麦畑

太陽と大地と海は調和するミックスナッツの袋のなかで

ひとさらい

2021-12-22 19:33:09 | 短歌

 

『うたつかい』掲載歌まとめ (第31号~第37号(最終号))

※ 『うたつかい』は「むぎたうろす」名義で投稿しています。
   ただし、34号、35号、37号は「鈴木麦太朗」名義です。

※ 『うたつかい』には既発表歌を載せる場合もあります。

※ このブログには載せませんが、34号、35号は鈴木美紀子さんと、
  37号は高松紗都子さんと「恋歌」を詠み合っています。

 

第31号(2018年秋号)

  自由詠 「六人の子供」
ひとさらいにはあらざれど六人の子供をのせて籠押されゆく
がらがらとひとにおされてゆく籠のなかの子供の顔の涼しさ
かなしみのきわみのごとき洋品店ありてすべての品五割引き
冬物の白いジャケット着るひとは首なきままに立ち続けたり
どこへゆくどこへゆきたいうす紙につつまれている柑橘類は

  テーマ詠 「アルファベット」
ブロッコリースプラウトって言うときの声はじけてる春のRADIO

 

第32号(2019年春号)

  自由詠 「がんばる人」
請われれば演歌も歌う身のうちに鳩のたまごを温めながら
爆発し消えてなくなる怪獣の後腐れなき生をうらやむ
十年経て節分豆は発芽するほこりまみれのテレビの裏で
ロダン作「がんばる人」のポーズありラジオ体操第二のなかに
かろやかにしっぽ落としたトカゲらは何も決まりのない国へゆく

  テーマ詠 「身につけるもの」
二月にも三十日があることの愛しさふるきわが腕時計

 

第33号(2019年秋号)

  自由詠 「雨の気配」
待つということなく待っているうちに雨の気配を連れてくる風
熱を持つからだ冷ましにゆきしかどアガパンサスのああ花ざかり
うすっぺらいテレビ画面に映りいるなみだ流せるひと見て泣けり
ていねいにひらく干菓子の包み紙またていねいに畳んで捨てる
カーテンとサッシのなせる空間に幼きわれはひそみ居たりき

  テーマ詠 「カレンダー」
八月のアドリア海をめくったらモーツァルトが空を見ていた

 

第34号(2020年春号)

  自由詠 「雨の国」
ふたたびを生きるごとくに白式部芽吹けばのちの死を思わざり
黄の花のしなだれながらつく枝の奥に未熟のプチトマト生る
南天の花散り切りているところいかにも梅雨という雨がふる
眠ろうとして眠れない寝室にあした着てゆくシャツ垂れている
おそるべき垂直落下コースター右手に見えて夏盛りなり

  テーマ詠 「冷蔵庫の中身」
この朝のわたしの舌を刺激する古いミルクはさみしかったね

 

第35号(2020年秋号)

  自由詠 「個人情報」
かすかにも火薬の香をまといつつどうしようもなく夏が来ている
びわの葉の一葉ごとに一頭の蚊はひそみ居てまひる風なし
特急は色もかたちもよろしくてわたしのことは見向きもしない
執拗にあしのうらがわくすぐれば個人情報ながれ出るかも
ふくらんでゆく蜂の巣のたしかさは蜂のこどもを育んでいる

  テーマ詠 「スポーツ」
真昼間の二塁ベースに身を置けばここが世界の軸かと思う

 

第36号(2021年春号)

  自由詠 「心のフチ子さん」
フチ子さん心のふちに座ってるはだしの足をゆらゆらさせて
おそろしく長い階段あるとしてオリオン座から降りてくるひと
星座には入れてもらえなかったけど尺取虫の尺取るすがた
うろこ雲のうろこは鯛のうろこかな巻貝はぐるぐると考えている
空色のカーテンを好む人々よときどき洗ってあげてください

  テーマ詠 「旅行」
この冬のちいさな旅を終わらせて一杯の緑茶あたたかかった

 

第37号(2021年秋号)

  自由詠 「シルエット」
夕映えにレッドキングのシルエット遠ければ遠いほどあこがれる
つみ残す春の花から種こぼれわたしゆっくりゆるしてもらう
サルビアの花を引き抜くゆうまぐれ百年のちに命はあらず
ほんのりと龍のうろこのにおいするあなたの髪をくしけずるとき
うつくしきスローカーブを空振れば一瞬にして体透きとおる

  テーマ詠 「結」
「結跏趺坐なんてぜったい無理だよ」とわが足首は泣きながら言う

 

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