コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

王様は裸だ

2009-10-15 | Weblog
「暫定選挙人名簿」が、10月1日に出来上がった。8月のはじめに発表された「工程表」によれば、8月29日に出されるはずであったものが、1ヶ月以上遅れてやっと出されたというわけである。昨年の9月から今年の6月まで全国で行われた、身分認定登録作業で得られた650万人分のデータと、前回(2000年)の大統領選挙での選挙人名簿や、国民の名前が登録されている、身分登録証その他、以前に作成された行政文書とを突き合わせ、今回の選挙で投票資格のある人々のリストを、選挙管理委員会が中心となって作成することになっていた。それがついに完成したというのである。

私は、出張から帰ってきて、さっそく名簿がどんなものか見たいと思った。ところが、名簿は公表されたのではないという。名簿は完成したけれど、公表はされていない。どういうことか、と調べたら、つまりは名簿が出来たので、選挙管理委員会から首相のところに、電子データとしてUSBキーに入ったかたちで送付された、ということのようである。

公表されていないならあまり意味がない。なぜなら、「暫定」選挙人名簿を「確定」選挙人名簿にしなければならない。つまり、暫定名簿の中にある名前のリストについて、本人や各政治勢力からの異議申し立てを受け付け、それに裁定を下して、確定をするという作業が待っている。公表されない限り、国民には精査のしようがないわけで、つまり異議申し立ての段階にも移れない。だから、確定選挙人名簿に到る見通しがはっきりしていないということには、依然変わりがない。

と思ったら、もう異議申し立てが出て来るのが、コートジボワールの面白いところである。翌日の10月2日に、バグボ大統領の所属する人民党の機関紙である、「われらが道(Notre Voie)」紙に、大きな見出しが躍る。
「疑わしい登録が約270万人分ある。」
続けて「われらが道」紙は、10月3日付で異議を唱える。
「不正を働いた輩(fraudeurs)がいる。」
つまり、その約270万人は、コートジボワール人でないのに、自分はコートジボワール人だと名乗って登録をした連中なのだ、と断罪している。

政府系の「友愛朝報(Fraternité Matin)」は、もう少し具体的に解説した(10月5日付)。身分認定登録を行った人々のうち、約268万人は2000年選挙人名簿に名前があった。約90万人は、2000年選挙人名簿には名前が無かったけれども、他の行政文書の中に本人または親族の名前があったので、コートジボワール人と認定出来た。ところがそれらの人々以外の、「2.752.181人」分については、どこにも名前が見当たらないと、こういう話だ。

一桁まで数字が出て来るのも、まあ驚きなのではあるけれど、それはともかくとして、275万人といえば、なんと身分登録に応じた人数の、4割以上である。こんなに「不正な輩」がいるとすると、これはただ事ではない。それで各方面から大議論が出た。以前の身分登録関係の文書に、そもそもの欠落があったのだ、今回の身分登録のデータの方が正確なのだ、という説。人民党は、大統領選挙に至る過程を混乱させようとして、こんな言いがかりをつけているのだ、という政治的な非難、などなど。

「暫定選挙人名簿」は、そういう風な議論百出のなかで、10月6日に、マンベ選挙管理委員長およびソロ首相から、バグボ大統領の手に正式に伝達された。バグボ大統領は、伝達式の席上で演説をし、この暫定選挙人名簿が出来あがったということは、大変な前進である、われわれは大いに楽観的になれる、と述べた後にこう言った。
「われわれは前進を続け、2009年中に大統領選挙ができるようにしなければならない。」
年内だって。あれれ、大統領選挙は11月29日に行うというのではなかったのか。約束の日付は、軽く棚上げされている。

続いて別の機会に、ソロ首相も次の通り述べた(10月9日)。
「約270万人が、行政文書にも名前が無いという話ですけれど、それは必ずしもその人々が不正な輩というわけではないのです。皆さんには、落ち着くように言いたい。コートジボワール人であるのに、選挙人名簿から除外されるということは、決してありません。権利のある人は、ちゃんと名前が登録されますから。だから、選挙をしなければならないのは勿論ですけれど、まずは質の高い選挙人名簿をきちんと作ることが大事です。」

どうも、11月29日に大統領選挙を実施するという目標からは、みなが距離を置き始めている。 あと1ヶ月半しか残されていないのにこんな準備状況だから、11月29日の大統領選挙は、実現不可能だと誰もが思っている。でも、誰も言い出さない。誰も王様は裸だと言う勇気が無い。大統領選挙が延期されるかどうかよりも、誰がどのようにして延期を言い出すのかどうかのほうが、話題の中心になりつつある。

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