熟年の文化徒然雑記帳

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PS:ジョセフ・ナイ「アメリカは孤立主義に逆戻りしているのか? Is America Reverting to Isolationism?」

2023年09月07日 | 政治・経済・社会時事評論
   ジョセフ・ナイ教授が、大統領選挙を前にして、アメリカのリベラル国際主義の退潮に危機感を感じて、Is America Reverting to Isolationism?を投稿した。
   米国大統領予備選シーズンの最初の共和党討論会を受けて、2024年の共和党の勝利が米国主導の世界秩序にとって何を意味するのかを心配するのは十分な理由がある。 歴史は、アメリカ人が縮小退却方針を受け入れると、リベラルな国際主義の原則だけではなくそれ以上のものが、危機に瀕することを示唆している。と言うのである。

    来年の米大統領選挙の共和党候補者による最初の討論会では、外交政策をめぐる大きな亀裂が明らかになった。 前副大統領マイク・ペンスと元米国国連大使ニッキー・ヘイリーがロシア侵略戦争における米国のウクライナ支持を擁護する一方、フロリダ州知事ロン・デサンティスと実業家のヴィヴェク・ラマスワミは懐疑的な姿勢を表明し、ドナルド・トランプは、米国の紛争への関与に反対している。
   世論調査によると、一般共和党員も候補者と同じように意見が分かれている。 このため、2024年に孤立主義の共和党が勝利すれば、第二次世界大戦終結時に確立された米国主導の国際秩序にとって転換点となる可能性があるとの懸念が生じている。と言う。

   歴史的に、アメリカの世論は外向的と縮小的の間で揺れ動いてきた。 1930 年代の孤立主義の悲劇的な結果を目の当たりにしたフランクリン・D・ルーズベルト大統領は、1944 年のブレトン・ウッズ制度と 1945 年の国連創設で最高潮に達するプロセスを開始した。その後、ハリー・トルーマン大統領の戦後決定により、恒久的な 同盟と海外における継続的な米軍の駐留が確立された。 米国は1948年のマーシャル・プランを通じて欧州再建に多額の投資を行い、1949年にNATOを創設し、1950年に朝鮮で戦った国連連合軍を主導した。
   これらの行動はソ連の権力を封じ込めるための現実主義的な戦略の一環であった。しかし、封じ込めはさまざまな方法で解釈され、その後、アメリカ人はベトナムやイラクのような発展途上国への介入をめぐって、党派的な激しい議論を交わしたが、介入の倫理が疑問視される一方で、リベラルな制度的秩序を維持することの価値については、それほど議論の余地はなかった。 リベラルな国際主義の「幸いな曖昧さ」のおかげで、リベラルな国際主義はイデオロギーの硬直化に屈することはなかった。

    しかし、2016年の大統領選挙では、1945年以降の同盟や制度は米国を犠牲にして他者に利益をもたらしてきたというトランプの主張は、多くの有権者の共感を呼んだ。 確かに、彼のポピュリズム的な訴えは米国の外交政策に対する攻撃以上のものに基づいていた。 彼はまた、グローバリゼーションと2008年以降の大不況によって引き起こされた経済的混乱に対する広範な怒りを利用し、人種、女性の役割、性同一性に関する二極化する文化の変化を利用した。 しかし、トランプは、経済問題の原因を「メキシコや中国などの国との悪い貿易協定や、仕事を求めて争う移民」のせいにすることで、排外主義者の怒りを米国の外交政策に結びつけることに成功した。
   この公式を適用したのはトランプが初めてではない。 現在のポピュリズム的な対応の前例は 1920 年代と 1930 年代にあり、 今世紀初頭の 20 年間に 1,500 万人以上の移民が米国にやって来たが、多くの白人アメリカ人の間に、移民に圧倒されつつあるのではないかという不安が広がり、より古くより均質なアメリカを維持するために、国家起源法の制定を推進した。 同様に、2016 年のトランプ大統領の選挙は、1960 年代以来発展してきた深い人種的、イデオロギー的、文化的な亀裂を引き起こしたというよりも、それを反映したものであった。多くのアナリストは、米国の縮小が1930年代に悩まされたような国際的混乱を引き起こす可能性があると懸念しているが、トランプ支持者らは、トランプ政権のあまり寛大ではなくより強硬な姿勢が国外のより大きな安定と国内の支持を生み出したと主張している。 いずれにせよ、トランプの当選はリベラルな伝統からの明らかな転換を示した。

   アメリカは、1930年代のような本格的な孤立主義が起こる可能性は非常に低いが、多くのアナリストは、ウクライナ支援の失敗が米国の縮小への逆戻りを示し、国際秩序の深刻な弱体化を予感させる可能性があると依然として懸念している。 プーチン大統領の侵略は国連憲章のあからさまな違反であった。 もしロシアがウクライナ領土の占領に優勢なら、国境を変更するための武力行使を禁じる自由主義の原則が損なわれることになる。 したがって、ウクライナへの制裁の適用と軍事装備の供給におけるNATO諸国間の団結は、道徳的であるだけではなく、実際的かつ現実的でもある。
   ウクライナの結果は、ヨーロッパとより広い世界の将来に深刻な影響を与える。 プーチン大統領と習近平国家主席は侵攻直前に「無制限」の協力関係を結んだが、中国はこれまでのところ、ロシアへの物的支援の提供には慎重である。 中国の指導者らは間違いなくプーチンのリスクテイクを懸念しており、この同盟が中国のソフトパワーにとってあまりにも高くつくことを懸念している。 しかし、プーチンが優勢であれば、中国はそのようなリスクを取ることが報われると結論付けるかもしれないが、その教訓は世界の他の国々でも失われることはないであろう。

   アメリカには、ウクライナ支援には重要な国益がないと主張する人たちは、歴史に目を覆い隠している。 そんな素朴単純な(悪意ではないにしても)考えの候補者なら、大統領の座を目指す資格を剥奪すべきである。

   以上が、ジョセフ・ナイ教授の論旨だが、アメリカが、2024年の大統領選挙で、トランプなり共和党候補が勝利して、ウクライナ戦争への関与否定など後ろ向きの縮小政策をとることになれば、これまで国際秩序の平安を維持していたリベラルな国際主義が窮地に陥ると言う危機意識の表明である。
   私の訳文は不味いかも知れないが、この結文が胸に響く。
   Those arguing that America does not have an important national interest in helping Ukraine are wearing historical blinders. Their naivete (if not bad faith) should disqualify them from seeking the presidency.

   ウクライナ戦争で、ウクライナが負けてロシアが勝利すれば、一気に、中ロの独裁的専制国家主義勢力が勢いを増し、自由な資本主義体制を蚕食して民主主義の危機を招くのは必定、
   是が非でも、ウクライナを勝利に導いて、西側の民主主義体制を死守しなければならない。
   その音頭を取るのがアメリカ。リベラルな国際主義を堅持すべきであって、孤立主義や後ろ向きの縮小外交など、絶対に許されない。と言うことである。

   覇権を失ったとは言え、アメリカは依然として世界に冠たる超大国、
   ウクライナを助けるか撤退するか、
   2024年の大統領選挙が、世界秩序の維持と国際平和の帰趨を決する。
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1 コメント

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Unknown (mac68615)
2023-09-07 13:45:35
その決定権は勿論アメリカの国民に委ねられていて、本当に民主主義が正常に働くのか、利己的な判断が世界的な破滅の起因になってしまうのかが気になります。
なにしろ2016年にアメリカにいた私は当時周りにトランプ支持者がいるのだと気付いて怖くなりました。

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