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英米前世紀末の学術書および大学教科書の出版事情

2024-04-11 16:42:40 | 読書ノート
John B. Thompson Books in the Digital Age: The Transformation of Academic and Higher Education Publishing in Britain and the United States. Polity, 2005.

  1980年代から2000年代初頭までの学術出版の動向を伝える大著。ケンブリッジ大の社会学者Thompsonの出版三部作の最初の著作で、その後Merchants of CultureBook Warsと続く。他の二つと同様、内容はインタビュー調査を元にしている。

  米英では1980年代から1990年代にかけて学術書が売れなくなった。1970年代ならば初版で3000部刷っていたのが、1990年代になると1000部を切るような水準になっている。特に歴史や人文学書で落ち込みが大きい。その理由は大学図書館が学術書の購入を厳選するようになったからである。同時期、資料費の多くが学術雑誌とそのデータベースに割かれるようになった。それゆえ学術書に充てられる予算が縮小してしまったのだ。

  この傾向に対して学術出版社はどう対応したか。一部の社は学術の成果を伝える一般向け書籍を出版し、また一部の大学出版局は大学からの援助を求めたりした。もっとも重要だったのが大学教科書領域への参入で、一年生向けの教科書の場合は大手出版社がシェアを握っているけれども、上級レベルになると中小出版社にもニッチが残されてきたという。ただし、国や分野によって微妙な違いがあることも指摘される。

  このほか編集と印刷の電子化によるコストの削減や、学術書や教科書を電子化・電子的頒布する実験的試みが紹介されている。紹介されている実験的試みは17年後のBook Warsでは言及されていないので、上手くいかなかったということなんだろう。

  以上。もはや最新情報ではないものの、20世紀末の英米の学術出版の動向が整理されていてためになる。頁数は480頁ありとても長い。
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