
タイトル = Movement(1981年)
アーティスト = New Order
コメント = 雨上がりのパレードを行く一台のオープンカー。不意に後部座席に乗っていた男性の身体が後ろにのけ反る。男性は仰向けにシートに倒れこみそのまま動く気配がない。次の瞬間、カメラは傍らに同乗していた女性が狂ったように車の後部に身を乗り出し、必死に"何か"を掻き集めている様子を映し出す。
1963年11月22日、有名なテキサス州ダラス郊外でのケネディ大統領の暗殺シーン。後に彼の妻ジャクリーンは車の後部に飛び散った夫の脳漿や頭蓋骨を拾い集めようとしたと告白した。頭部への被弾で既に状況はほとんど絶望的であったにもかかわらず、動転しながらも咄嗟に彼女は夫の肉片を掻き集めずにはいられなかった。たとえ、今やその行為にどれほどの意味も残されていなかったとしても、彼女は反射的にそう反応せざるを得なかった。
一昔前、よくTVの特番などでこの場面を見る度に、僕はジャクリーンの夫ジョンへの愛情の深さを、そして、このニュー・オーダーのデビューアルバム『ムーブメント』のことを思い浮かべた。「アルバムを聴いた時、イアンが二度死んだような気持ちになった」あまりにJ・ディヴィジョンを意識した音作りに、メンバーはプロデュースを受け持ったマーティン・ハネットを責めたが、おそらく問題はそうではないと思う。収められた八つのナンバーの何れもが、歌詞、ヴォーカル・スタイル共に明らかにイアンのそれを踏襲して作られている。突然仲間を失った驚き、悲しみ、怒り、そして混乱。彼らの意思に関係なく、ここで試みられているのは完璧なまでのJ・ディヴィジョンの、イアン・カーティスの再生に他ならない。
僕のコメントが君のテーマになり
君の夢を終わらせることができる
彼の愛に永遠の別れを
そして彼の魂にも永遠の別れを
だからこそ、口ごもるようにピーター・フックがそう歌うM-1以下すべての楽曲は、あの日のジャクリーン同様残酷なほどに痛々しく、圧倒的な美しさを携えている。
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