてあまり深刻そうでもない。読む方としては、流行が学問にどういう歪みをもたらしのかもう少し詳しく聞きたいところだった。
男性向けBL解説。サンキュータツオが春日にBLの読み方を指南するというスタイルで議論が進む。なぜ、腐女子が男女間の恋愛を描いた作品を楽しめず、男男間のそれならば楽しめるのかについての疑問に対して、「男は傷つけられても大丈夫だという考えを腐女子側が持っているから」という仮説が提示されている。これってめちゃくちゃ性役割的な発想なんだが、フェミ系のBL論者は納得してくれるのだろうか。あと、BLで描かれる人間関係の多彩さが強調されて腐女子はクリエイティブであると評価されるのだが、男性同士のさまざまな関係をすべて恋愛関係に見立ててしまうのは多様性がある状態とはほど遠いだろう。いや、ためになる知識も与えてくれるので悪い本ではないのだけれども、BLの魅力について説得力ある解釈が提示されているわけでもないという印象。
成田悠輔 『22世紀の民主主義:選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』(SB新書), SBクリエイティブ, 2022.
民主主義の問題を「新しい仕組み」によって解決しよう提言する書。冒頭で民主主義国の停滞や失敗と非民主主義国の成功という21世紀の現況が示されるので、読んですぐさま「独裁国家のほうがいいというのか!!」といきり立つ読者もいるかもしれない。しかし、さらに読み進めると、著者が民主制の停止を目論んでいるのではなく、バカや利権(日本では特に高齢者支配)に毒されない仕組みを取り入れましょうという穏健な提案をしているだけなのがわかるはずである。しかしなあ、そうした仕組みの採用自体が現行の仕組みでは不可能だろう。その辺も著者もわかっているようで、改革に対する深い絶望感があるゆえに提案自体もあまり真剣なものに感じられない。あまり売れそうにないテーマだと思うのだが、露出が多い人が著者だとベストセラーになるのか。
山本敏郎 『高校生が感動した確率・統計の授業』(PHP新書), PHP研究所, 2017.
確率・統計とあるけど確率がメインの記述で、順列と組み合わせの話がほとんどである。確率分布は出てこない。問題を出してひたすら解いてゆくという内容であり、複数の解法を丁寧に解説してくれる。ちゃんと問題に取り組めば、PとCの使い方はしっかりとマスターできると思う。ただし、タイトルはちょっと引くなあ。
藤沢数希 『コスパで考える学歴攻略法』(新潮新書), 新潮社, 2022.
親を読者対象とした教育戦略論。学習塾や私立中学受験に投資してペイするか、とまずは問う。日東駒専レベルがGマーチレベルの大学歴になるならば、入ることのできる企業からみてペイすると著者はいう。ただし、学歴で人生が劇的に変わるわけではなく、「ワンランク上」になれるかもしれない程度であるとも強調される。以上の認識をベースに、中学受験を論じ、公立高校を評価してゆく。損得勘定だけで考えたアドバイスばかりでとても潔い。とはいえ、個人主義を徹底したときのベストな選択(「医者になる」)と、国全体のメリットとの乖離が垣間見える瞬間もあって、ちょっとだけ考えさせられるところもある。
本郷和人『歴史学者という病』(講談社現代新書), 講談社, 2022.
東大の史料編纂所に所属する著者の自伝。偉人伝など「物語」としての魅力から歴史を好きになり、大学に入って「実証」の重要性を理解し、キャリアを積み重ねることによってまた史料重視の「実証」一辺倒の問題にも気づくようになった、という知的遍歴を披露している。この間、1980年代~90年代の東大の日本史研究者や網野善彦が論評され、また奥さんとの出会いなどの話も出てくる。歴史学は流行に左右されやすい、と著者はいうものの、この点についてあまり深刻そうでもない。読む方としては、流行が学問にどういう歪みをもたらしのかもう少し詳しく聞きたいところだった。