原野の言霊

風が流れて木の葉が囁く。鳥たちが囀り虫が羽音を揺らす。そのすべてが言葉となって届く。本当の原野はそんなところだ。

私的、マスメディア論

2010年12月03日 08時57分51秒 | ニュース/出来事
新聞やテレビの報道に違和感を覚えたきっかけは、朝日新聞であった。北京で発生した天安門事件(1989年)の時、朝日新聞は中国政府を擁護する記事を書いていた。これが出発点であった。文化大革命で多くのマスメディアが北京から追放された中で、残っていたのが朝日であった。西欧から届く報道と明らかに内容に違いがあった。小さな疑問は少しずつ拡大した。現在ではテレビを含めて、日本におけるマスメディアのジャーナリズムの役割は、すでに終焉したと、私は思っている。

1989年という年は、沖縄でサンゴ礁事件も起きていた。朝日新聞の専属カメラマンが自作自演でサンゴ礁を傷つけた事件であった。朝日新聞にたいする疑問に拍車をかけた。この微妙な疑問が確信に変わったのは、その数年後であった。仕事でしばらく北京に滞在していたことがある。この時、林彪の長女と知り合い、林彪事件について話を聞くことができた。そして、当時の朝日新聞の報道がいかにいいかげんで、嘘の多いものであったかを知らされたのである。
当時、中国は文化大革命の嵐の中にあった。外国メディアは北京から追放されていた。なぜか日本の朝日新聞(NHKも)は駐留を許可されていた。ここにポイントがあった。
事件は1971年9月に起きている。この事実を中国は約10カ月余り隠し続けた。この間に西欧のメディアや日本のサンケイ新聞や読売新聞が林彪に何かが起きていると報道していた。それをことごとく否定したのが日本の朝日新聞であった。中国の報道については、基本的に新華社通信が発信する。しかしこの通信社は中国の政府機関である。そのままでは信用されない。ところが日本の朝日新聞が報道するとなるとまったく違ってくる。中国政府の意思をくんで朝日新聞は西欧の報道を否定する報道を続けた。中国は朝日新聞を利用したのである。これはジャーナリズムとして「死」を意味する行為である。朝日新聞はそれを行っていた。
中国政府に対するこの貢献の結集が天安門事件であった。この当時に感じた違和感の理由がようやく理解できたのである。文化大革命以来、天安門事件の時まで海外メディアは中国国内では自由に取材できなかったのである。これもまた驚くべきことだが、すべて中国政府に有利なように報道していた朝日新聞にも驚かされる。以来、私は朝日新聞をまったく信用できなくなった。

だが、15年ほど前くらいから他の新聞もあまり大差ないことを感じ始めた(サンケイは多少違うが)。ほとんどが横並びの記事。内容に大差がない。記者同士のサークル活動なのである。元凶は記者クラブにあるらしい。そこから流れるニュースソースを皆で共有する。だからトクオチ、トクダネが生まれない。共存共栄の世界なのである。そんな記事が面白いわけがないし、一つの方向でまとまり、世論操作も可能となる。これはある意味恐ろしい話だ。私は自然に新聞から離れていた。
尖閣諸島で事件が起きた時、中国の内陸部で300人から500人規模の反日デモが起きている。日本のマスメディアは一斉に報道していた。一方、同じ時期に東京では中国に対する抗議デモがあった。約2千人の日本人が集まっている。この日本国内のデモについてテレビも新聞も一切報道していない(ネットでは流れた)。どういうことだろう?日本のマスメディアは思考停止なのか。誰かに左右されているのか。メディアがある種のイデオロギーに支配されている。自社の意思に沿わない本の広告掲載を拒否する北海道新聞などそのいい例に思う(2010年2月9日のブログ参照)。

テレビは基本が娯楽。ニュースショーはバラエティ番組と大差ない。とは言え、新聞各紙を並べて今日のニュースとする神経が分からない。これはテレビ局が知り得たニュースではなく、新聞社のニュースである。このことに彼らは何の疑問も感じないのだろうか。おまけにコメンテーター呼ばれる人種のレベルの低さは目を覆いたくなる。スポーツ選手や芸能人にニュースのコメントを求めてどうするのか、と言いたい。知識人と呼ばれる人もひどい。専門部門はいいとしても少し外れるとお手上げ。あらぬコメントを言いだす。こんなテレビでいいのだろうか?しかも、明らかな間違いが多い。ま、視聴率がすべてのテレビなのだから、芸能ニュースを垂れ流していればいいのだろう。正当なジャーナリズムは死んでいるといっても、言い過ぎではない。

スポンサーがつかないNHKなら、そんな心配はないと思っていたが、昨今の偏向報道はひどい。一つの例を出せば、昨年4月に放送された台湾報道(NHKスペシャル、JAPNデビュー)。自虐史観どころではなく、明らかな間違いを犯していた。意図的な間違いでもある。これを見た台湾の人が怒っている。訴訟も起きているのに、いまだNHKは訂正もしない。明らかに確信犯である。この放送を見て賛同したのは共産党と一部の市民運動家だけであった。その内容の偏向度が分かるというものである。

