熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

国立名人会・・・小三治の「千早振る」

2018年01月07日 | 落語・講談等演芸
   正月の国立名人会は、2日から毎日やっていて、7日は千穐楽。
   東京に住んで居れば、毎日でも行きたいのだが、今年は三が日はまずダメで、4日と5日は箱根へ行き、6日は国立能楽堂に行ったので、この千穐楽の、小三治の高座を聞きたくて出かけて行った。
   勿論、チケット取得は30秒の勝負で、大変であった。

【7日(日)1時】の公演プログラムは、次の通り。
寿獅子  太神楽曲芸協会
落語 「 謎のビットコイン」 柳家花緑
奇術    ダーク広和
落語 「豊竹屋」       古今亭志ん輔
漫才    すず風にゃん子・金魚
落語  「松山鑑」      林家正蔵
       ~仲入り~
落語 「身投げや」     五街道雲助
落語 「親子酒」       柳家小さん
紙切り   林家正楽
落語 「千早振る」     柳家 小三治

   今回は、小三治は、市井の我々の世界には縁のない「記憶にございません」と言う言葉が、昨年から現れ始めたなどと、知っていることを知らないと言う世相を揶揄しながら、短いマクラで切り上げて、「千早振る」を、たっぷり、30分語った。

   「千早振る」は、「百人一首」の在原業平の「ちはやふる神代もきかず竜田川からくれなゐに水くくるとは」を、奇天烈な解釈で笑い飛ばすと言う噺で、
   「先生」と呼ばれている隠居に、八五郎が、娘に小倉百人一首の在原業平のこの歌の意味を聞かれて答えられないので聞きに来たのだが、全く知らない隠居が、相手の無学を良いことに、苦し紛れに口から出まかせ、いい加減な物語をでっちあげる。

   女断ちをして5年の修業の後大関に上り詰めた「竜田川」が吉原へ行って、花魁の「千早」に一目ぼれしたが、千早に力士は嫌いだと振られて(「千早振る」)妹分の「神代」も嫌だときかない(「神代も聞かず竜田川」)。
   落胆した竜田川は力士を廃業して、実家に戻って家業の豆腐屋を継ぐ。5年後、成功した竜田川の店に零落して女乞食に身を持ち崩した千早太夫が訪れて来て「おからをくれ」と言ったので、激怒した竜田川は、千早を思い切り突き飛ばした。千早は吹っ飛んでしまい、井戸に落ちて死んでしまう(「から紅(くれない)に水くぐる」)。
   八五郎は、大関が失恋くらいで廃業するかとか天下の花魁が乞食になって地方を彷徨うかと言ったり、おかしいと思って抗弁するのだが、隠居に押し切られるので、それでは最後の「とは」は何だと突っ込むと、隠居は、とっさの苦し紛れに、千早は源氏名で、彼女の本名が「とは(とわ)」だと逃げる。
   竜田川を川と思うか、そう思うのが畜生の浅ましさ・・・と大上段に振り被って、隠居の奇想天外な講釈が展開されるのだが、いくら無学と言っても半信半疑で聞きながら、チャチャを入れながらの二人の会話を、至極真面目な調子でユーモアたっぷりに語る小三治の語りが、実に味があって面白い。

   おからを渡そうと零落した千早太夫を見た時に、”互いに見交わす顔と顔・・・”
   このところに差し掛かると、小三治はあらたまって、口調のトーンを変えての名調子、
   私など、仮名手本忠臣蔵の七段目の寺岡平右衛門の台詞を語り始めるのかと思って聞き耳を立てたら、浪花節・・・
   それに、投げ飛ばした千早太夫が、何も食べていないので、風船のようにあっちこっちにぶつかって飛びまわると言う話も面白い。

   この「千早振る」は、2年前のこの小三治の名人会で、桂文楽で聞いており、面白かったのを覚えている。
   また、Youtubeで、小三治の「千早振る」が見られるが、少し若い頃の動画で、雰囲気が大分違っていて興味深い。

   千早(ちはや)ぶる 神代(かみよ)もきかず 龍田川(たつたがは)
   からくれなゐに 水くくるとは
      在原業平朝臣(17番) 『古今集』秋・294
   と言う歌だが、百人一首講座によると、現代語訳は、
   さまざまな不思議なことが起こっていたという神代の昔でさえも、こんなことは聞いたことがない。龍田川が(一面に紅葉が浮いて)真っ赤な紅色に、水をしぼり染めにしているとは。
   因みに、この舞台の竜田川は、奈良県生駒郡斑鳩町竜田にある紅葉の名所だと言う川で、JR王寺駅から、奈良交通バスに乗って竜田大橋で下車と言うから、法隆寺のすぐ近くである。
   余談だが、このような真っ赤な紅色の紅葉は、奈良や京都では見たが、欧米や関東に移り住んでからは、一度も見たことがない。
   
   
   
   
   
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする