ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

忘れ得ぬ作品・10~『ヘッドライト』

2019年03月11日 | 1950年代映画(外国)
以前は何度も観たのに、ここのところ機会がなかった『ヘッドライト』(アンリ・ヴェルヌイユ監督、1956年)を久し振りに観た。

中年過ぎのトラック運転手ジャンは、ボルドーから40キロほど離れたドライブイン“ラ・キャラバン”へ久し振りに立ち寄った。
休憩するために部屋に入ったジャンは、ベットに横たわり回想する。

2年前のこと。
パリとボルドー間の定期便運転手ジャンと相棒ピエロが“ラ・キャラバン”へ車を着けると、若いウェイトレス、クロチルドが働いていた。
ここで休憩した二人は、またパリに向かって帰っていった。

疲れたジャンがパリの場末にあるアパルトマンに帰ると、そこには生活やつれで愚痴の絶えない妻が待っている。
それに、女優を夢見る17歳の娘ジャクリーヌも何かと父親に反抗的な態度を取る。

いつものように、ジャンとピエロが“ラ・キャラバン”に寄ると、丁度クロチルドがここをやめて、出ていくところだった。
クロ(クロチルド)は、ジャンとピエロのトラックに乗せてもらってボルドーの家に向かうが、母親には男がいる上に家も狭いので置いてもらえない。
行く当てもないクロは、ジャンたちのトラックで再び“ラ・キャラバン”に帰ることにする。
途中、居眠り運転のトラックに出くわし、見張り役にピエロがその車に同乗する。
初めて二人きりとなったジャンとクロは、成り行きもあってトラックの中でキスを交わし・・・

ジャン・ギャバンとフランソワーズ・アルヌール。
中年男と若い娘の恋愛。
そこにあるのは、先の見えないどうしようもない程の希望もない恋愛。

クロは元々、男に棄てられたために行き場もなく“ラ・キャラバン”に勤めていた。
このドライブイン兼酒場は、殺風景で何もない場所にポツンと一軒だけ建っていて、寄ってくれるのはトラックのドライバーだけ。
そんな所にいるクロは、微かな未来への希望を求めてジャンに心を開く。

ジャンは長距離運転手として稼いでも、どう見てもやっとの生活。
そのジャンは、生活の糧の職場をクビになる。

クロがパリに出てくる。
クロは妊娠しているが、失業中のジャンにそれをうまく言い出せない。
ある切っ掛けで、ジャンとクロの仲を妻ソランジュにもばれてしまう。
そして、状況はどんどん悪くなっていく・・・

クロを乗せ、雨混じりの濃霧の闇の中をボルドーに向かって走るジャンのトラック。
クロの容体が見る間に悪化していく。
雨を遮るワイパーと、揺れる不気味な人形のマスコット。
闇を切り裂き、浮かぶヘッドライトの光。

これらすべてがジャンとクロの心情と重なり合って、その悲しさ、抵抗のしようのない死へのやるせなさが、ひしひしと胸を打つ。
強烈な印象を残し、クロは私の心に永遠に宿ったままになる。



フランソワーズ・アルヌールの黒いビニール・コート姿。
ジョゼフ・コスマのうら悲しい曲と共に、アルヌールを永遠に忘れられない。

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