コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

職業訓練学校の視察(3)

2009-05-23 | Weblog

視察では、職業訓練学校を修復するとすればどのような計画で進めるべきか、国連工業開発機関(UNIDO)からの助言を得ることとなっている。UNIDOは、開発途上国の工業発展を促すことを目的とした国際機関である。だから、世界各地の途上国で、産業開発にかかわる沢山のプロジェクトを実施してきている。

今回の視察団にも、本部のウィーンから、専門家を数人送ってきてくれた。 その専門家の一人、シャキーブ部長は、私に次のように言う。
「たとえば金属加工技術を学ぶ、といっても、果たして地元の労働市場にそういった職人の需要が十分にあるのか、という問題があります。」

フェルケセドゥグとコルゴという、わずか50キロ離れただけの2都市に、同じような職業訓練学校が2校あって、毎年150人くらいの卒業生を出す。一方で、コートジボワールの北部地域は、もともと後進地域であったのに加えて、ここ10年来の混乱で、経済は極めて低迷している。高度な技術を習得して卒業した学生たちが、皆きちんと就職できるほどの吸収力がある経済では、まだない。

「自動車修理のコースがありますけれど、余りたくさん修理工を卒業させても、地元に彼らを受け入れる修理工場の数は限られています。北部地域では、産業開発そのものがまだ進んでおらず、地元の企業も少なく、工場といってもそれほど高度なものはありません。複雑な金属加工の技術者よりも、むしろこれからの経済復興をにらんで、建設関係の技術者、つまり電気工や大工や左官の需要のほうが、大きいのかもしれない。」
なるほど、地元の身の丈にあった職業訓練を考えなければならない、というわけである。

その一方で、たとえ遅れた北部地域であるとはいえ、これらの職業訓練学校に集う若者たちにこうして出会ってみると、みな学ぶ意欲で生き生きしている。最先端の工作機械を導入して、優れた技術に触れる機会を与えることは、彼らの夢を育てることになる。教育とはそういうものではないか、と私は反論する。
「そうですね、学生たちは学ぶ意欲に溢れている。でも、彼らの夢というのは、たいがい移民労働者になってフランスで働くことなのです。そういう移民圧力を助長するような職業訓練であっていいのか。むしろ、地域経済をよく調べて、地元の経済発展に繋がるような人材育成の計画を考えるべきだ、というふうに思います。」

それに、最新の工作機械を導入する前に、検討すべき大きな課題がある、という。それは、それを使って教えることができる教師が、学校にいるのか、という問題である。
「考えてみれば、もう10年以上、工作機械が壊れたままになっているのです。ここにいる教師たちも、ほんとうのところ工作機械を使ったことがない。そういうところに、ただ新しい機械を持ち込んでも、使われないままになるか、悪くすれば再び壊してしまいます。だから、教師の訓練がまずはじめに必要になります。」

職業訓練学校に対する協力については、建物や施設や設備といった、ハード面もさりながら、どういう職業訓練が必要なのか、職業訓練を行うための技能が教師陣にあるのか、そうしたソフト面についても、しっかり考えて手当てしていかなければならない、ということなのであろう。だから、協力案件をつくるには、工作機械の調達だけではなくて、職業訓練についての戦略立案や、教師の研修計画も、ともに策定していくことが必要である。

さて、コルゴの町を出て、南に170キロ、車で走って到着したのは、カティオラ(Katiola)という町である。ここにある職業訓練学校を訪れてみると、やはり同様に80年代以来更新されてこなかった工作機械が、壊れたまま放置してある。ただ、ここは少しこれまでと違うかな、と思った。先ほどシャキーブ部長から示唆のあったような、地元の身の丈に応じた職業訓練を目指している。

まず、学校の科目では、木工とエンジンの修理を中心に教えていた。家具を作ったり、建具を作ったりする需要は、地元にしっかりある。エンジンについての知識は、自動車の修理だけでなく、発電機や農耕器具などの操作や維持に、必ず役に立つ。さらにここでは、カティオラで盛んな窯業と縫製業の訓練のために、特別の施設を設けて職業訓練を行っている。まさに地場の産業に応える科目を教えているのである。

その方針はいいのだけれど、実際にその窯業訓練所を視察すると、ここも設備が可哀相なほど駄目になっていた。地元で豊富に採れる粘土を、精製する過程。機械は壊れていたが、手作業でも何とか大丈夫。精製した粘土を、6台あるろくろで成形する。ろくろは電動ではなく、足で蹴って回す方式だけれど、これもまあいいだろう。問題は焼成するための窯である。燃焼関係の器具の故障から、これがもう長い間動いていない。だから、訓練生たちは、粘土での造形だけで研修過程が終わる。その作品は、粘土細工のまま、並べられていた。しかし、焼くことなくして、「やきもの」の作り方を勉強したとは言えないだろう。

ともかくも、常に専門家の話には謙虚に耳を傾けることが大事だ。UNIDOの専門家は、さすがに私の早合点をたしなめてくれた。ただ物を買って渡す、というだけでは、うまくいかなくなることがあることを、UNIDOは各地で同じような案件を手がけて知っている。

職業訓練といっても、分野はたいへん幅広い。生徒たちは、学問を修めに来るというよりは、すぐに就職や収入につながるような技術を身につけようとして通ってくる。協力や支援が有意義なものとなるためには、まず、どういう職業訓練が、今のコートジボワールの経済と社会に必要とされているのかを、きちんと見定めなければならないのである。

(続く)

 工作機械を視察する(カティオラ校)

 壊れた工作機械(カティオラ校)

 工作機械を視察する(カティオラ校)

 自動車修理の教室(カティオラ校)

 カティオラ窯業研修所

 粘土の精製

 ろくろの実演

 壊れたままの窯

 生徒の作品。粘土を細工しただけ

 染付柄をデザインする


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