〈川俳会〉ブログ

俳句を愛する人、この指とまれ。
四季の変遷を俳句で楽しんでいます。「吟行」もしていますよ。

拾い読み備忘録(103)

2016年05月10日 18時11分49秒 | エッセイ
グルニエの本を読んだ。そこには彼のすべてがある。そしてぼくは、彼に寄せる讃嘆と愛が増大するのを感じている。まさに人間性から遠ざかろうと努めながら、できうるかぎり最大限の人間性を引き受けている、ということが言えるのは、彼自身についてなのだ。彼の本に統一を与えているのは、死の絶えざる現存だ。ぼくは、ぼくの生きかたをなんら変えたりしないのに、なぜグルニエのその観点だけでぼくがより荘重になり、人生の荘重さにより浸透されたものになるのかが、それでわかるのだ。
ぼくはぼくをこのようにしてしまう人間を知らない。彼と二時間もすごすと、いつも自分が膨らんでくる。どんなにぼくが彼のおかげを蒙っているか、そのすべてを、ぼくは果たして知ることができるのだろうか?
《「読書ノート(1933年4月)」より》
「直観」アルベール・カミュ 高畠正明訳 新潮社 1974年
                           富翁

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拾い読み備忘録(102)

2016年05月09日 16時38分55秒 | 小説
二人の借りてゐる二階の硝子窓の外はこの家の物干場になつてゐる。その日もやがて正午ちかくであらう。どこからともなく鰯を焼く匂がして物干の上にはさつきから同じ二階の表座敷を借りている女が寝衣の裾をかゝげて頻に物を干してゐる影が磨硝子の面に動いてゐる。
「ちよいと、今日は晦日だつたわね。後であんた郵便局まで行つてきてくれない。」とまだ夜具の中で新聞を見てゐる男の方を見返つたのは年のころ三十も大分越したと見える女で、細帯もしめず洗ひざらしの浴衣の前も引きはだけたまゝ、鏡臺の前に立膝して寝亂れた髪を束ねてゐる。
「永井荷風 ひかげの花」永井壯吉著 中央公論社 昭和二十一年
                           富翁
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ゴールデンウイークが過ぎて・・・

2016年05月09日 08時55分38秒 | 宗教
GWであったことすら気が付かないまま、時が過ぎました。
やんぬるかな。

割り算で 余りが出るとき 考えた
割り切れぬ 思いが残る 幾星霜
いつかやろう その「いつか」にいる わたしです
安楽
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拾い読み備忘録(101)

2016年05月08日 18時00分41秒 | エッセイ
…………高座をつとめる藝人もみんな鬱屈を背にしたような、冴えない表情をしていた。そんな冴えない表情をした藝人たちが、ひとたび口をひらいて自分の藝にかかると不思議なことに寄席全体が、ぱっと明るくなるのだ。その変わり目にふれるのが楽しかった。面白かった。ひとを嬉しい気分にしてくれた。
もちろんなかには、はじめから終いまで明るくなろうとせず、冴えない表情のままで自分の持ち時間を消化して、楽屋へ去っていくさびしい藝人もいないではなかった。それはそれで、また別の魅力を寄席の番組にそえていたのだ。見違えるように、明るい色彩を高座にふりまいてみせたひとも、ひとたび自分の藝を終えると、とたんに元の屈折した姿に戻るのだが、この戻る瞬間にまたなんとも言えぬ味わいを、いい藝人は持っていた。
(「第一講・寄席との出会い」より)
「昭和の演藝二十講」矢野誠一著 岩波書店 2014年
                      富翁
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拾い読み備忘録(100)

