浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

【本】黒岩比佐子『忘れえぬ声を聴く』(幻戯書房)

2017-01-21 23:01:35 | その他
 黒岩比佐子の本、『パンとペン 社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い』(講談社)しか読んだことはない。しかし、それを読み終えたとき、掛け値なく名著の部類に入ると思った。取材力も文章力も卓越していると思った。女性の書き手には、梯久美子はじめすごい人が出てきているようだ。

 黒岩の本は、他の本も読まなければならないと思っていた。図書館で検索したらこの本がでてきた。短文の寄せ集めで構成されたものである。なるほど文章力はいうまでもなく、観点がよい。それにいろいろ教えてくれる。すべてに味があるのだが、中でも「武林無想庵ー稀代の美男にして、コキュ」、「池辺三山」、「日本を愛した外国人たち」、「本で感じる「父と子」の関係」、そして管野すがについて書いたもの。

 武林は辻潤との交遊もあった人物。この武林についてはいろいろ調べようと思っているから参考になった。池辺三山は朝日新聞にいた人、漱石を朝日に招いた人である。その関係を書いているのだが、これもなかなかよい。「日本を愛した外国人」は、日本に来て日本が好きになった外国人のその体験を書いた本の紹介であるが、すべて読みたくなった。それぞれの時代の日本を理解するためには、外から見た日本について知ることも大切だと思ったのである。「本で感じる「父と子」の関係」は、作家の父をもった子どもが、その父のことを書いた本の紹介である。それぞれ読み応えのありそうな本が並んでいる。これらもすべて読みたくなった。

 管野すがは、大逆事件で国家権力によって殺された女性だ。殺されたときは、29歳。幸徳の妻となった女性である。短い人生ではあるからかもしれないが、生が凝縮されているように思う。もちろんもっと自然に長生きができたら、もっとすごい人生を送っていたかもしれないが。

 過去に生きた人びとがどう生きたのか、歳を重ねてくるとどうも気にかかる。今まで生きてきた人生と、これから生きられる人生は、おそらく後者の方が短い。みずからの生を哀惜するからこそ、過去の人の生が気にかかる。

 いうまでもなく、良い本である。
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