コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

投票箱の日本

2008-12-09 | Weblog
祝辞の中で、2万2千個の投票箱について言及した。これはどういう話かというと、次のような経緯がある。昨年(2007年)3月のワガドゥグ合意は、国民和解と平和を実現するために重要な出発点である一方で、その実施には多額の資金が必要だということになった。コートジボワール政府は、予算手当てを考えるために、同年7月に「危機脱出プログラム」という見積書を立てた。その総額は、890億フラン(約230億円)。

この総額の内訳には、南北の軍事勢力の統合、武装解除、兵士の社会復帰など、軍事的な側面から、身分認定作業の実施、行政機構の復旧、治安回復などの行政的側面まで含む、合意の実施のための幅広い要処理事項の費用が含まれている。そのうち何と言っても一番大きいのは、大統領選挙実施にかかる費用であり、360億フラン(約90億円)と積算された。

国際社会にこの見積書が提示され、各国からの資金支援が要請された。コートジボワールとして出来る限り国庫からの手当てを考えるが、なにぶんにも混乱し疲弊した財政のもとで、これだけの費用を調達しきれない。合意の実施を一段階ずつ動かしていかないと、平和は達成できないが、それらを動かすためには資金が要る。その資金が届かないと、折角の合意が元の木阿弥になり、コートジボワールはまた内戦の混乱に陥りかねない。だから助けてほしい、と。なんとも厄介な話だ。平和をお金で買わなければならない。

こういうとき日本はどうするべきなのだろうか。日本にとっては遠いアフリカの話だ、自分のことは自分で何とかしなさい、と突き放すこともできよう。しかし、コートジボワールは古くから日本と友好を保ってきた国。そしてこれはその国の国民全体が、平和に戻るための費用である。苦しいときに助けてこそ、本当の支援だ。日本自身も、敗戦後の復興を、国際社会に助けてもらった。そして平和構築という、世界政治に責任を持つ国にとって、重要な課題である。国際社会に重要な地位を占める日本が、見過ごすわけには行かない。

日本はこういう話には、比較的決断が早い。それはとても大事なことだ。誰でも、苦しいときに最初に駆けつけてくれる人が、一番頼もしく見える。そして、こういう支援の話ではたいがいの場合、早く支援を表明した国が、一番格好のいい案件を扱うことが出来る。同じ支援をするのでも、逡巡した上で遅れてやって来ると、もういいところは皆他の国々に取られていて、目立たない難しいような案件しか残っていないことになる。

この「危機脱出プログラム」についても、大使館からの問題提起に対して、外務本省の対応は早かった。選挙への協力のなかで、一番目立つ投票箱の提供を日本が行う。他国に先んじられないうちに、名乗りを上げることにしよう。2008年1月から大使館員が選挙管理委員会と調整し、大統領選挙実施費用に関する必要額について、約一割の37億フラン(9億5千万円)を日本が負担することにしよう、ということになった。

全国1万1千ヶ所にのぼる投票所を、1ヶ所につき2つの投票箱を提供するのをはじめとして、整備をする。不正を防ぐために、アクリル製の透明な投票箱が必要とされていた。「透明性の高い選挙」を体現するような投票箱を、2万2千個。今回の選挙だけでなく、今後末永く使ってもらえる。調達は国際機関である国連開発計画(UNDP)を通じて行うから、資金の使用についても安心できる。

未だ、他の支援国が様子見を続けている段階であった。日本は、ワガドゥグ合意を、コートジボワール人自身が作り上げた和平合意として、高く評価していた。その姿勢を具体的支援で示す。2008年3月、日本は他の支援国に先駆けて選挙支援計画の実施に名乗りをあげた。この日本の決定で、資金不足の懸念から停滞していた選挙プロセスに風穴が開いた。日本の支援に刺激を受け、欧州連合(EU)も選挙支援を練り始め、我が国に遅れること2ヶ月、2008年5月に50億フランの拠出を決めた。日本が選挙を前に進めた。

2万2千個の投票箱は、すでに手続きが進んで、欧州で調達されつつある。選挙を端的に象徴する機材を、日本が全部丸抱えで手掛けている。投票箱の日本。これから大統領選挙の実施に至るまで、この看板を掲げて、わが国の協力をアピールすることになる。

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