11月22日(木)、新橋演舞場で『犬神家の一族』を観て来た。なんと、この作品が新派の舞台で演じられたのだ。
横溝正史の著作は中学生時代から愛読してきた。『八つ墓村』・『悪魔が来りて笛を吹く』・『犬神家の一族』・『本陣殺人事件』・『獄門島』など、そのおどろおどろした題名とともに懐かしく思い出す。昭和20年代から30年代にかけては貸本屋全盛の時代だった。街には多くの貸本屋があった。本が安く借りられることもあり、中学生だった私はそこへ足繁く通った。取分け、江戸川乱歩と横溝正史をよく借りた。母に発見されないように隠れて読んだ。
『八つ墓村』は東映映画になり、「五反田東映」まで観に行った。確か金田一耕助役は片岡千恵蔵で、洞窟内で鉄砲を撃ち合う場面があったと記憶している。『犬神家の一族』は市川崑監督によって映画化され、金田一役を石坂浩二が演じ、一世を風靡し大ヒットした。テレビドラマでは古谷一行がやってお茶の間の人気番組となるなど、何度もドラマ化されてきた。舞台でも演じられたらしいが観たことはなかった。
新派11月公演の『犬神家の一族』のチケットがありますとの連絡を頂いて、妻と私は小躍りした。妻にも興味津々たる舞台化だった。しかし、当日、妻にはカルチャーでの講師役があり、22日に行くこと能わず。そこで、中学時代のクラスメイト馬場さんと二人、演舞場の二階の前から4番目の席で観劇したのだった。
新派でこの作品が上演されなかったのは、金田一役の役者がいなかったからと説明されていた。その役を演じたのは喜多村緑郎。2年前、猿翁の弟子だった市川月之助は歌舞伎界を去り、二代目喜多村緑郎を襲名し、新派に所属することとなった。その襲名披露『婦系図』も頂いたチケットで観た(2016/9/14のブログ)。背の高いイケメンで、新派にも喜多村にもベストの転向と思われたようだ。その喜多村を主役にしての『犬神家』。
ストリーは書くまでもないだろう。
物語の鍵を握る琴の師匠を水谷八重子。
犬神家の三姉妹は、長女の松子を波乃久里子、次女の竹子を瀬戸摩純、三女の梅子を河合雪之丞。
佐清と青沼静馬の二役をゲストの浜中文一、橘警察署長を佐藤B作。全ての財産を相続出来そうな野々宮珠代を春本由香と河合宥季のダブルキャスト。
スピーディーな舞台展開で面白く観た。ただ、おどろおどろしさは薄かった。本や映画・ドラマだと目の前で惨劇が繰り広げられるのに対し、2階からの観劇だったこともあり、一歩退いた視点から観たからかも知れない。
原作で忘れられないシーンが2つあった。”波立つ水面から突き出た足”とゴムマスクを脱いだときの主人公の顔のむごさだ。湖面からの足を舞台ではどんな風な仕掛けで見せるのかに興味があった。花道に足が二本にょきつと出て、本当に人の足の様に見えたが、それも一瞬で照明はすぐさま舞台へと切り替えられた。双眼鏡を使用してマスクを脱いだ時の顔を見ようとしたのだが、顔の惨さははっきり見えなかった。
この作品の発表の記者会見で、横溝作品こそ新派に相応しいとの発言があったらしい。今後『八つ墓村』などの横溝ミステリーを新派で是非観てみたい。
今日の二葉:東大本郷キャンパス正門附近