原野の言霊

風が流れて木の葉が囁く。鳥たちが囀り虫が羽音を揺らす。そのすべてが言葉となって届く。本当の原野はそんなところだ。

誰もいない交差点の赤信号、GO派 or STOP派?

2009年11月17日 09時05分05秒 | 社会・文化
昔の私は完全なGO派であった。ルールというものは人間のためにあるもので、人間が不便に感じたら、都合に合わせて変えていいものだと思っていたから。ただし、自己責任はきちんと取るべきだと。ところがある時から、赤信号で前に歩く自分に抵抗を感じ始めた。心の中に、何か後ろめたい、とても嫌な感覚が生まれてきた。それはある国で見た出来事がきっかけであった。以来、どんな状況であろうと歩行者であるかぎり赤信号は守るようにしている。

車の交通量が多い東京のど真ん中でも、早朝はほとんど車の往来はない。交差点ごとの信号機は車の往来と関係なく点滅する。ひんやりとした空気の中を、寝ぼけ眼で信号機など全く無視して歩いた。日中はもちろんこんな歩き方はできないが、早朝はこれができる。心地よいさわやかささえ感じて歩いていたものである。そんな時、お巡りさんとすれ違った。当然、注意される。何を言っているのか、と激しく、そのお巡りさんとやりあったこともあった。若気の至りにしてはあまりにも程度が低かった。

二十年ほど前から中華人民共和国(俗にいう中国)へよく行くようになった。その時受けた衝撃がはじまりであった。
ベトナムのホーチミン市から広州市に向かったのが最初の中国訪問だった。深夜に着いていた。朝、ホテルのベッドで奇妙な騒音に目が覚めた。クラクションの長い音がずっと続いている。それもたくさん。最初は耳なりかなと思った。外に出て気づいた。道を走る車がクラクションを鳴らしっぱなしで走るのである。その音が町中に響いていた。理由は歩行者である。車が疾走する道を横断する歩行者が無数にいるのである。それを避けるように車が走る。クラクションは永遠に続く。これは朝のラッシュだけかと思ったら、実は一日中なのである。私の最初の中国の印象はこのクラクションの音がすべてであった。
その後中国各地で同じ光景を目の当たりにする。広州だけではなく北京でも上海でも同じであった。地方都市に行けば行くほど激しい。なにしろ歩行者は交差点の信号を全く守らない。しかもどこでも道を横断する。
赤信号で止まる私に町の人はぶつかりながら追い抜いていく。赤信号だろう!と叫びたくなる。
ある時、中国の友人に聞いてみた。答えは明確ではなかった。「なんとなく」、という。つまり信号というものを全く意識していないというのが真相であった。では車を運転するのは、というと、免許をとる時しっかり教育されるから問題ないという。そのドライバーでさえ歩くときは信号を無視する。どういうことなのだろう?こちらの頭が混乱してくる。
その時友人は、中国人は並ぶことが苦手なんだと語った。バス停に待つ人たちは、決して列を作らない。バスが来ると全員が一斉に入口に押しかける。入り口で押し合いへしあいを続ける。これがバス停の日常なのである。

中国でこの光景を目にしてから、自分だけは信号を守ろうと思った。たとえ中国にいても。そうしなければ、自分の何かが壊れるように感じたからだ。ルールは自分だけが決めるものではなく、社会と言う枠の中で作られるもの。その中で生きるなら、ルールはどこまでもルールでなければならず、状況で左右されるものではない。たとえ中国でも日本でも。自分に都合が悪くても、ルールはやはり守るべきなのだと、遅きに失してはいるが、ようやくそれに気づいた。


北京オリンピックを迎える前から、中国政府は懸命に交通ルールを市民に教育しはじめた。その光景を思い出す。なにしろ国家的威信をかけているからすごい。交差点に指導員を配置して、信号を守らない市民に警告する。当然、指導員と市民の小競り合いが生まれる。最後は力で納得させる。言うことを聞かなければ、警察沙汰になるのだから抵抗はできない。そうして北京オリンピックは開催されたのである。
来年は上海万博。市ではすでに三年も前から交通ルールの徹底が実行されている。年々、厳しさが増している状況だ。なにしろ常識を変えるのだから簡単ではない。でも結局は上海万博も無事に進行するのであろう。だが、市民が本当に納得してルールに従っているのかは、疑わしい。万博が終わると、昔の市民に戻るような気がしてならない。
中国の名誉のために言うが、これはどちらが上とか下という問題ではない。彼らに全くなかった常識が突然入ってきたために起きた混乱なのである。信号を無視して歩いても、彼らには何の問題がなかった。その問題意識を変えるために、行政が主張した言葉が「国際常識を学ぼう」であった。世界中から人が集まるから、それに従えというのが趣旨である。なんかおかしい。だから、きっと、定着しないのでは、と思う。

赤信号はひょっとすると中国政府についているのかも。いいすぎかな!

あなたは、誰もいない交差点の赤信号で、止まりますか?歩きますか?
とても小さなことだけど、大切なことのように感じます。


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4 コメント

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GO! (numapy)
2009-11-17 10:06:07
モチロン、自己責任において赤信号でも渡りますよ!でも原野人さんと同じく、後ろめたくもある。ことに、子供が見ているケース。さすがにこれは社会教育上、マズイ。そういう時は待つ。
交通ルールひとつとっても、中国や東アジアは、これからタイヘンですね。
日本だってつい最近まで、信号無視や荒っぽい運転は当たり前でしたから。体質になるまで相当時間がかかるでしょうね。
日本人は、ようやく常識になった交通マナーを
今後維持できるか、が課題ですね。

ドライバーはもっと酷い (原野人)
2009-11-18 09:53:46
歩行者もそうでしたが、ドライバーもすごい。割り込み、追い抜きは当たり前。信号のない交差点では、どちらが早く突っ込むかが勝負。我々の常識ではとても運転できません。歩行者も思わぬ動きをするので大変危険です。中国では自分で運転しないようにしてました。保険に入っていない人も多く、ぶつけられても損するばかりです。ベトナムもそうでした。東南アジアで運転できるのはたぶん台湾くらいでしょう。
日本では・・・ (numapy)
2009-11-18 21:56:00
河内ナンバーが結構近いですね。
釧路もおとなしいとは言えない。
ただ、東南アジアの比ではないでしょうね。
それに保険がある。
気質は関西風かも (原野人)
2009-11-19 10:54:18
中国の人は関西人とよく似ているような気がします。大阪の電車駅のホームでは、ほとんどの人が並んでいません。同じような感じです。東京ではあんまり見られない風景です。

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