塔12月号の作品2から、好きな歌いくつか。(作者名:敬称略)
この町に父が生まれた家はあり門の芭蕉を知るひとに会う 高原さやか
眠ることまたあきらめて腰椎の三番ゆるむまで聴くバッハ 黒沢梓
治らぬもの少しづつ増える我が体いのち継ぐもの遺さぬままに 加茂直樹
ヴァイオリンの音にわたしは駈けてゆく記憶の底の疎林の霧を 中田明子
中田さんのこの一首に私は東京平日歌会で初めて出会い、たちまち惹かれた。作者は、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番ハ短調第2楽章のこの上なく美しく柔らかなヴァイオリンの音色を想像しながら詠まれたらしい。ラフマニノフは、この第2楽章の美しい音楽を故郷イワノフカ村での幸せだった幼き日々を思いながら書いたというが、作者はもしかしたらラフマニノフとして生きられた前世記憶を遠くかすかにお持ちなのかもしれない。そんなことも想像してしまう一首だ。
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