日本のマスメディアの報道は絶望的に感じ、情報源をインターネットに頼るしかなくなった。それとても各新聞社や通信社経由のもの。距離を置きながら、懸命に整理しながら見ている次第だ。
だが、日本人のジャーナリストでもこの人だけは、と思う人が数は少ないがいる。その人たちは全く個人で活動していて、独自の情報ルートと人脈をフルに生かして報道をしてくれる。彼らの政治報道、国際報道は納得できる。こういう人たちがもう少し増えてくれればいいのだが。既存のメディア(とくに新聞)には希望は持てない。
やはり、報道は自分の足で見たもの、自分が獲得したものを訴求しなければ、意味がない。上から垂れ流されたソースを、ただ紙上や電波に載せるだけではジャーナリズムとはいえない。日本のジャーナリズムは「死んでしまった」と言っていい。

こんなことを思っている時、インターネットにとんでもないサイトが現れた。「ウィキリークス」という内部告発サイトである。これは尖閣の衝突映像の流失などのレベルではない。外交機密文書がダイレクトに流されるのである。もちろん報道ニュースでもない。告発そのものである。この真偽については、正直まだ不安はあるが、各国の外交官の怒りに満ちた表情を見ると、かなり信憑性は高い。このサイトに登場した告発と世界のニュースを重ね合わせると、報道の真の中身が分かる。そこに価値がある。だいたい、他国の首脳の悪口を文書に残す愚かさを責めるべきだろう。
映像で流されたイラクでの惨劇は衝撃であった。真実というものはこうして晒されなければならない。政府の言う通りの報道をするメディアは自らの使命を汚しているということなのだ。その意味でも内部告発サイトの登場は、私は歓迎する。

*林彪事件:林彪は当時中国のナンバー2。毛沢東の後継者に指名されながら、1971年に毛沢東暗殺を計画したとされている。逮捕直前に飛行機で逃走。モンゴルの高原に墜落して死亡。妻と長男を同時に亡くしている。中国政府はこの事実を翌年の7月まで隠していた。長女は逃亡に加わらず一人生き残る。暗殺計画そのものにも疑問があり、謎の多い事件である。機会があれば知り得た情報を公開したいと思っている。

*ウィキリークス:2007年ころから活動。主宰者はジュリアン・アサンジというオーストラリア人と言われている。本拠地はスウェーデンともベルギーとも。米外交公電が25万点あり、まだ未公開情報もたくさんあるという。これからどんなものが登場するのか、興味深い。

最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
どこへ行くんだろう? (numapy)
2010-12-03 17:26:12
コミュニケーションツールが増えれば増えるほど、
コミュニケーション量は増える。
人間はどこまで言葉や映像によるコミュニケーションを必要とするのか?
SFの古典でポール・アンダーソンが書いた「脳波」という秀作があります。コミュニケーションに対する示唆に富んでます。
返信する
選択、管理の時代ですね。 (原野人)
2010-12-03 20:03:40
いままではただ情報を受け取るだけだったけど、これからは情報を自分で整理して、的確に選択と分類する時代となったということではないでしょうか。情報はさらに細分化され無限大に膨らみます。そのすべてを受けられるわけがありません。受け手が考える時代ということですね。
ますます、面倒な時代です。私には結構面白いですが。
返信する
情けない新聞 (近くの町の住人)
2010-12-04 21:01:32
1年程前に自分が関わっている団体にかなりの不正が見つかり問題となりましたが 北海道代表の新聞が詳しく書かないのです。きっと書けない何かが新聞社に有ることがその時初めて知りました。その2,3日後にその公益団体に対して新聞記事の内容が不正を差し置いて擁護する記事を書いたからです。それまでの私は何気なく又疑問も無く読んでいましたが、今は「ああ、何でこんな文になるのか 気分悪う」購読やめれば解決するのですが最近の自分はあら探しが日課になっています。もっともっと書いてください。友達も楽しみにしていますので。
返信する
やっぱり、そんなことが、 (原野人)
2010-12-05 10:01:58
近くの町の住民さん、こんにちは。

私は道新を定期購読しておりませんので、その記事は読んでおりません。でも内容は想像つきます。事件のことも知っております。
メディアが自分の主張を持つことは悪いこととは思いません。米国のように支持政党までアピールするのはどうかとは思いますが。しかし、不正を擁護しては問題です。北教組の選挙違反の時の報道もかなり腰が引けてました。同じ仲間なのではと思ってしまうほどです。メディアが一番するどく追及しなければならないときなのにです。道民を愚弄しているとしか思えませんね。
返信する

コメントを投稿