やんまの気まぐれ・一句拝借!

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この山河残せ残せと五郎助ホウ 中村栄一

2019年01月15日 | 俳句
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中村栄一
この山河残せ残せと五郎助ホウ
梟が「五郎助ホウ~五郎助ホウ」と鳴いている。鶯が「法法華経!」と聞こえるたぐいの話。久しぶりに聴くこの声はここに豊かな自然が残されている証明(あかし)である。次々と破壊されてゆく自然に梟がこの山河を残せ!残せ!と訴えているかの様だ。小生の周囲にも啄木鳥や大鷹が生息していたが今は利根水系の河畔林へと追いやられてしまった。流山オオタカの森駅が出来て高層ビルや劇場が建設されている。あの梟君たちはどこかで元気に過ごしているだろうか。:読売新聞「読売俳壇」(2019年1月7日)所載。
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冬薔薇の刺にさされし血は甘し 真砂女

2019年01月14日 | 俳句
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鈴木真砂女
冬薔薇の刺にさされし血は甘し

冷たい空気が凛と張り詰めた中に薔薇が咲いた。あまりの美しさにそっと手を差し伸べる。チクリと刺に刺されてしまう。とろりと真っ赤な血が少々流れそれを口で吸う。甘い。これは自分の味である。勝手な想像ながら血の色の紅の薔薇だったか。近頃は薔薇の品種も豊富で様々な色や模様がある。黄色佳しピンクまた佳し。あなたなら何色が好きですか。綺麗な花には刺がありますのでご注意を。:鈴木真砂女句集「紫木蓮」(1999年7月2日)所載。
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カルテにも終章のあり冬灯 橋本喜夫

2019年01月14日 | 俳句
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橋本喜夫
カルテにも終章のあり冬灯
一病息災とは言うがそれもいつかは終りの時がくる。長い間看て来そこに書かれた数々の病歴にも終章がやって来た。寒々とした冬灯の下に最後の一行を記入して閉じる。さて一患者としての感慨も様々あろう。小生の持病は心臓全体の心不全なので不整脈対策の血液さらさら系の投薬で余命を保っている。何故か他人ごとと思っていたあの事を近頃身に沁みて考える様になった。流行りの終活本を買ってきたがまだ手を付けていない。無になるだけの事さはさりながらも。:雄山閣「新版・俳句歳時記」(2012年6月30日版)所載。
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破けたる障子まずしきすきま風 寺山修司

2019年01月13日 | 俳句
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寺山修司
破けたる障子まずしきすきま風
破けた障子からすきま風が吹いてくる。ぼろぼろの貧乏長屋で母は子育てをしていた。戦後父を亡くして子育てをした母は多かっただろう。小生の母も父の戦死通達を受けて一人子育てをした。錆びた釘などの鉄屑拾っては売り捌き、野草を摘っでは煮込んで糊口を癒した。おんぼろ長屋の屋根からは雪が舞い込み鳩が居間に同居した。雪の夜が明ければ枕元にうっすらと白いものが積もっていた。木枯の音を聞く度にあのすき間風を思い出す。:彩図社『名俳句一〇〇〇選』(2002年2月1
日)所載。
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重なつて覗ゐてをりぬ福笑ひ ひであき

2019年01月12日 | 俳句
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ひであき
重なつて覗ゐてをりぬ福笑ひ
目隠しをして顔の部品を組み立ててゆく。目が口の下へ行ったり鼻が横を向いたりさんざんな出来上がりである。進行する成り行きに見学人の家族は爆笑また爆笑となる。福々しい顔が重なって笑いに包まれるなんて何と楽しい時間なんだろう。笑う門には福来る。福笑いの面目躍如である。そう言えば最後に大笑したのは何時だったか記憶にない。冷めている自分が悲しくも淋しい。願わくば我に笑顔を取り戻させたまえ。:つぶやく堂ネット喫茶店(2019年1月3日)所載。
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諸々の命眠りし冬田かな 三上繁夫

2019年01月11日 | 俳句
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三上繁夫
諸々の命眠りし冬田かな
お餅の鏡も割れて人間達が始動した。さはさりながら冬田はまだ眠っている。その土壌の中に諸々の命が眠っている。子供が遊びに泥鰌救いならぬ泥鰌堀りをしている。上手く当たれば泥鰌が束ねるほど掘り出せる。野鳥が眠っている昆虫を啄む風景も見られる。少々水があれば蛍の幼虫も息づいている。空には陽が燦燦と輝き大地の様々な命を育んでいる。:俳誌『百鳥』(2018年4月号)所載。
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双六の絵にも超ゆべき幾山河 江川虹村

2019年01月10日 | 俳句
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江川虹村
双六の絵にも超ゆべき幾山河
賽の目の運不運によって振り出しから上がりのゴールを目指す。途中には現実の人生さながらに幾山河が据えられている。今年の運勢はいかがなものか。終わってみれば孫が勝っての笑顔も佳し、他の誰が勝ってもみな嬉しい。今年もこんな楽しい一年が過ごせればいいな。それにはまず今の健康を保つ事。小生も現状の一病息災を継続したいと願っている。:角川「新版・俳句歳時記」(1990年12月15日版)所載。
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日向ぼこあの世が混んで来たりけり 神蔵器

