ダンカン・ワッツ『スモールワールド・ネットワーク: 世界をつなぐ「6次」の科学 / 増補改訂版』ちくま学芸文庫, 辻竜平, 友知政樹訳, 筑摩書房, 2016.
ネットワークの科学黎明期のドキュメント。著者の別の書籍(参考)をかつて紹介した。著者はいつからか「社会学者」を名乗るようになっているが、駆出しの頃はどちらかと言えば理系の立場でネットワーク研究をやっていて、そもそも学部の頃は物理学を専攻していたとのこと。原書はSix degrees: the science of a connected age (W.W.Norton, 2003.)で、邦訳が2004年に阪急コミュニケーションズから発行されている。ここで紹介する文庫版は、2004年の原書paperback版をもとにしたもので、新たな章が追加されている。
前半は、著者の研究歴を紹介しつつこの領域の理論の進展について伝えている。後半は応用編で、新たなコンセプトを付け加えつつモデルをチューニングし、ネットワーク分析が適用可能な領域をざっと見渡す、という内容である。著者の業績を知る上で重要なのは前半である。服従実験で有名なスタンレー・ミルグラムのもう一つの研究──「六次の隔たりを経れば誰にでも手紙を届けることができる」──を説明できる数学モデルをまず作った。そしてこのモデルに汎用性があることを示される。ただし、ライバル研究者も別の強力なモデル(スケールフリー・ネットワーク)を打ち立て、お互い切磋琢磨しているとのこと。後半はトヨタ自動車の事例も出てくる。
新しい領域が起ちあがってゆく際の興奮と熱狂を伝える記録としては面白い。だが、説明は分かり難いし、古いしで、この分野の入門書としてはもはや適切ではないと思う。読者の誰もが、リンクの設定と活性化という抽象化した関係だけでどの程度「社会」が理解できるのだろうという疑問を持つはずだ。一応、本書の後半ではもう少し変数を加えた分析が試みられているが、まだまだという印象である。もっと最近の入門書ならば、きっとその後の進展が伝えられていることだろう。
ネットワークの科学黎明期のドキュメント。著者の別の書籍(参考)をかつて紹介した。著者はいつからか「社会学者」を名乗るようになっているが、駆出しの頃はどちらかと言えば理系の立場でネットワーク研究をやっていて、そもそも学部の頃は物理学を専攻していたとのこと。原書はSix degrees: the science of a connected age (W.W.Norton, 2003.)で、邦訳が2004年に阪急コミュニケーションズから発行されている。ここで紹介する文庫版は、2004年の原書paperback版をもとにしたもので、新たな章が追加されている。
前半は、著者の研究歴を紹介しつつこの領域の理論の進展について伝えている。後半は応用編で、新たなコンセプトを付け加えつつモデルをチューニングし、ネットワーク分析が適用可能な領域をざっと見渡す、という内容である。著者の業績を知る上で重要なのは前半である。服従実験で有名なスタンレー・ミルグラムのもう一つの研究──「六次の隔たりを経れば誰にでも手紙を届けることができる」──を説明できる数学モデルをまず作った。そしてこのモデルに汎用性があることを示される。ただし、ライバル研究者も別の強力なモデル(スケールフリー・ネットワーク)を打ち立て、お互い切磋琢磨しているとのこと。後半はトヨタ自動車の事例も出てくる。
新しい領域が起ちあがってゆく際の興奮と熱狂を伝える記録としては面白い。だが、説明は分かり難いし、古いしで、この分野の入門書としてはもはや適切ではないと思う。読者の誰もが、リンクの設定と活性化という抽象化した関係だけでどの程度「社会」が理解できるのだろうという疑問を持つはずだ。一応、本書の後半ではもう少し変数を加えた分析が試みられているが、まだまだという印象である。もっと最近の入門書ならば、きっとその後の進展が伝えられていることだろう。