やんまの気まぐれ・一句拝借!

俳句喫茶店<つぶやく堂>へご来店ください。

こほろぎやいつもの午後のいつもの椅子 木下夕爾

2017年09月15日 | 俳句
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木下夕爾
こほろぎやいつもの午後のいつもの椅子

午後の一時を寛いでいる。いつもしている様にいつもの椅子に座る。目をつむればちろちろと聞こえているのはコオロギの鳴き声である。忘我の境地とはこの事だろう。こう考えてみるとあくせくして日々の生活に追われている自分が小さく見える。所詮終われば一切が無。されど心の芯に残った埋火を如何にせむ。そうだもう一度恋でもしようか♪ Love is a exciting affair ♪:『名俳句一〇〇〇』(2002・彩図社)所載。

わが影の真中がうすし十三夜 西山睦

2017年09月14日 | 俳句
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西山 睦
わが影の真中がうすし十三夜
十三夜だと言う日。雲間に隠れては顔を出す月も十五夜に少し欠けてはいるが趣がある。見上げた顔を地面に落とせば長々とわが影がある。よくよく見れば真中が薄い気がする。多分気の迷いだろう、いやそれやこれやも加齢現象と言うべきか。今宵の月に気が昂ぶってきた。酒が恋しい。:雄山閣「新版・俳句歳時記」(2012年6月30日版)所載

朝顔の色とりどりに深呼吸 白馬

2017年09月13日 | 俳句
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白馬
朝顔の色とりどりに深呼吸
朝起きて窓を開けて深呼吸する。何とも空気が清々しい。つと目に飛び込んだ色とりどりの朝顔、これが辺りを清々しくしていたのだ。朝顔もまた口を大きく開けて深呼吸している。これが健康というものか。自分も家族もそこそこにそれなりに暮らせる幸せ。今日一日もなにか良い日になりそうだ。:岳ふみ游俳倶楽部第157号(2017年9月)所載

立ち止まりたちどまりして大花野 浜風

2017年09月12日 | 俳句
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浜風
立ち止まりたちどまりして大花野
野に出れば今や秋の草花の最盛期。豊かな風に実りの穂が波打つ。歩いては立ち止まり振り返ってはまた歩く。空気も澄んで一歩一歩が命の洗濯をしている如し。こんな時四季に恵まれた日本に生まれたことが何故か嬉しい。ホップステップジャンプと心も軽い。ところで秋の七草って言えるかなあ。萩・尾花・葛・女郎花・藤袴・桔梗・撫子、秋の七草。:つぶやく堂「俳句喫茶店」(2017年9月2日)所載

バス停の小さな木椅子小鳥来る 大橋すすむ

2017年09月11日 | 俳句
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大橋すすむ
バス停の小さな木椅子小鳥来る

バス停に小さな木椅子が置かれている。のんびりとバスを待っていると付近の雑木に小鳥がやって来た。クチュクチュ、クチュクチュと姦しくお喋りをしている。バスの時間にはまだ間がありそうなので小さな椅子に腰かけて寛ぐこととする。ふと大事なものを思い出した気がした。かつて心が安らいでゆったりした時の記憶が遠い遠い日であることに思い至った。:俳誌「百鳥」(2016年12月号)所収。

蜩の声より過去となりゆけり 油布五線

2017年09月10日 | 俳句
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油布五線
蜩の声より過去となりゆけり
かなかなかなと哀調を帯びて蜩が鳴いている。やがて薄暮は闇のなかへと埋没してゆく。今日の労働が終わり今日の出来事が過去となってゆく。どんな出会いがあったろうか。泣いて笑って黙して別れたあの顔この顔。辻の大樹もどさっと葉を降らせて人を驚かせた。ジョウビタキが何時もの枝でピピッと鳴いた。たった今の出来事は最早過去となって消えてゆく。かなかなかな哀し哀し。:角川「合本・俳句歳時記」1990年12月15日版所載。

重陽の穴ある三角定規かな 栗栖恵通子

2017年09月09日 | 俳句
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栗栖恵通子
重陽の穴ある三角定規かな
菊の節句を迎えた。九と九の重なって何となく目出度い日である。三角定規の穴に指を当て図面を引こうとしている。我一生の城作りの夢かも知れない。マイホームの夢をささやかな現実の形に落としてゆく。ライフサイクルでは子を為して孫を得たる未来に備える図面である。何と言っても目出度い重陽、革袋は無いがせめてコップで菊の酒をいただくことにする。:『新版・俳句歳時記』(2001・雄山閣出版)所載。


進化より回帰が似合ふ曼殊沙華 高橋寛治

2017年09月08日 | 俳句
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高橋寛治
進化より回帰が似合ふ曼殊沙華
俳句に上手くなろう上手くなろうと思った時期があった。その結果得たものは味もそっけも無い不味い句ばかりだった。ふと昔初心だった頃の句を見直してびっくり、自分が自分に驚いた。そうだこの原点に帰ろう。世間の句柄とは違うがそこには自分が投影されている。身辺に曼殊沙華が真っ赤に燃えている。<初恋はこの故郷の赤のまま や>:俳誌「ににん」(2017年冬号)所収。

秋暑し朝三錠のサプリ飲む 岡田智恵子

2017年09月01日 | 俳句
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岡田智恵子
秋暑し朝三錠のサプリ飲む
春先の三寒四温の逆で三温四寒で季節は秋色を深めてゆく。人は爽やかな朝の外気を浴びて命の喜びを感受する。今日の元気を明日へとせっせせっせとサプリメントの錠剤を呑む。毎朝の三錠はルーテインとなっていて忘却することもない。それにしても今朝の暑さよ。友への葉書の冒頭に「残暑厳しい候ですが」と書き出す。天狗小屋の風鈴がチャリーンと鳴る。:俳誌「百鳥」(2016年12月号)所収。