夜は短し歩けよ乙女 森見 登美彦 角川書店 このアイテムの詳細を見る |
私が見た書評では、誉めていたけれど、その書き方から、かなりリアリティのなさそうな小説で、私の好みではないなと思っていましたが、読んでみたら結構おもしろかったです。
理由の一つは、物語の舞台である京都で主人公たちと同じく学生生活を送ったことにあると思われます。ウン十年前の記憶は、この小説と同じくらいリアリティがなくなっているためか、すんなり物語の世界に入っていけたのかもしれません。
これは、青春ラブストーリーです。ストーリー的には、大学生が後輩の女の子に一目ぼれし、彼女の気をひこうと、彼なりの涙ぐましい、しかしかなり回りくどい努力をするというもので、非常に漫画的な、ややありふれたものです。
彼女の姿を追って、木屋町、下鴨古本市、そして京大の大学祭と彷徨いながら、とても奇妙な世界に巻き込まれるのですが、それは、若冲か、芳年の世界のように、カラフルなのだけれどどこか暗い。
読みながら、なぜこんな展開を楽しんでいるのかなぁ・・・と自分で不思議に思いましたが、学生時代にちょくちょく行った小劇場の芝居の世界とも通じるのかなぁと思ったり、自分の学生時代も楽しかったけれど、まだまだやりたい事が見つからないし、その後の人生に不安も一杯だったあの頃の自分の気持ちと通じるものがあるのか・・・最後までわかりませんでした。
でも、そうやって思い出してみると、私の場合、二度とあの頃には戻りたくないなぁという気持ちが改めてするのです。
27歳頃まで、私は自分に対する、不安と期待を抱いていました。ネクラという言葉がはやっていましたが、確かに自分の内面は底なし沼みたいだと思っていたのです。でも、底なし沼で足を取られていると思っていたある日、突然気づいたのです。この沼は浅い・・・。そしてそれから毎日を楽しんで生きることができるようになりました。
だから、私にとって京都での4年間は、楽しかったのだけれど、どこか暗い色で覆われていて、この本の奇妙な世界が妙に懐かしかったのかもしれません。