田山花袋
「田舎教師」より 冒頭部
四里の道は長かった。その間に青縞の市のたつ羽生の町があった。田圃にはげんげが咲き、
豪家の垣からは八重桜が散りこぼれた。赤い蹴出しを出した田舎の姐さんがおりおり通った。
羽生からは車に乗った。母親が徹夜して縫ってくれた木綿の三紋の羽織に新調のメリンスの兵児帯、
車夫は色のあせた毛布を袴の上にかけて、梶棒を上げた。なんとなく胸がおどった。
35×45cm
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花袋の「田舎教師」には、美しい自然描写がふんだんに出てきます。
それを読むのも楽しみの一つです。
それはもうどこにもない風景なのです。