熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ボッカッチオ「デカメロン」

2024年04月11日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   ボッカッチョ (著), 平川 祐弘 (翻訳)の「デカメロン」を読んだ。

   講談社BOOK倶楽部の、田辺聖子の「ときがたりデカメロン」の内容紹介が、「デカメロン」を的確に説明しているので、そのまま引用すると、
   悪党、若妻、修道僧、騎士などの多彩な人物がおりなす性と笑いの物語。大胆に官能を楽しむ笑いと愛の物語ーー機知ある悪党、不倫の若妻、女色にふける修道僧、強情が仇となる人妻、悲恋の王子と王女、復讐された高慢な未亡人、自分に克った聡明な老王など、多彩な人物が、人間の欲望を大胆に肯定し、愛と正義の与える不思議な力で、官能的生を楽しむ永遠の名作。男女のリアルな生活とその美醜をあますところなくとらえ、機智と哀歓に満ちた一幕として明るい笑いとともに、人間性を開放した、ルネサンス期の傑作の楽しい物語。当代随一の作家が、美しい言葉で面白く説き語る愛の物語集。永遠に新鮮な古典の親しみやすい説き語り。
   と言うことで、まだこの本は読んでいないが、平川版のこの本で、頻繁に引用されて居るので興味を持った。

   平川版も、
   世界文学の金字塔! 待望の新訳決定版、ついに完成! いま、清新なルネサンスの息吹が甦る!
   ペストが猖獗を極めた十四世紀イタリア。恐怖が蔓延するフィレンツェから郊外に逃れた若い男女十人が、おもしろおかしい話で迫りくる死の影を追い払おうと、十日のあいだ交互に語りあう百の物語。人生の諸相、男女の悲喜劇を大らかに描く物語文学の最高傑作が、典雅かつ軽やかな名訳で、いまふたたび躍動する。挿画訳60点収録。
   と言うことで、この本は、2012年刊で休刊であるが、今文庫版がでている。
   平川祐弘教授のダンテ「神曲」や「神曲講義」などを読んで興味を持っていたので、文句なしに、800㌻に及ぶ平川版に挑戦することにした。

   前述したような艶笑談が、最初から最後まで、次から次へと100篇繰り広げられるのであるから、面白いと言うよりも、その話題の豊かさと凄まじさに圧倒される。
   語り手すべてが、バージンで結婚する乙女など一人もいないと言うほどオープンなルネサンス初期のイタリアの人生模様の描写であり、生きる喜びを愛に託して謳歌するために、人々の智慧と機転を利かせての手練手管の数々、
   一つ一つの話題が短いながら、独立した短編小説の趣なので、それぞれに興味をそそる。

   ところで、この本の話題は、どれもこれも、愛の交歓、恋の鞘当て、愛憎劇など男女の物語で、プラトニックラブや片思いと言った柔な話はなく、必ずコトに及ぶのだが、描写は極めてシンプルで、嫌みがなくて、ボッカッチオの筆捌きの鮮やかさで、クスリと笑いを誘う程度である。
   前世紀に日経新聞の渡辺淳一の「失楽園」を読み始めて、その性描写の凄まじさにビックリした記憶があるが、それから見れば、この「デカメロン」など温和しくて、発禁本などと言えるジャンルの作品ではない。
   
   第二日第七話に、バビロニアのサルタンの娘アラティエルをアフリカのガルボ国王の花嫁として嫁がせるせる話がある。
   ところが、航行途中で船が難破して、言葉も通じない異国に辿り着き城主に助け出される。貞操観念が強かったが、宴会でたしなみを失って城主と契る。その時の描写が、「城主は女と愛の楽しい営みを始めた。女はそれを感じた。それまで男がどんな角で女の体を突くのかアラティエルは知らなかった。それなものだから、ひとたび醍醐味を味わうと、なぜ今まで男が言い寄った時、もっと早く同意しなかったのかと悔やまれたほどであった。」
   途中は省略するが、アラティエルはあまりにも美しすぎたので、それが知れ渡って、次から次へと略奪、拉致されて不幸に遭遇し続ける。
   しかし、最後には、「4年間に8人と一万回ほど共寝した姫であったが、国王の脇に処女として横になり、そのとおり国王に思い込ませて、王妃として末永く幸多く国王と連れ添った。」と言う話。

   面白いのは、邪恋であろうと不倫の愛の交歓であろうと何であろうと、愛が成就したハッピーエンドの艶笑話の最後には、
   「神様、私たちにも同じように愛の楽しみを存分にお与え下さいませ。」と結んで、皆も同意する。

   ところで、このデカメロンだが、エログロナンセンスの悪書だと思われている向きもあるが、決してそうではなく、ダンテの「神曲」の対極にある愛を主題にした世俗小説であって、
   私など、実業でビジネスに活躍したボッカッチオの見た地中海世界や知見で蓄えた当時の勃興期のヨーロッパの様子が垣間見えて興味深かった。
   しかし、面白いが、このような艶笑談を、延々と続けられると、途中で飽いてくるのは必定で、これも人情かも知れない。と思う。
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