顎鬚仙人残日録

日残りて昏るるに未だ遠し…

可哀そうな名の野草たち…富太郎博士も命名

2024年01月23日 | 季節の花

花の季節にはまだ早いこの時期ですので、きれいな花を咲かせているのに哀れな名前を付けられてしまった花を在庫写真から探してみました。なんとそのうちいくつかは、1500以上の植物を命名した牧野富太郎博士が名付け親です。

春一番に土手に顔を出しているオオイヌノフグリ(大犬の陰嚢)は、果実(上記写真左下)が犬の陰嚢に似ていることからの命名ですが、牧野富太郎博士もそのものずばりの名を付けたものです。「星の瞳」という可愛い花にぴったりの別名もありますが、博士命名の方がインパクトが強く覚えてしまいます。ヨーロッパ原産で明治初年に渡来しました。

犬ふぐり星のまたたく如くなり  高浜虚子


もう咲き始めているノボロキク(野襤褸菊)、これも牧野博士命名といわれます。花の後の白い冠毛をボロ切れに見立て、野に生えるボロ菊という意味で付けました。明治初期にヨーロッパから入り全国に拡がっている雑草です。


同じキクでもこちらはハキダメギク(掃溜菊)、牧野博士が世田谷の掃き溜めで発見したので名が付けられてしまいました。小さい花ですが黄色い筒状花のまわりの白い舌状花が整然と並び、なかなか気品のある雑草です。熱帯アフリカ原産で明治初期に渡来しました。


ミゾソバに似て可愛い花なのに、ママコノシリヌグイ(継子の尻拭い)とは!!ミゾソバと違い葉や茎に棘があるので、憎い継子の尻をこの草で拭くという意味ですが、現在では幼児虐待で問題になりそうです。日本の在来種です。




蔓性多年草のヘクソカズラ(屁屎葛)は葉や茎に悪臭があることからの命名です。この臭いの元メルカプトンはガス漏れ検知のために、無臭のガスの臭い付けにも使われているそうです。
日本の在来種で、万葉集でも「屎葛(くそかずら)」の名で詠まれています。

菎莢(ぞうきょう)に 延(は)ひおほとれる屎葛(くそかずら)
絶ゆることなく宮仕へせむ   高宮王 (万葉集 巻16)

   ※ 菎莢=カワラフジノキ(マメ科の落葉高木)
 延ひおほとれる=絡み付いている                        高宮王(たかみやのおおきみ) 奈良時代の歌人、官人  生没不詳


ジゴクノカマノフタ(地獄の釜の蓋)は在来種でシソ科の多年草、キランソウ(金瘡小草)という本名があります。
「地獄」という恐ろしい名の由来は、地面にしっかり張り付いて生える姿を「地獄の釜の蓋に見立てた」説と、薬草としての効能が高いので「地獄への蓋を閉じられる」という説などがあります。


葉や茎に鋭い棘のあるナス科のこの植物は、アメリカ原産の外来種で「要注意外来生物」指定のワルナスビ(悪茄子)です。さらにすごい繁殖力のため、牧野博士がいたってストレートに命名しました。明治39年に成田市の御料牧場で発見した博士は自宅に持ち帰って植えましたが、その根絶に苦労した話が著書「植物一日一題」に載っているそうです。


ヌスビトハギ(盗人萩)は、そのマメ科独特の形の実から名前が付きました。足音を忍ばせる泥棒の足跡のようだというのは牧野博士の説、そのほかに実が「引っ付き虫」になるので、気付かないうちに衣服に取り付くさまをいったという説もあります。北海道から沖縄まで分布する在来種です。




クサギ(臭木)は、葉に独特の臭いがあるので命名されましたが、花は芳香がします。しかも実もきれいで古くから青色の染料に使用されてきました。日本全国に分布する在来種です。
このクサギの臭さは茹でると消えるため若葉は山菜として食用にされ、また万葉の時代からクサギを焼いた灰で色付けした「黒酒(くろき)」は宮中の祭祀に欠かせないものでした。

天地と久しきまでに万代に仕へ奉らむ黒酒白酒を   智奴王 (万葉集巻 19)

※天地と共に永遠に、万代にお仕えしましょう、このめでたい黒酒白酒(くろきしろき)を捧げて。
智奴王(ちぬのおほきみ) 天武天皇の孫で,長親王の子。


明治維新以降、日本には諸外国から外来植物が大量に流入したので、牧野博士たちも名前の付け甲斐があったことでしょうし、また1000年以上前の先祖たちもその時代に頭をひねって名付けたと思うと、何か楽しい気分になりました。

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2 コメント

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Unknown (空と花)
2024-01-23 13:03:40
素晴らしい知識をお持ちですね。楽しく読ませていただきました。ありがとうございました。
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可哀そうな名前 (顎髯仙人)
2024-01-24 08:16:57
いろいろ調べてみると、名前付けた人のことや
その時代の空想が膨らみ楽しい気持ちになって
しまいました。
コメントありがとうございました。
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