29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

米国音楽業界について細かくかつユーモラスに解説する書

2024-03-21 09:28:26 | 読書ノート
Donald S. Passman All You Need to Know About the Music Business / Eleventh Edition. Simon & Schuster, 2023.

  音楽家を対象に米国の音楽ビジネスの慣行を教える内容。ユーモラスな調子で書かれており英語話者にとっては親しみやすいらしい。500頁以上にわたって音楽ビジネス上のさまざまなケースについて細かく解説されており、レファレンスに耐える作りになっている。著者はこの業界に長年かかわってきた弁護士で、初版は1991年、以降およそ三年毎に改訂され、現在は第11版となっている。定番書籍である。

  第11版はSpotifyなどのストリーミングについて詳しい。収益が再生回数によって決まるのは周知のことだが、正当なアルゴリズム対策──レコメンドされやすくする──というものがあって、そうした対策にはまだレコード会社の力が必要らしい。31秒の曲を作って(Spotifyは再生時間が30秒を超えると「聴かれた」として収益の対象となる)、ロボットに一日中リピートさせるというハッキングを思いついた人物もいるらしいが、不正だとして告訴されている。

  このほか、音楽家に必要なマネージャーや弁護士、レコード会社との契約、自作曲を登録する出版社との契約、ツアー、映画での曲の使用などについて採りあげている。業界慣行のおよその印税率というものがあるにしても、レコーディング費用を音楽家が払うかレコード会社が払うかなど細かい論点がある。プロデューサーに払うプロデュース料は一括払いではなく印税方式らしい。また、ストリーミングの時代になってシングル単位での消費となっているにもかかわらず、アルバム単位での計算方法がまだ残っているとのこと。

  最終的には、音楽ビジネスは交渉次第、そこで重要なのは「影響力」──ファンの多さやポテンシャルなど──だということである。さまざな契約の局面があって、それぞれで広い選択肢があるが、そのような場で有利な数字を引き出すには影響力に行き着くとのこと。こういったことがわかる。米国で音楽ビジネスに関わるならば必読の内容であるが、そんな日本人は多くないだろうな。米国の書籍は定価販売されないと聞いていたが、本書は35ドルと希望小売価格(?)がカバーに印字されている。
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新刊書店の現状についての本と昔の古本屋経営についての本二冊

2024-03-20 20:41:52 | 読書ノート
志多三郎『街の古本屋入門:売るとき、買うとき、開業するときの必読書』KG情報出版, 1997.

  経営者目線からの古本屋論。初版が1982年(石田書店)で文庫版が1986年(光文社)。僕が読んだのは1997年の復刊本である。ブックオフによって目立たなくなった個人経営の古本屋の実情を詳細に伝える内容である。棚貸ししているだけの新刊書店とは違って、古本屋の棚に並んでいるのは店主が買い取った個人の所有物である。「だから客とはいえ気軽に本にべたべた触るな」ということらしい。この箇所を読みながら、もう30年も前となる学生時代、横浜とある古本屋で「お前みたいな若造が来るところではない」と怒鳴られ、追い出された経験を思い出した。客は持ち込む前に店の傾向を吟味せよ、ともアドバイスしてくる。このような非常に面倒くさい昔ながらの古本屋が嫌われて、持ち込み客のハードルを低めた新古書店が大歓迎されたというのは、時代の流れとしてとても腑に落ちる。まあでも、具体的な数字もあり、昔ながらの古本屋経営者の論理について理解できる貴重な資料だろう。

本屋図鑑編集部編『本屋会議』夏葉社, 2014.

  書店論と書店のルポ。昨年あたりから老舗の小売書店閉店の報道が相次いでいるが、本書は神戸元町にあった海文堂書店の閉店(2013年)に本屋図鑑編集部がショックを受けて、翌年に企画されたものである。明確にそううたわれているわけではないが、有隣堂や留萌ブックセンターのルポや、地域に献身的な書店主がたくさん出てくることから、地元と密着するのが生残りの道であることを伝えている。また、昭和の書店経営についての議論もあって、全国の書店のどこでも金太郎飴のように同じものが揃えられていることに意義があったとしつつ、今と同じように過去も書店経営は厳しかったと論じている。一方でまた、インターネットの普及で雑誌が売れなくなったこと、かつまた大型書店やネット書店が登場したこと、これらが街の書店を色あせたものにみせる時代になったことが指摘されている。小売書店がいろいろ試行錯誤しているのはわかった。が、もう十年も前の話なのか...。
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