原野の言霊

風が流れて木の葉が囁く。鳥たちが囀り虫が羽音を揺らす。そのすべてが言葉となって届く。本当の原野はそんなところだ。

シジュウカラを、眺めながら

2011年05月27日 07時31分17秒 | 自然/動植物

 日本中のどこにでも生息していて、少しも珍しい野鳥ではない。しかし、その名前の由来や生態については意外に知られていない。もっとも野鳥に詳しい専門的な人が知らないという話ではない。普通の人で、鳥を見た瞬間に「あれは何の鳥だ」などと直ぐに言えないような人が対象。その程度の人にとって、あまり知られていないという意味である。というより、私が知らなかったと、言い換えた方が素直か。まさしく、当方はほとんど知識がなかった。ここ数年の山あるきで、いつも彼らを見かけるようになり、なんとなく彼らのことが少しずつ分かってきたのである。

シジュウカラは、一年を通して見ると、春に見かけることが圧倒的に多い。春は産卵と子育ての季節。番の彼らが餌を求めて飛び回るからなのだ。春を告げる野鳥の一つにも数えられている。抱卵はメスだけがする。オスは餌を運ぶだけの役目。どこか人間社会にも似て、ちょっと身につまされる。抱卵は1314日、さらに1622日で雛たちは巣立ちをする。産卵してからひと月ほどで巣から飛び出すとは、かなり成長が早い。

我々人間との付き合いもかなり古いようだ。有史以降ずっと身近に生きてきたのではないだろうか。名前の由来の記録が古くから残っている。覚えたてのうん蓄を、ほんのちょっと披露したい。

資料によると、平安時代には「シジュウカラメ」と呼ばれていた。室町時代となって「シジュウカラ」となった。カラメとは鳥類を表わす語らしい。ヤマガラ、ヒガラのガラと同じ意味のカラとなる。またメはツバメやツバクラメにあるように、やはり鳥類を表わす語だ。カラメには重複して意味が入っていた。そこでメを略して「シジュウカラ」となったという。

シジュウという命名は、どうやら彼らの鳴き声からきているとのこと。さえずりを文字にすると「ツツピーッ、ツピー」となる。地鳴きは「チ、チジュクジュク」と聞こえる。この地鳴きからシジウの言葉が生まれ、シジュウカラとなった、というのだ。

よく似た鳥でゴジュウカラがいる。そのために四十と五十という数字が関係しているという話がよく出る。例えば、シジュウカラは四十羽のスズメと交換したとか、ゴジュウカラは五十羽分のせわしない動きをするから、などと。残念ながらこの話は風聞にすぎない。ゴジュウカラはシジュウカラと区別するためにつけられた名前。基本は「シジウ」の鳴き声から生まれたというのが正解なのだ。

(胸にネクタイのような模様があるのがシジュウカラの特徴)

小林一茶の句に次のようなものがある。

「むずかしや どれが四十雀(シジュウガラ)五十雀(ゴジュウカラ)」

 

一茶の気持ちは分かるが、ちゃんと見りゃ、かなり違う鳥なのだ。名前ほど似ていないと思うのは、多少当方に知識が入ったからなのか。

あの俳聖の松尾芭蕉もまたこの鳥を詠んでいる。

「老いの名を 有りとも知らで 四十雀」

芭蕉もまた数字の名前だと思っていたようだ。それにしても一茶や芭蕉にも詠われたシジュウカラというヤツもまた幸せな野鳥であると思う。

(同じ日に見かけたガラの仲間。左からシジュウカラ、ハシブトガラ、ゴジュウカラ。確かによく似ているが、確かに違う)

一時もじっとしていないその動きを何気なく見ているうちに、道東もまた春が盛りとなったようだ。柔らかな日差しを浴びていると、いつの間にかまどろみに陥る。今のところ地震もない津波もない。わが町はまだまだ平和なのだと、野鳥を見ながらひとり、合点する。こんな風にのどかになる時間がたまにあってもいい。


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2 コメント

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迫力です! (numapy)
2011-05-31 15:15:28
きれいな写真ですね。すごい!
当方も狙ったけど、いい写真が撮れませんでした。
時々「オンナは四十カラ」なんて、ギャグにしてる場合じゃないですね。
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もう戻りましたか (原野人)
2011-05-31 15:30:08
これは結構近づけましたので、何とか撮れましたが、なにしろ動きに追い付くのが大変で。よる歳を感じるこの頃です。
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