コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

巨木の末路

2010-04-02 | Weblog

地方の道を車で走っていると、こちらでグルミエ(grumier)と呼ぶ、丸太運搬専用の貨物トラックと、しばしばすれ違う。それらのトラックの荷台には、直径が2メートル、長さも10メートル以上にも及ぶ、巨大な原木が積まれている。およそ日本では見たこともないような、迫力のある木の塊が、次々に切りだされて、どこかに向けて運ばれている。

おそらく何百年という昔から、太古の森の中に屹立し、緑の枝を広げ、動物たちを養って来たそれらの木々は、つい数週間前に切り倒され、その生涯を終えたのである。グルミエを見るたびに、私は一本一本の巨木が見てきたであろう森の歴史を思い、何かしら冥福を祈るような気持ちになる。

これだけ巨大な原木、希少な木材であるから、その大きさを生かした何か特別な製品になるに違いない、と思っていた。角材にしても、角の一辺1メートル以上の巨大なものが出来る。どういう建築に使われるのだろうか。あるいは輪切りにするのだろうか。厚みのある原木の一枚板で、高級家具などを製作するのだろう。

サンペドロに出かけた折に、地元の製材工場を訪ねた。「S.I.B.D.」社である。この工場では、熱帯木材を加工して、主に北米や欧州向けに輸出している。
「1996年から本格操業しています。月産3,500立米の加工能力があるのですけれどね。今の世界不況で需要が落ち込んで、現在の稼働は月産1,500立米に留まっています。」
20年来ここでこの仕事をしているという、フランス人社長のジーエ氏が私を案内してくれる。

工場に入って圧倒されるのは、原材料の原木である。広大な敷地に、グルミエから下ろされた原木が、何十本と野積みになっている。
「原木は、木の種類ごとに集めてあります。あちらはフラミエ、こちらはタリ。この白い木肌はサンバルです。バディは黄色の木肌が特徴です。細かく縞目が入ったのはポプリ。まれにマホガニー系の希少資材、アカジューやイロコが届くこともあります。」
と言われても、門外漢の私には分らない。

これらの原木を、どうやって手に入れるのですか。
「伐採業者が、グルニエでこちらまで運び込んで来ます。私のところで、木の種類、大きさや密度を調べて、値段を決めて買い取ります。質のいい製品を作るには、1立米あたり300-400Kgくらいの密度が必要ですからね。」
これらの原木は、どこの森から運ばれてくるのでしょう。
「知りません。」
ジーエ社長は、そんなことが何に関係するのだ、という顔をしている。この人は、巨木の冥福をなど祈っていられないのである。

工場に入ると、製材が行われている。大がかりな機械の喧騒がすごい。先ほどの長大な原木が、一定の長さに揃えてぶつ切りにされた。そのまま機械に送り込まれて、縦に薄く、板の形に裁断されていた。ベルト状の鋸が、高速で回る。台に乗せられた原木が、鋸が走る場所を通過するたびに、決められた厚さに薄切りになって行く。スパスパと、まるで西瓜かキュウリでも切るようだ。

その板が、別の台の上で幅を切り揃えられ、長い長方形の材木になった。次に、その材木を、乾燥庫に入れて乾燥させる。温度が50-60度の中で、約2-3週間の日数をかけて、木材の水分を抜き取る。
「乾燥が最も難しいですね。普通に乾燥させると、外側だけが乾きます。そうなると、表面の木の目が詰んでしまい、内側の水分が出られなくなって残ります。これは後で歪みやひび割れの原因となるのです。そうならないよう、内側から先に乾燥させなければいけない。温度調節を微妙に行うのですよ。」
いくつも温度表示のある乾燥室の制御盤を示しながら、ジーエ社長はそう説明する。この工場では、容積70立米の乾燥室を5室設置している。木材の乾燥を、順次調整しながら仕上げていく。

乾燥が終わった材木は、仕上げの工程に入る。ここで、製品ごとに決められた仕様に応じて、裁断され削られ磨かれる。表面がすべすべになった材木は、どこかで見覚えのある肌触りである。そう、今を去ること40年前に、中学校の技術の実習で、私は本棚を作った。そのときに使った材木と同じだ。木目がない均質の板材、それは熱帯木材でできた製品だった。

そうした材木は、正確に寸法を揃えられ、表面に飾りの溝を掘られ、30センチほどの長さに裁断されていた。顧客からの注文に応じて、床材を作っているのである。これらの床材は梱包され、欧州に輸出され、どこかの新築住居に運ばれて、床一面に張られることになる。そのために、熱帯雨林の巨木は、切り刻まれて、蒲鉾板を少し大きくしたくらいの木片になっていった。巨木は工場に運ばれて、木片になるという運命にあった。

私はそこで理解した。私たちの身の回りにある、年輪のない滑らかな木材。これら家具や建具に普通に使われている木は、実はみな、熱帯雨林の巨木が生まれ変わった姿だったのだ。つまり、私たちの日常の消費のために、熱帯雨林の歴史が日々切り倒されている、ということであった。

(続く)


 グルミエと呼ばれる原木運搬車

 広大な敷地に山積みされた原木

 原木の種類ごとに集める
これは、断面が黄色いバディの原木

 一定の厚さに切り取っていく

 スイカでも切るように切れていく

 端を切り取って材木に成形する

 成形して規格を揃えた材木
黄色いのはバディの木

 材木を乾燥機に回す

 乾燥工程を終えた材木を仕上げに掛ける

 一定サイズに切られて製品化
これは床張り用の板

 出荷を待つ製品

 屑材がたくさん出る
殆ど乾燥機用の燃料として焼却


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