原野の言霊

風が流れて木の葉が囁く。鳥たちが囀り虫が羽音を揺らす。そのすべてが言葉となって届く。本当の原野はそんなところだ。

雪根開き

2011年04月08日 08時56分26秒 | 自然/動植物
雪で覆われた山の斜面で、立木の根元だけ雪が溶け、地肌があらわとなる光景をよく見る。北国の風物詩とも言えるこの風景に先達は美しい言葉をつけた。「雪根開き(ゆきねびらき)」という。「根開き(ねあき)」とか「根周り(ねまわり)」と呼称する地方もある。これが見られる頃となると、寒い北国にもようやく春が訪れる。風景が知らせる時節を見て、先達はここから畑仕事のための準備などを計算していた。自然そのものがカレンダーであった。北国に春を告げる雪根開き。大震災に揺れている日本ではあるが、季節は確実に巡っている。


木の周りだけ放射状に熱線が出て、雪が溶けているようにも見える。どうしてこのような形になるのか。子供の時から不思議に思っていた。木の精が発するオーラがそうさせるのではとも思っていた。御神木などと呼ばれる木があり、樹木は神が宿る場所と言われる由縁を思うと、そう信じたくなる。
しかし、当然ながら原理は極めて科学的であった。白一色の雪原は太陽光を反射する。一方、黒ずんだ幹を持つ樹木は太陽光線を吸収する。陽光を吸収した樹木が温まり、周辺の雪を溶かす。これはつまり放熱作用である。オーラの元はこれであった。さらに少し解けてくぼみのできた雪への直接光と、幹に当たって跳ね返った反射光がさらに雪を溶かして、雪根開きが完成する。科学とはいかにも味気ないが、木の温もりを感じさせる山の風景はこうして出来上がっていた。



エゾシカたちはこうした根周りを目指して春に野山を巡る。ネコヤナギが膨らみ、森は緑の新芽への準備を始める。道東の春はここから動き出している。

山に立つ樹木だけの現象かと思っていたら、折れて雪の上に落ちた枝でも同様のことが起きていた。木というものは折れた枝でも生命があることは分かっていたが、雪を溶かす力まであることを知った。家の素材として使われた材木が百年以上も生き続けている。彼らの細胞は死滅することなく生き続けているのだ。木の強さ、温もりがいかに我々の生活に大切なものであるか、改めて知る思いであった。


人は自然とともに生きてきた。自然に守られて生きてきたとも言える。一方で自然に手ひどい仕打ちも受ける。自然を敬う気持ちが欠けると怒るのかもしれない。もっと自然を注意深く見ることを要求されているのかもしれない。

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2 コメント

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Unknown (木の熱!)
2011-04-08 09:03:50
科学的に言うと、雪根開きは木が吸収したり反射したりする熱が雪を溶かすと言うことですが、誰だったか、名前はチョッと忘れましたが、著名な作家が木が持つ生命エネルギーで周囲の雪を溶かすと、力強い文章で表現してました。
それにしても、標茶はまだ雪が深いですね。
今日雪崩注意報が出てます。本州で言えば、標高1600mぐらいの気象現象ですね。
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木の生命力 (原野人)
2011-04-08 13:26:15
科学は科学として、樹木の生命力は神秘的に感じます。特に木造建築に強く感じます。命のエネルギーとはこういうもんだと思います。
雪は軍馬山のもので、さすがに町の中はこんなに雪はありません。これでも昨年の雪の半分くらいしか降らなかったのですが。
今年は早めに山に入ることができました。
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