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中国の地方統治にみる格差と不正の根源

2019-10-12 20:51:43 | 読書ノート
岡本隆司『腐敗と格差の中国史』NHK出版新書, 2019.

  中国歴代王朝の統治システムを検証することによって、現代中国の汚職と格差の遠因を探るという試み。時代によって記述に精粗があって、全体のバランスはあまり良くない。特に中華民国建国以降は、地方統治機構の具体的な説明が無く、国民党および共産党を支持した層やイデオロギーの話になる。本書ではあまり重要な時期ではないということなのだろう。

  とはいえ、全体の2/5ぐらいを占める唐宋時代から明清時代の記述は面白い。それ以前の時代となる、秦漢から五胡十六国に至る時代は、貴族による地方統治が行われたために皇帝の権力が制限されていた。隋唐の頃から、皇帝に権力を一元化し、貴族の力を抑えることが目指され、「科挙」による官僚の選抜が行われるようになった。採用された官僚は数年の任期で、国内の「県」(日本でいう「市」ぐらいの規模)の行政のトップとして赴任したという。一方で、地元で雇われるノンキャリアの公務員がいて、こちらは任期なしで、実務を担ったという。

  派遣された国家採用の官僚の給与は安すぎて、家族を養える程度だった。税金が少ないことが「善政」と見なされていたからだ。一方で、ノンキャリアの地元採用公務員は、表向きは無給のボランティアだったという。給与の不足やボランティア労働の問題は、賄賂や非公式の税金によって解決されるようになった。額は地方政府の、あるいは官僚の裁量次第である。こうした、公務員間にある格差や、汚職や不正については、中央も把握することがあったが、清の時代に至っても有効な対処はできなかった。

  以上。小さな政府による「善政」がどういうものかよくわかる。賄賂や非公式な税などによって結局は高くつくうえに、不正が統治機構への信頼を破壊する。住民も十分把握できない。受験秀才を数年で配置換えをしても業務は洗練されない。著者は中国史の避けがたい宿痾とみなして中国社会についてもっと深みのある記述をしているが、個人的には上のような教訓話として読めた。
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1 コメント

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三年清知府、十万雪花銀 (Hiroshi)
2019-10-13 00:12:03
伝統的に「三年清知府、十万雪花銀」と云って、中国の官僚は給金だけでは生活出来なかった長い歴史があるらしいですね。

そして地方に派遣された官僚が数年の間に巨額の富みを蓄財した仕組みが『耗羨』だとか『火耗』だとか。
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