コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

戦術か戦略か

2008-12-10 | Weblog
与党・野党という言い方は出来ない。なぜなら今の内閣は、ワガドゥグ合意によって作られた、全ての主要政党の寄り合い所帯だから。バグボ大統領の「コートジボワール人民党(FPI)」も、ベディエ元大統領の「コートジボワール民主党(PDCI)」も、ウワタラ元首相の「共和連合(RDR)」も、皆閣僚を出している。そして、「新勢力」の党首であるソロ首相が、政府を率いている。

では挙国内閣で、一致団結してやっているか、というとなかなかそうでもない。大統領選挙までの暫定内閣である。大統領選挙にむけて自分の党が有利になるように、閣内で政治的な鍔迫り合いが激しく行われている。先週以来、北部の武装解除を巡って、「人民党」と「新勢力」の間で、激しいやりとりが続いている。あまりに激しいので、内閣が崩壊してしまうのではないか、と皆心配をし始めている。内閣の崩壊、というとここコートジボワールでは、内戦への逆戻りを意味しかねない。だから皆はらはらしている。

ことは「人民党」のアフィ・ヌゲサン党首(元首相)が、記者会見して次のように述べた(11月28日)ことに、端を発する。
「旧反乱軍兵士の武装解除が進まなければ、選挙には行けない。北部で『新勢力』が武装解除し、アビジャンの政府の権威が再構築されなければならない。どうして、国の一部が未だに武装勢力によって人質にとられ、国家の権威が及ばない状態にあるのか。一国の首相が、同時に国の一部を不法占拠している反乱軍の長でもある、などということが、一体いつ終わるのか。」

北部を依然として支配している「新勢力」とその軍勢。彼らが、武装解除を遅々として進めず、アビジャンの政府や政府軍との一体化がなかなか実現しないことへの不満は分かる。しかし彼の発言は、ガラス細工の政府を何とか維持しているようなときに、サッカーボールを蹴込んだくらいの衝撃がある。「人民党」の責任者が、国の統一と選挙に向けての障害が「新勢力」にあると攻撃し、かつ首相を名指しで非難したわけだ。

「新勢力」側は、当然ながら激しく反発した。ただし、ソロ首相は黙っている。かわりに「新勢力」のスポークスマンであるシディキ・コナレ観光相が、記者会見して述べる。(12月3日)
「武装解除を行う意欲は、『新勢力』側には十分にある。8割以上の『新勢力』の兵士たちが、市民生活に戻りたいと考えている。ただ、その再就職のためのお金が無いのだ。ちゃんと必要な資金さえ来れば、武装解除は数週間で実現する。行政の統一も、着実に進んでいる。各県における、教育、保健、衛生、水道、などの公共サービスの再配置は、完了しつつある。」

そして、アフィ・ヌゲサン「人民党」党首個人への、激しい非難だ。彼は、ワガドゥグ合意の当事者(ソロ首相のこと)を攻撃し、ワガドゥグ合意そのものを攻撃している。これはコートジボワールを再び戦争に導くものである。彼は、元首相ながらワガドゥグ合意の当事者から外れた。自分の党内での立場を立て直すため、強硬派の衣を着て見せているのだ。しかし、彼がこう振舞うことは、バグボ大統領にも「人民党」自身にも危険だ。この無責任男は、平和を潰そうとし、再び暴力の時代に戻そうとしている、云々。

「新勢力」のスポークスマンは、更に続ける。
「アフィ・ヌゲサン党首が囲っている武装集団が、ソロ首相の命を狙っている。アビジャンでの首相暗殺計画が、準備されつつあるのだ。」
おっと、暗殺計画とは穏当ではない。そして、内閣崩壊に繋がるぞという脅しの発言。
「ワガドゥグ合意を否定するような党首の率いる『人民党』は、内閣から閣僚を引き揚げるべきだ。」

アフィ・ヌゲサン党首は、全く怯まない。今度は、マンベ選挙管理委員長に申し入れる。(4日)
「北部・西部で、兵士の武装解除が進んでいない。安全が確保されていないために、現在進められつつある身分認定・有権者登録の作業を、中断すべきだ。」
武器による脅迫などがあり、公正なかたちで作業が行われる環境にない、というのだ。北部の連中が自らの武装解除をしないなら、選挙は実現できないぞ、ということだから、武装解除と選挙を、取引の関係にしたわけである。

これは北部での武装解除を、電撃ショックをかけてでも進めたいという、「人民党」の強い意志なのだろうか。それとも、「人民党」にとって反対勢力の票数を増やすだけの、北部における有権者登録を邪魔する、それも北部「新勢力」の武装解除への非協力の所為にして邪魔しようという、高等戦術なのだろうか。それとも、本当に内閣を分裂させ、ワガドゥグ合意によって引かれた国民和解への路線を再考しようという、一つの戦略が動き出しているのだろうか。

政治の動きがある。その動きはその場の取引のための「戦術」なのか、流れを大きく変えようとする「戦略」なのか、そのあたりの見極めをつけることが、情勢判断の出発点として重要である。
さて、以上を伏線にして、次のように話が展開する。

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