コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

民営化と汚職

2010-05-26 | Weblog
政府が担ってきた仕事がうまくいかなくなったとき、とにかく「分割・民営化」しさえすれば物事はうまく進むだろう、と考えるのは、どこも同じである。そして、この「民営化」の神話は、ここでも大きな間違いを生んだ。「分割・民営化」しても、動かすのが人間であることには変わらないのだ。汚職を許しかねない制度の体質には、「安定化基金」と比べて、何らの改善が見られなかった。むしろ、組織が分割されたことで、統制が利かなくなってしまった。

「安定化基金」を1999年に解散したのは、ベディエ大統領であった。そして、2000年以降に、「安定化基金」に代わる、新たなコーヒー・カカオ生産農家を保護する制度・組織を、「民営化」によって次々に設立していったのは、バグボ大統領であった。コーヒー・カカオ生産農家の保護のための制度・組織の改編にあたって、旧組織の解散と新組織の再編が、別々の政治家・政党の手によって行われたところにも、一つの不運がある。

「安定化基金」が一手に担っていた役割は、「分割・民営化」により、順次、以下の5つの組織に分割された。
(1) コーヒー・カカオ規制局(ARCC:Autorité de Régulation du Café-Cacao)
設立:2000年10月
法人格:公社
任務:コーヒー・カカオ輸出入業者の認定・監督

(2)コーヒー・カカオ基金(BCC:la Bourse du Café-Cacao)
設立:2001年8月
法人格:私法上の特殊法人
任務:コーヒー・カカオ産品の輸出にかかわる調整業務、生産者への価格・収入の保証、収穫予想・統計作成、中小輸出業者の奨励、コートジボワール産品の販売促進

(3)コーヒー・カカオ生産者活動開発促進基金(FDPCC:Le Fonds de Développement et de Promotion des activités des Producteurs de Café et Cacao)
設立:2001年8月
法人格:私法上の特殊法人
任務:コーヒー・カカオ生産者の収入確保、関連制度の整備、農園開発の近代化、生産農家の研修、農村の開発・生活向上

(4)コーヒー・カカオ規制管理基金(FRC:Le Fonds de Régulation et de Contrôle)
設立:2002年4月
法人格:私法上の特殊法人
任務:コーヒー・カカオ輸出業者の財務状況の規制管理、産品価格表の公示、輸出業者の信用保証、中小輸出業者の奨励、産品の品質向上

(5)コーヒー・カカオ生産組合保証基金(FGCCC:Fonds de Garantie des Coopératives Café et Cacao)
設立:1991年
法人格:公社
任務:生産者の運転資金や設備投資資金の信用保証、生産者組合の管理能力向上、生産者組合の業務態様の評価・指導、生産者組合を通じた小規模金融

どうにも任務の入り乱れた組織が、5つも設立されたものである。そして、コーヒー・カカオ生産農家たちはこの新たな組織に加盟し、産品のキロあたり幾らというかたちで、これらの組織に納付金を支払うように求められた。農家が払う納付金は、1999年にはカカオ豆1キロに対して15.5フラン(3円強)だったものが、組織の数が増えたお陰で、2004年以降は、約50フラン(10円)になった。

カカオ豆については、すでに輸出業者に輸出税(DUS:Droit unique de Sortie)が課せられている。この国税も、1999年にはキロあたり120フラン(24円)だったものが、2003年以降は220フラン(44円)に値上げされている。農家は、この税金が買い取り業者を通じて買い取り価格に転嫁されるのに加えて、新たな組織への納付金を払うわけである。カカオ豆の国際市場価格は、だいたい1キロ300-400フランだから、これらの負担を差し引くと、農家の手元にはわずかな金額しか届かないということになる。

とにかくも再び、コーヒー・カカオ生産から、納付金のかたちで、莫大な資金が中央に集められるようになった。毎年キロあたり50フランの金が、年生産量140万トンのカカオ豆から吸い上げられる。単純に計算して、700億フランの金額になる。毎年、これだけの資金が、先に挙げた5つの組織に流れ込むようになった。

そして、こうした新制度がようやく動き始めた時期に、コートジボワールに大混乱が起こった。2002年9月の反乱軍の蜂起と、その結果としての南北分裂である。そのために、国内の資金の流れが、いっそう複雑かつ不透明になった。これらの組織の幹部たちが、不透明な経理をいいことに、資金を横領して蓄財しているという疑惑が、当然のように起こった。官僚などによる公金の私的流用は、コートジボワールでは残念ながら、極めてありがちな話なのだ。

もっとも怪しい話になってしまったのが、米国のチョコレート製造工場の買収事件である。コートジボワールは、カカオ豆の生産では世界一であるけれども、カカオ豆の加工は欧米の多国籍企業が行っているので、チョコレート製造に至る付加価値の部分は、コートジボワール国内に利益を落とさない。だから、チョコレート製造までを手掛けるべきだ、というのがバグボ大統領の主張であった。

ニューヨークの近郊に、フルトン(Fulton)という町があって、ここに古くからネスレ社が操業していたチョコレート工場があった。しかし、ネスレ社は生産拠点をブラジルなどに移し、このチョコレート工場を閉鎖してしまった。そこに、コートジボワールが名乗りを挙げた。コートジボワールが出資をして、この工場を再開する。そして、コートジボワール産のカカオ豆を搬入して、直接チョコレート製造事業を行う。

たいへん結構な話に、地元フルトンの町も喜び、米国側出資が2割、コートジボワール側出資が8割で、資金計画が組まれた。ここに出資したのが、先に挙げた「コーヒー・カカオ規制管理基金(FRC)」であった。こうして、2003年10月、「ニューヨーク・チョコ製菓会社(NYCCC)」が設立された。ところが、今に至るまで、この工場はチョコレートの製造を始めていない。

この工場再建のための出資は、200億-280億フラン(40億-56億円)という大変な額に上った。しかし、結局工場が動いていないということは、このお金はどこに使われたのか、当然疑問がわく。のみならず、FRCが払い込んだ額は、一部報道では、それをはるかに上回る1千億フラン(200億円)にのぼるとも言われている。とにかく、巨額の使途不明金が出るという醜聞事件に発展していった。

(続く)

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