熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

立川談志著「立川談志 狂気ありて」

2017年01月26日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   正月に、WOWOWで、立川談志の落語を特集して放映していたので、ちらちら、見ながら、12回分録画した。
   まだ、見ていないが、楽しみにしている。
   主に、国立演芸場に通い始めて、本格的に落語を楽しむようになったのは、5年ほど前からなので、残念ながら、談志の高座を聞いたことがない。
  NHKなどの談志関連ドキュメンタリを見たり、弟子の志の輔や志らく、談四楼、談春などの落語を聞くだけでも、大変な落語家であることが分かるのだが、特に、談春の「あかめだか」を読んで、そして、テレビドラマを見て、非常に、興味を感じた。
   談志の本は、結構出ているのだが、最後の書下ろしと言うことなので、この本を選んだ。

   本を書く理由は、当然くる人生の終焉に対する己が身の「整理」である。立川談志の人生は、全て言い訳」と言っていい。立川談志の思い出と言う名の未練を書き残しておく。と、まえがきに書いている。
   資料を見ずに、パソコンを使うのでもなく、記憶だけを頼りにして、気の向くまま、思いつくままに、筆を進めたと言うのだが、その記憶力の良さと豊かさに舌を巻く。
   私には、談春の「あかめだか」の方が面白かったが、とにかく、アイロニーと諧謔に満ちた、斜めに生きた談志の人生への愛おしみと思い入れが、迫ってきて、楽しい。

   まず面白いのは、
   私は収集家だから種々な品がある。エジプトで買った「クレオパトラ」とサインしてあるクレオパトラの「張り型」を島田紳助が司会するテレビ番組、鑑定する番組から頼まれたとき、これを出すとと言ったら断られた。
   他にも、千利休の使ったコーヒーセット、カポネが持っていた花札、弘法が選んだ筆、雷が締めていた皮の褌、あるぞォ、・・・と言うくだり。
   嘘か本当か分からないが、よく、振り込め詐欺にひっからなかったものと思う。

   練馬の家を買うときに、大平正芳蔵相に、金を借りに行き、3000万円借りたが、利子がついているので、今まで、誰にも金を借りたことがないし、江戸っ子が借りに来ているのに、利子が付く金ならどこからでも借りられると文句を言ったら、「悪かった、いやネ、利子を付けないと君のプライドにさわると思ったんだ。」
   お見事、参った。・・・私の知る総理では、麻生太郎が一番ギャグが分かった。と言う。

   談志の貴重な人生訓は、”下っているときはドカンといく”という「博打理論」。
   自分が下っているとき、つまり落ち目のときにゃ、”ドカンと張らないと勝てない”と決めている。
   妻が株で擦ったときも、フロリダの豪華船で娘が負けたときも、大きくドカンと張って取り戻したし、選挙のときも、不利な自分を見て”ドカンと張れ”で金を使ったし、妻が子宮がんのとき、最高の部屋に入れて六か月いたが、奇跡的に良くなった。と言う。

   落語協会を出た時のことを、「小さん・談志の喧嘩」ではない、と、二人は親子のような間柄で、師匠の”名前だけでも協会に残しておけよ”に、他の弟子どもが反対し、協会を出るようになった。小さん師匠も承知の上で飛び出し、寄席以外に活路をを見だす覚悟だった。師匠は第三の協会を作るのに賛成。倅の三語楼を連れていきますよ、頼む・・・と言う経緯もあったと、語っていて興味深い。

   この本には、談志が、結構あっちこっちへ海外旅行をした思い出が、書かれていて興味深い。
   個人的な旅行も多いようだが、代議士の時の海外視察旅行もあろうし、エジプトやナイロビなど変わったところで落語をやっているのは日航名人会のようだし、バチカンでヨハネ・パウロ二世に面会した写真も掲載されているし、ユーゴスラヴィアで、紋付袴姿でタクシーに乗って事故にあって三回転したとか、トレビの泉で、酔って〇〇したとか、・・・
   アフリカにも結構行っていたようだし、とにかく、遭遇したカルチャーショックの数々が面白い。
   
   山ほどあるソビエトジョークと言った調子で、あっちこっちで、小話やジョーク話を披露していて、これが、実に面白い。
   短いのでは、
   酔っ払いが公園を歩いていた。若者が”腕立て伏せ”をやっている。酔公がこれを見て、
   「オーィ、女ァ何処に行っちゃったんだ・・・?」

   この本は、談志の自伝であって、生きざまを語っているので、談志の落語哲学とか芸術論は、殆どない。
   しかし、本人も「波乱万丈の人生」と言っているように、想像を絶した破天荒で爽快な人生を、「エゴの塊のような気狂いが老いた」と言う老境に達して綴った備忘録と言った自伝であって、実に示唆に富んでいて面白い。
   不世出とも言うべき芸人のどろどろしながらも爽やかな語り口がほろっとさせる。
   録画した談志落語集を、じっくりと鑑賞させて貰おうと思っている。
   
   
コメント
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