熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

マーティン・フェルドシュタイン ・・・米国経済下降時に高まるリスク

2018年01月30日 | 政治・経済・社会
    マーティン・フェルドシュタイン教授が、プロジェクト・シンジケートに、”The Heightened Risks of a US Downturn”を寄稿した。
   米国経済は、過去50年間に9度の不況を経験している。現在の状況を過去よりも異常にし、更に憂慮すべきものとしているのは、短期金利が低レベルにあり、連邦債務が高く増加傾向にあることで、次の不況に対処するために必要な経済的刺激をなし得る政策者能力を削いでしまっていることである。と説いている。
   しかし、米国経済の不況について言及しているのではなく、現下の情勢では、次の不況時には対応が極めて限られてしまっており、大変だと警告しているのである。

   経済拡大への最大のリスクは、財政部門の脆弱性である。過去10年の異常な低金利によって、資産価格を異常に高騰させ、10年国債の実質利回りはゼロで、S&P500の株価収益率は歴史的趨勢より70%高い。資産価格などこれ等が、歴史的水準に戻った時には、投資家は、10兆ドルの損害を被り、消費者支出や企業投資の暴落を惹起する。
   経済活動は、朝鮮問題、高まる貿易戦争、米国の政治情勢などの国際的混乱の結果からも、スローダウンする可能性もある。
   と、現状の米国経済について、過熱気味であり、楽観はしていない。

   フェルドシュタインは、これまでFRBは、通常、不況の時には、短期国債の金利を切り下げるなどで対応してきたと説明した後で、
   先ごろ、資産や不動産投資を誘発するために長期金利を下げるべく実施して来た、最近の異常な金融政策や国債の購入などの政策は、金利が低水準にあるかぎり、期待した刺激的効果があったかどうかは明確ではない。として、
   次の不況の時に経済を刺激する責任は、財政政策、すなわち、税制改革と財政支出となる。と説いている。

   税については、一時的な個人所得の減税は、債務返済や貯蓄に回って経済刺激効果は薄いので、長期的減税であるべきで、2017年減税は、やや長期なので期待でき、次の不況時には、減税恒久化の好機である。と言う。

   次の不況対策は、政府支出の増加である。
   オバマ政権時には、はかばかしく進まなかった所為もあり、あらゆる分野のインフラ投資の増加については、今や、超党派でサポートされている。
   現在、議会もホワイトハウスも、インフラプロジェクトを準備中であり、次の不況時には、その計画を実施すべきである。と言う。

   もう一つの経済刺激策は、軍事支出の増加である。
    Budget Control Act of 2011で、軍事支出が、2012年のGDP比4,3%から、2023年GDP比2,8%に減額することになっているが、国家安全上、これでは非常に危険なので、軍事専門家も論じているように、GDP比4%以上に引き上げるべきである。と言う。

   現在、GDP比77%で、次の10年後にはGDP比97%に達すると言う国家債務の水準では、減税も財政出動も、非常に難しくなる。
   しかし、FRBに殆ど打つ手がなくなってしまった現状で深刻な経済不況に直面すれば、議会にも、選択の余地が殆ど残っていない。
   したがって、将来財政出動が必須となることを見越して、米国は、早急に、国家債務の増加をダウンさせる戦略を打ち出さなければならないことは明白である。
   これこそが、実際に経済が必要とする拡大財政政策を実施できる余地を残す唯一の方策である。と結んでいる。

   FRBの金融政策が殆ど作動しなくなった現状では、次の不況下での経済刺激策は、減税と財政支出の発動に頼らざるを得ない。
   しかし、国家債務が異常に高くなってしまった以上、減税も財政出動も非常に難しくなってきているので、早急に、国家債務を、可能な限り削減しなければならない。
   と言うのが、フェルドシュタインの論旨であろうか。

   ケインズ経済学の焼き直しだろうが、それでは、国家債務の削減には、どうすればよいのか。
   これは、成熟経済化してしまった日本でも、西欧先進国でも直面している深刻な問題だが、要するに、減税して財政支出せよと言うのであるから、原資が限られてしまえば、ない袖は振れないので、極端なインフレ以外には、経済成長を策する以外に道はない。

   宇宙船地球号が、限界に達しつつある現在、経済成長を論ずるのには問題が多いのだが、地球に優しい持続可能な経済成長が可能なはずであろうから、窮鼠猫を食む心境で必死になって、これに向かって対処すべきではなかろうか。

   それは、それとして、トランプが、必死になって、アメリカ ファーストと言って、効果があるかどうかは兎も角、アメリカ経済の再生を策している。
   フェルドシュタインは、トランプの連邦法人税率の大幅減税が、吉と出るか凶と出るかについては、前の論文Cutting US Corporate Tax Is Worth the Costで、効果あると好意的に見ているのだが、
   私は、今までに、アメリカでは、減税による経済成長効果は殆どなかったと言う説をどこかで読んだ気がしており、結果的には、トランプの大型税制改革は、経済成長を期待通りに誘発できずに、大幅な財政赤字を惹起して、国家債務の増加を引き起こすような気がしている。
コメント
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