原発をめぐるいろいろなニュースを聞き、数日前ある学生より「先生の家族は日本から脱出しないんですか?」というメッセージが届く。
千葉に住む妹家族は、脱出どころか、震災以降仕事がますます忙しくなっているらしい。妹は薬剤師として勤務しているが、14日に仕事に戻った時には、多くの人が薬を取りにきたそうで、これまでの人生の中で一倍忙しい日だったそうだ。義理の弟は大手製薬会社に勤めているが、休日返上、会社に寝泊りしながら過ごしているらしい。
両親は震災や津波などの直接的な影響は受けなかったものの、父親は体調を崩し14日に肺炎で病院に入院する。持病の糖尿病などもあるので、3月末まで入院らしい。
そういう状況を説明しつつ、今の妹たちや他の日本の人たちの気持ちを代弁する意味で、村上龍さんの寄稿文〔英語版はニューヨークタイムズに掲載)のリンクを紹介する。こういう具合だ。
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現時点での最大の不安は福島の原発だ。情報は混乱し、相違している。スリーマイル島の事故より悪い状態だがチェルノブイリよりはましだという説もあれば、放射線ヨードを含んだ風が東京に飛んできているので屋内退避してヨウ素を含む海藻を食べれば放射能の吸収度が抑えられるという説もある。そして、アメリカの友人は西へ逃げろと忠告してきた。
東京を離れる人も多いが、残る人も多い。彼らは「仕事があるから」という。「友達もいるし、ペットもいる」、他にも「チェルノブイリのような壊滅的な状態になっても、福島は東京から170マイルも離れているから大丈夫だ」という人もいる。
私の両親は東京より西にある九州にいるが、私はそこに避難するつもりはない。家族や友人、被災した人々とここに残りたい。残って、彼らを勇気づけたい。彼らが私に勇気をくれているように。
今この時点で、私は新宿のホテルの一室で決心したスタンスを守るつもりでいる。私よりも専門知識の高いソースからの発表、特にインターネットで読んだ科学者や医者、技術者の情報を信じる。彼らの意見や分析はニュースではあまり取り上げられないが、情報は冷静かつ客観的で、正確であり、なによりも信じるに値する。
私が10年前に書いた小説には、中学生が国会でスピーチする場面がある。「この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけがない」と。
今は逆のことが起きている。避難所では食料、水、薬品不足が深刻化している。東京も物や電力が不足している。生活そのものが脅かされており、政府や電力会社は対応が遅れている。
だが、全てを失った日本が得たものは、希望だ。大地震と津波は、私たちの仲間と資源を根こそぎ奪っていった。だが、富に心を奪われていた我々のなかに希望の種を植え付けた。だから私は信じていく。