7世紀から10世紀頃までの律令制下の国でもっとも社格の高い神社が一ノ宮と呼ばれてきたとされますが、1国あたり1社、延長5年(927)の延喜式神名帳記載などの通例はあるものの、その選定基準の文献もなく、国司が巡拝する神社の順番などいろんな説があるようです。そのため勝手に名乗ったり、本家を争ったりした歴史などもあったようです。
同じように二ノ宮、三ノ宮も選定された経緯は不明で、現在の都道府県別で見ても、二ノ宮、三ノ宮がないところや九ノ宮まである上野国(群馬県)まで様々です。
常陸国一ノ宮…鹿島神宮
常陸国では圧倒的な存在力を持つ鹿島神宮(鹿嶋市)が名実ともに一ノ宮です。主祭神は武甕槌大神(たけみかづちのおおかみ)で古くから武神として東国の武士に信仰されてきました。全国に約600社ある鹿島神社の総本社でもあります。
まずは神宮の周辺にある東西南北4つの一之鳥居のひとつ、「西の一之鳥居」は海上鳥居としては日本最大級の高さ18.5m、幅22.5mで、神宮から南へ約2kmの北浦の出口、鰐川に建っています。
大鳥居は東日本大震災で従来の笠間の御影石製のものが倒壊、その跡に神宮の森から切り出した杉の巨木4本で再建されました。高さ10.2m、幅14.6mの圧倒的な大きさです。
楼門は、寛永11年(1634)水戸藩初代藩主徳川頼房公が奉納し「日本三大楼門」の一つといわれます(国指定重要文化財)。「鹿島神宮」の扁額は東郷平八郎元師の直筆です。
社殿(本殿・拝殿・幣殿・石の間)は元和5年(1619)、徳川秀忠公の奉納で、すべて国の重要文化財に指定されています。白木のままで彩色無しの拝殿は、かえって清く厳かな感じが漂います。
江戸時代初期の建物のため、いま7か年計画で令和の大修理が各所で行われています。
拝殿幕には神紋の左三つ巴と五三の桐が付いています。
本殿は、漆塗りで柱頭や組物などには華麗な極彩色が施されています。社殿の背後にある杉の巨木は根廻り12m、樹齢1,200年と推定されるご神木です。
社殿は征討する蝦夷地の方向、北を向いていますが、本殿内の神坐の位置は東向きで参拝者は祭神と正対できない造りになっているそうです。
奥宮は、慶長10年(1605)に徳川家康が関ヶ原戦勝の御礼に現在の本殿の位置に本宮として奉納したものを、その14年後に新たな社殿を建てるにあたりこの位置に遷してきました。(国指定重要文化財) 現在は修理のため覆われていましたので、数年前の写真です。
この仮殿は新しい社殿造営のため徳川2代将軍秀忠公奉納のもので、まずこの仮殿に神様を遷してから、旧本殿を奥宮まで曳いていき、その跡地に新しい社殿を造営しました。(国指定重要文化財)
常陸国二ノ宮…静神社
静神社(那珂市)は東国の三守護神として鹿島神宮、香取神宮とともに崇拝され、豊臣家、徳川家からも社領としての朱印が付され、鹿島神宮に続き常陸二宮として古くから信仰されてきました。
主祭神は建葉槌命(たけはづちのみこと)、倭文神(しどりのかみ)ともいわれ、機織りの神として祀られています。 創建の時期は不明ですが、6~7世紀に静織りを織っていた倭文部(しどりべ)の人たちが信仰していた神社が元になって創建されたといわれています。
天保12年(1841)の火災で、徳川光圀公が造営した社殿は焼失し、現在の壮厳なたたずまいの本殿と拝殿は、水戸藩9代藩主斉昭公が再建したものです。
本殿には国の重要文化財に指定されている社宝の銅印が納められています。これは光圀公が社殿を修造する時に、本殿脇の大きな檜の根本から見つかったと伝えられています。
拝殿幕の神紋は桜です。
桜田門外の変では、ここの神官の斎藤監物(1822~1860)が、井伊大老襲撃に参加して亡くなっています。拙ブログ「斎藤監物と静神社(那珂市) 2020年5月27日」でご紹介させていただきました。
常陸国三ノ宮…吉田神社
吉田神社(水戸市)の主祭神は日本武尊(やまとたけるのみこと)です。
顕宗天皇~仁賢天皇の時代(485~498)の創建と伝わり、全国の日本武尊を祀る神社では最も歴史が古く、鎌倉時代には八ヵ郷150余町の社領をもち、常陸国三の宮として大きな勢力をもっていました。
水戸藩2代藩主徳川光圀公が寛文6年(1666)に本殿、拝殿ほか多くの社殿を修造したと伝わります。その後水戸大空襲では社殿全部が焼失し、戦後再建されました。神紋は左三つ巴です。
今でも10月中旬には、水戸城下の旧下市周辺を挙げて神輿渡御の例大祭が盛大に行われています。
北東側に広がる「下市」といわれる水戸の城下町、縄文の海進時にはこの一帯は海の入り江だったといわれています。
伝承では日本武尊が東征の帰途、ここに上陸し休まれたと伝えられ、その朝日三角山遺跡もあります。
撮影時の2月初めには暖かい南向き斜面の女坂で、白梅が咲き始めていました。
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