都市徘徊blog

徒然まちあるき日記

日比谷三井ビル

2013-03-13 | 千代田区 
日比谷三井ビル
所在地:千代田区有楽町1-1
建設年:1960(昭和35)
構造 :SRC
階数 :9F、B5F
2011年解体
Photo 2010.9.15

 モダンな大規模オフィスビル。

 こういう建物ってむずかしい。様式建築的な装飾が全くないので、建築にさほど関心のない人にどう説明したものか困る。ネガティブに言えば、なんの変哲もない、退屈なビルだ。無機質で冷たい印象とか、機能優先とかいうことになる。

 でもそれらの言葉を全てひっくり返しに言うと、良い方にも言える。一見、地味だが、派手に装飾されておらず、街並みに調和した、洗練されたモダンデザイン。冗長でなくクールで合理的な建物。

 建物を見るとき、多くの人は目立つ装飾などに目が行きがちで、この手の渋いデザインにはあまり目を向けない。かくいう私も、この建物のディテールなどは結局撮らなかった。建築設計をやっている人なら、ディテールの収まりとか、素材とか、細かいプロポーションなども見てるのかもしれないけれど、そのへんはやはり玄人目線なので、ややついて行けない。

Photo 2009.1.18

 建設当時はかなり大きなオフィスビルとして印象的だったのかもしれないが、その後、超高層オフィスビルがどんどん建つようになると、この手のビルはよくある大型オフィスビルの一つになってしまい、やや目立たない存在になっていく。道を挟んだ北側に建っていた三信ビルは華麗に飾られたアーケード商店街を持った昭和初期の近代様式建築で保存運動も起こった。日比谷三井ビルはそれより規模も大きかったが、戦後の高度経済成長期に建てられたものでもあり、凡庸なモダニズムオフィスと思われたか、特に反対運動もなく粛々と解体されていった。

 戦前の街並み写真や絵葉書を見ると、都心のビル街は様式建築だらけだったことがわかる。現在は新古典主義建築などの様式建築は、数の上では完全に少数派で、希少価値を持つものになっているが、戦前はそうでもなかった。現在の多数派であるモダニズム建築はまだ現れ始めたばかりで、ごくごく少数派。一方、商店街などはちゃんとした様式建築ではなく、看板建築や擬洋風建築が建ち並び、出桁町屋などの和風建築も多かった。

Photo 2010.9.15

 一口に様式建築と言っても、名建築家が設計した素晴らしい様式建築もあれば、諸事情でいまいちなB級様式建築もあった。様式建築だらけの街並みの中にもAクラス建築とBクラス建築があり、下手するとCクラスもあっただろう。装飾が多く華やかに見える当時の街並みも、Aクラスの名建築だけでできていたわけではない。だが素人目にはあまり細かいことは分からない。装飾があるかないか、多いか少ないか、きれいかどうか、せいぜいその程度のものだ。

 さて、モダニズム建築になると、そのAクラスとBクラスの差が更によく分からなくなってくる。分かりやすい装飾が全くないので、装飾の有無や多寡、装飾の美醜で判断しがちな素人には、どれも皆同じに見えてしまう。突き放した言い方だが、建築デザイン教育をほとんど受けていない日本人は、建築デザインの細かい差異にはほとんど関心がない。更に言えば、極めて残念だが、そこで扱っている商品や食べ物にしか「情報価値」を見出していない人が多い。

Photo 2010.9.15

 そのような状況なので、初期モダニズム建築として相当の価値があると建築系の学会では言われていた東京中央郵便局も、某有名作家が「汚いただのオフィスで残す価値もない」などと書くことになる。有名作家といえども建築デザインに関する教養は全くないようだ。実際、メンテナンスが悪かったから最後は汚いオフィスだったけど、そうなってしまったのは、モダニズムデザインに対する無理解からだ。そこにモダニズム建築の悲劇があるかもしれない。

 つまり、モダニズムが分かりやすい装飾を中心とした芸術でないため、使い勝手や機能の視点でばかり評価され、古くなるとすぐに解体されてしまう。モダニズム建築はその出自から多分にそうなってしまう可能性を孕んでいるのかもしれない。

 話はそれるが、現代アートは難解だ。ピカソは初期はきっちりデッサンしていたが、途中からどんどん妙な絵柄になって行く。ピカソなど既に評価された人の絵画は、そういうものなのかと思うほかないが、正直言って未だになぜ素晴らしいのか分からないものもある。それでも現代アートは既に価値を持っているし、中学生でもピカソぐらいは知っている。

Photo 2010.9.15

 ピカソとモダニズム建築を並べて言うのはやや強弁かもしれないが、モダニズム建築も、難解だが建築芸術系分野では既に相応の価値があるものと考えられている。だから他の芸術分野の芸術家同様、多くの一般の人に建築家、例えばコルビジェやミース、丹下氏などを若い内から知って欲しい。建築文化に対する理解がもう少しあれば、モダニズム建築に対する接し方や扱いも変わるのではないかと思われてならない。

Photo 2011.9.7
日比谷三井ビル/有楽町1丁目 - ぼくの近代建築コレクション
Tokyo Lost Architecture
#失われた建物 千代田区  #オフィス  #モダニズム 
コメント
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