『フレンチ・カンカン』(ジャン・ルノワール監督、1954年)を再度観た。
1888年のパリ。
クラブを営んでいるダングラールは、キャバレー“白い女王”の踊り子ニニに触発され、“カンカン”を主とするショウの娯楽殿堂を作ろうと決心する。
その計画のために、自分の店を処分したダングラールは“白い女王”を買い取る。
“白い女王”は取り壊され、新しい殿堂は計画どおりに行くと思われたが、出資者が援助を止めたりしたために中々思うようには行かなくって・・・
“ムーラン・ルージュ”誕生の物語である。
しかし、そこに描かれているのは恋愛物語。
まず、中心にいるのが“ジャン・ギャバン”のダングラール。
その彼をめぐっての、以前の店からのスターであるローラと、ニニのバトル。
このニニが“フランソワーズ・アルヌール”で、主人公で、こうなるともう無条件に素敵そのもの。
後の『ヘッドライト』(アンリ・ベルヌイユ監督、1956年)で陰にこもったギャバンとアルヌールが、楽しく陽気な顔を見せてくれるから堪らない。
嫉妬深いパン職人の恋人がいても、渋いダングラールに気持ちが移ってしまうニニ。
そのニニに秘かに恋をするアラブの王子。
そしてダングラールは、他の歌手にもちょっかいを出していたりして。
その辺りの恋愛劇が“ムーラン・ルージュ”の設立物語とミックスして、その話のうまさに引き込まれる。
それに、何と言ってもラストの“カンカン”踊りが凄い。
その楽しさ、素晴らしさは、ちょっとそこらでは見当たらない。
ただ観ているのが勿体ないような、ウキウキ感でいっぱいになってしまう。
そんな幸福感で満ちあふれた映画を作れるジャン・ルノワールの才能を、再認識してしまう作品であった。
ラスト近くで、ジョルジュ・ヴァン・パリスの曲、ジャン・ルノワールの詞にコラ・ヴォケールが吹き替えで歌う「モンマルトルの丘」を、YouTubeから貼り付けておきたい。
ラストシーン、ルネ・クレールの『沈黙は金』と同じでしょ.
ジャン・ルノワールの最初の長編作品と言ってよい『女優ナナ』を公開したのがムーランルージュ.
けれども、評価は散々で、ジャン・ルノワールにとって、ムーランルージュは散々な想いでの場所.
観客の男たちは、足を高く上げて踊る踊り子の何処かを覗き込む、カンカンは愚劣な踊り.
『決して高尚な職業とは言えないでしょうが(愚劣な奴等と非難されるかも知れないが)、けれども私達は役者という職業が好きで、好きな仕事に打ち込んで来ました.楽しいことも辛いことも色々なことがあったけれど、けれども皆、役者、芸人の世界が好きで、好きな仕事に一所懸命打ち込んで来たのです』
役者を描いた映画.皆、自分たちを描いた映画だと分っているので、最後のカンカンのシーンは皆が皆、楽しそうで生き生きしている.