コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

B・B・B

2009-11-26 | Weblog

スブレ市(Soubré)の市街を過ぎ、豊かに水をたたえるササンドラ川を渡り、南に向かう道をたどると、まわりはもう延々と続くカカオの農園である。コートジボワールはカカオの国だとはいえ、アビジャンの周辺にいるとあまりカカオの木を見ることはない。しかし、アビジャンを400キロ離れてこの南西地域に来れば、さすがに世界一のカカオ生産国である。このように見渡すかぎり、カカオ農園が広がっている。

バヨタ中学校とは別にもう一つ、私が着任早々に手掛けた案件として、小学校の校舎建設案件がある。これも1年を経て、完成・引き渡しの段取りになった。私は、その完成式に出席するために、アボクアメクロ(Abokouamékro)という村に向かっている。この村は、コートジボワールの南西部、おおよそリベリアの国境にあと百キロばかりという場所にある。

そして、この村はバウレ族の村であるという。バウレ族といえば、ガーナ方面つまり東側から移住してきて、コートジボワールの東部・中部に広く居住する部族である。こんな西のはずれのほうにある村が、ほんとうにバウレ族の村なのか。この地域は、ベテ族の地域のはずだが。私は何度も問い質したのだけれど、やはりバウレ族の村だという。

村に到着した。カカオの農園のど真ん中にある。粗末な家々が並ぶ村の中を歩くと、小学校に出た。建設したてで、ぴかぴかに磨かれた校舎と、給食施設がある。総額3700万フラン(約700万円)、日本の資金協力で建て替えた、アボクアメクロ小学校の校舎だ。教室はもともと3つほどあった。ところが、土塀で藁葺きの校舎だった。採光が悪くて暗く、また雨が降ると雨漏りが激しく、授業が出来なくなる。それをコンクリート造りの明るい校舎に建て替えた。黒板、机、椅子も新調した。校舎の隣には、小さな調理場・倉庫が附随した食堂を建てた。村の子供たちは、給食も出て、しっかりと勉強できるようになった。

というわけだから、村中の人々が大歓迎で迎えてくれる。おそらく盛装なのだろう。皆、色とりどりの着物を着ている。子供たちまで、他所行きの服を着ている。そして手作りの歓迎行事だ。村の男による流行歌。婦人がたによる踊り、若い娘さんたちの聖歌隊。ドラムセットからエレキギターまで手作りである。イエス様が登場した。真っ白い服に赤い帯をして、これは日本国旗を表現しているのだ、と司会者から説明がある。

さて、伝統衣装を着た人たちが出てきた。日本大使に感謝のしるしとして、民族衣装の織物を贈ります、と司会者が説明。私の前には、違う格好をした人が3人いる。その3人の長老を、司会者が一人一人私に紹介する。

「まず村長です。」
村長は、だぶだぶの織物の布をゆったりと纏い、その布を肩から掛けている。頭には、金色の飾りのついた冠。金色の首飾り。典型的なバウレ族の族長の姿である。
「次に、ムスリム教徒の代表です。」
貫頭衣と、頭にはムスリム帽子を被っている。さっき、イエス様が登場したし、バウレ族のキリスト教徒だけのなのだと思っていたけれど、ムスリム教徒も一緒に住んでいるらしい。

「そして、この方が最も大切な方です。この方のおかげで、私たちはカカオを作ることが出来るのです。」
司会者が、ずいぶんとこの3人目の長老を持ちあげる。村長と同じく、ゆったりした織物の布を纏い、その布を肩から掛けているのだが、金色の飾りは身につけない。頭にはソフト帽を被っている。これはベテ族の長老の衣装のはずである。
「この方は、土地の長です。」

そう聞いて、私はやっと分った。この村は、「B・B・B」といわれる典型的な村なのだ。つまり、この地域はもともとベテ族が住んでいて、だから土地所有の権利もベテ族にあった。その広大な森林地帯に、バウレ族が開墾に入った。ベテ族から土地を借りてカカオ農園をつくり、そこにブルキナファソから労働者(ムスリム教徒)を招き入れた。ベテ、バウレ、ブルキナで、「B・B・B」といわれる組み合わせだ。そういう歴史を経て、こんなベテ族の地域に、バウレ族の村があるのである。

私は、日の丸の飾られた演台に立って、挨拶をする。
「アボクアメクロ村は、皆で力を合わせて、カカオを作っている村だと分りました。そして、日本はそういう皆さんに、学校の校舎を贈呈しました。これは単なる贈り物ではありません。日本の人々は、このたびの協力を通じて、この村から利益が得られるようになるのです。」
聞いている人々が、何の話だろうと訝しげである。

「つまり、こういうことです。日本の子供たちは、チョコレートが大好きだ。アボクアメクロの村に、しっかりした校舎が建って、子供たちが学校で勉強に励むようになれば、親たちは安心してカカオの畑に出て働ける。よく働いて、いいカカオが出来れば、それはいいチョコレートになって日本の子供が喜ぶ。こういうことです。」
やんやと喝采が来た。私はおみやげに、収穫したばかりのカカオの実を、たくさん貰った。

 新築の校舎

 食堂も新築した

 地元市町村代表の挨拶

 真ん中の長老が「土地の長」
左の長老が「村の長」

 女性合唱隊

 手作りのドラムセット
エレキギターも木製手作り

 イエス様まで登場

 子供たちもよそ行きを着て参加

 先導役を務めた女の子2人

 炊き出し部隊

 小学校の裏はもうカカオ農園

 カカオの実がたわわにぶら下がる


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