2019年01月09日 | 俳句
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神蔵 器
日向ぼこあの世が混んで来たりけり
風も無い穏やかな午後日向には老人達がたむろしている。何だかあの世への順番を待つ列の様だ。きっとあの世が混んでいるのだろう。それでは困ると言うので神様は寿命を伸ばすことにした。かくして時代は七十八十鼻垂れ小僧九十少年百才成人に突入の勢いである。生死の事は原則神様にお願いしているので自分では考えない事にしている。妻は葬式代程度の生命保険を掛けたらしいがどんな計算をしたのだろう。:講談社「日本の四季・旬の一句」(2002年2月5日)所載。
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寒の池御玉杓子の丸々と 香田なを

2019年01月08日 | 俳句
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香田なを
寒の池御玉杓子の丸々と
寒の池に丸々としたお玉杓子が泳いでいる。今年は1月6日が寒の入(小寒)で立春までの寒い寒い時期ではある。さぞかし元気な蛙になる事だろう。四分音符への連想からお玉杓子の歌を思い出す。確か鯰の孫ではありませんとか。そのうち新種で髭の有るお玉杓子が現れたらどうやって判別するのか。今年も妄想癖は治りそうもない。何はともあれ蛙跳び込む水の音が待ち遠しい。:俳誌「はるもにあ」(2018年3月号)所載。
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枯れ切つて枯れゆくものと斜交ひに 望月周

2019年01月07日 | 俳句
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望月 周
枯れ切つて枯れゆくものと斜交ひに
己の枯れを自覚しつつ尚枯れゆくものと斜交いに対峙している。この抽象性は何だろう。俳句は客観写生の時代かと思っていたらこんな手もあったか。自己の奥深いものを客観描写すればこうなる。この言わば主観的絶対の描写に、読み手はどう感応するのか。駄目っ句専門の小生ならば息絶え絶えで枯蟷螂に魅入られている図が浮かぶ。:俳誌角川「俳句年鑑」(2019年号)所載。
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癖のある年寄りになり薬食い 田島浩

2019年01月06日 | 俳句
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田島 浩
癖のある年寄りになり薬食い
自分でも年を取ったと思っている。だから自由気ままに生きている。それが人さまには癖がある人物だと言われる様になった。新しい人を紹介された時「こいつは癖があるから驚かないでね」と言われて自分で自分を得心した。そんな気ままな生き方でも年は年近頃は薬食と言って滋養のある肉類をなるべく食する事にしている。一度旅先で鹿を食べたが特徴は記憶にない。年齢的に量の多くは無理なので美味しいものをじっくりと味わいたい。:読売新聞「読売俳壇」(2018年12月24日)所載。
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初電話星の近さを伝え来し 石井薔子 

2019年01月04日 | 俳句
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石井薔子
初電話星の近さを伝え来し
正月もほっと一息ついていると電話が鳴った。今時ならスマフォのメールで来るところこの家では電話が鳴ったのである。声の主は弾む様な抑揚で「今星が見えてるよ。手に取る近さだよ」と話しかけている。かくして今年は喜びの声で始まった。良き一年である予感がする。それにしてもアナログの電話のベルが懐かしい。:石井薔子句集「夏の谿」(2012年9月20日)所載。
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絵双六人生戻ることできず 宇咲冬男

2019年01月04日 | 俳句
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宇咲冬男
絵双六人生戻ることできず
子供の頃の家族団らんを思い出す。室内でのいろは歌留多や双六。屋外では凧を上げ独楽を回した。声を掛ければ遊び友達がわっと寄って来た。あの悪餓鬼どもは今どうしているだろう。孫も大学生になって遊んで貰えなくなった。時々一人寂しくわが人生行路を振り返る事がある。あの頃へ戻りたい。戻れない。:雄山閣「新版・俳句歳時記」(2012年6月30日版)所載。
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羽子板の役者の顔はみな長し 山口青邨

2019年01月03日 | 俳句
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山口青邨
羽子板の役者の顔はみな長し

板が長いから自ずと絵柄も長くなる?訳でもなかろうに役者の顔が皆面長である。成田屋こと団十郎が似合いそうだ。何処で買ったらいいか。羽子板屋さんは無いだろうから特設の羽子板市へでも行くのか。この時代だからネット通販もありかなあ。人気役者の他にも時代を象徴する絵柄も人気だ。さて今年を象徴する羽子板は何。天皇皇后、スポーツの英雄、ノーベル賞?何にしても目出度い。:彩図社『名俳句一〇〇〇選』(2002年2月1
日)所載。
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本降りの前のささやき雪の夜 ひであき

2019年01月02日 | 俳句
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ひであき
本降りの前のささやき雪の夜
ちらりほらりの雪催い。それが段々と冷え込んで本降りになりそうだ。森閑とした空気に雪の気配が音となって聞こえ出した。近年は地球の温暖化でまだ雪を知らない子もあるのでは無いか。東京大阪といった大都会の子供は雪を喜ぶのだろう。雪に苦しむ雪国の人々は年々高年齢化して辛くなる事だろう。気を前向きに明るく保ち音痴ながらも~雪やこんこん・降っても・降っても・まだ降り止まぬ♪~。失礼しました。:つぶやく堂ネット喫茶店(2018年12月23日)所載。
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