映画で楽しむ世界史

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映画「敦煌」とくると西夏

2010-12-26 15:04:43 | 舞台は東アジア・中国

井上靖の「敦煌」は民族興亡史の交差点

 

 映画「敦煌」は日本の映画史に残る名作。

シルクロードでのロケ風景に加え、長安城や敦煌城のセットも素晴らしい。砂漠、草原での戦闘シーンもよく出来ているし、夫々の俳優もよく演じていて迫力がある。しかしやはり大事なのは井上靖の原作。この時代を出切るだけ史実でたどってゆく試み・・・結構難しい。

 

 そもそも敦煌は、黄河の西「河西四郡」の西の端、シルクロードの起点。中国にとっては、西玄関とも裏木戸とも異境とも・・・時代によって盛衰の差が激しい。 漢の武帝が河西節度使をおいた頃から始まり、以来重要な兵站基地。絹と宝石のなど交易の拠点、仏教東漸の中継地で、有名な鳴沙山莫高窟のおびただしい経典、仏像、壁画などは北魏から隋唐宋時代までかかって蓄積されたものであろう。

 

① しかし唐の玄宗、楊貴妃の時代、755年に始まった「安史の乱」以降敦煌の統治は乱れ、

 

② 遂には781年、吐蕃(チベット)の手に渡る。この吐蕃は650年頃ラサで建国された強大な軍事国家で度々中国に侵入。中国は皇女を降稼させその慰撫に努める・・・その名残が823年、ラサに建てられた「唐蕃会盟碑」。

 

③ しかしその後内紛で吐蕃が衰えたのを機に、848年、漢人の張議潮が支配を取戻し「帰義軍節度使」を名のるが、もはや唐の地方長官というより、独立王国の様相を呈している。

 

④ 張政権は923年、曹という一家が取って代わるが、この頃から敦煌の東には吐蕃蕃や回鶴(ウイグル)、更には西夏の勢力がが割拠し、曹政権は中国本土から隔離されてしまう。しかしこの漢人政権は弱小ながら200年近く続く。

 

⑤ 小説、映画の時代はおそらく1035年ごろ。敦煌は太守曹延恵(田村高広)に守られているが、とうとう西夏に攻め滅ぼされる。このとき莫高窟の宝物、特に経典がどうなったか、それがハイライト。 尚、主役の趙行徳(佐藤浩市)、朱王礼(西田敏行)、ツルピア(中川安奈)などは井上靖の創造した人物。

 

⑥ 西夏はチベット系タングート族。唐王朝に形式的に服属しているが東西交易路から得られる利得をもとに強大化し、吐蕃やウイグルを破る。1038年、族長の李元興(渡瀬恒彦)は中国に倣い官制、服制、年号を建て、興慶府(現在のウイグル自治区銀川)を首都に「大夏皇帝」を称する。

 

 ⑦ 西夏は漢人、吐番人、ウイグル人を含む一種の複合国家で、儒教、仏教とも取り入れ、漢字を真似た西夏文字で多くの経典を残した。一方タングート固有の風俗にもこだわり「禿髪令」を発結び平和を保つが、やがて女真族の「金」が興るとこれに服属するが、最終的には1227年、モンゴルに滅ぼされる。

 

 


1 コメント

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Unknown (台風)
2012-08-25 04:02:36
この映画の中で、渡瀬恒彦扮する李元昊が演説するところがありますね。これは西夏語を再現したものなんでしょうか。そして、兵士が行軍を開始するとき、トーン・ジェ!(と聞こえた)というのも。初めのほうでは西夏文字の文章が出てきます。 現地で今も観光用に残っているというセット、軍装なども見ものですね。
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