2016年05月07日 22時36分07秒 | 宗教
まことに人の苦痛は人の慰藉を以て慰めることは出来ない。人の千言万語もこの点においては何らの益ない。ただ主キリストを知りてすべての苦難に堪え得るのである。ヨブの苦闘が進んでパウロの救主発見に至て、苦痛は苦痛でなくなるのである。キリストが心に宿るに至って、人の慰藉を待たずして苦痛に堪え得るに至るのである。故に一度パウロの如き心を我に実得し得ば、すべての難問題が難問題でなくなるのである。最も不幸なる人さえ最も幸なる人となり得るのである。しかるに世には不幸に会せしため信仰的自殺を遂げし人が少なくない。これ肉体的自殺と相選ばざる忌むべきことである。我らはキリストに縋りて、すべての悲痛艱難に勝つべく努めねばならない。
…・・
「ヨブ記講演」内村鑑三著 岩波文庫 2014年
                   富翁
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残り一本の前歯

2016年05月07日 06時52分48秒 | 戯曲
わたしの前歯は「部分入れ歯」と称しております。支えているのは左3本、と右1本
この右がなくなりますと、あわれわたしの前歯は総入れ歯に。およよ。

やれ打つな 雀じゃないよ 前歯だよ
ただでさえ 食の楽しみ 奪われて
眼鼻耳 口はぼろぼろ どうなるの?
安楽
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拾い読み備忘録(99)

2016年05月06日 18時41分05秒 | 
 萎れてゆく花たちの美。花びらは身をよじる、まるで火にかざされているように。全く、文字どおりの脱水作用。花びらは身をよじる、種子を露出させるために。種子たちに、幸運を、自由な土地を与えようと決心しているのだ。
そのときだ、花にむかって現れるのは、自然が、みずから開く力が、みずから拡散する力が。花は、痙攣する、身をよじる、躊躇する。そして、育ててきた種子たちが自分を離れてゆく、その勝ち誇るままにまかせるのだ。
(「動物と植物」より)
「物の味方」フランシス・ポンジュ 阿部弘一訳 思潮社 1971年
                            富翁

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拾い読み備忘録(98)

2016年05月05日 20時49分36秒 | 小説
男が狩りをし、戦っているあいだ、女は策を練り、夢を見る。つまり、女は幻想の母、神々の母なのだ。女は自らに備わる第二の目と翼で、果てしない欲望と想像の世界へと飛びたってゆく…・。神々は男に似てひとりの女の胸で生まれ、死んでゆく…・・。
  ジュール・ミシュレ
(「アウラ」より)
「フェンテス短篇集 アウラ・純な魂 他四篇」木村榮一訳 岩波文庫 1995年
                                 富翁

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庭のバラ

2016年05月04日 16時47分25秒 | 俳句
風に耐え咲き散るまでのバラのとげ

一輪挿しピンクの花びら重たくて

先輩
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拾い読み備忘録(97)

2016年05月03日 22時13分44秒 | エッセイ
日本酒は冬、十一月中頃から仕込みをはじめ、歳があけた春先に最初のしぼりの新酒「あらばしり」をとる。この生酒はまだピチピチと勢いがよくはじけるような魅力をもつ。
これがひと夏越して「夏越(なご)しの酒」に、秋に旨みののった「秋上り」となり飲み頃になる。十月一日を日本酒の日とするのはこの秋上りに合わせたものだ。この頃は海山の収穫物も出そろい、酒もそろそろ燗酒が恋しくなる、いわゆる酒のうまくなる頃だ。
「超・居酒屋入門」太田和彦著 新潮文庫 平成15年
                       富翁
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税金の季節(ブッス~)

2016年05月03日 15時17分17秒 | 俳句
年金生活者にとり、過酷な時期。
老人から税金徴収するってか!!
(年金に所得税とは。意味不明)

定年後 美味しい水は なかりけり
高齢者 うようよいます 我が国は
所得税 固定資産税 地方税
老人税 長生きに税 葬儀税(オトロシキ妄想)
安楽
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不機嫌になる時

2016年05月02日 06時29分47秒 | 俳句
突発性低血圧に関係があるかもしれません。あるいは内にこもる怒りのようなもの。

我がうちの プレート弾ける 微振動
鎮めるに ひたすら書を読む 文を書く
句をつくる 春夏秋冬 ありがたや
夏に備え 朝顔の床 しつらえる
ぎらぎらの 夏待ち焦がれる 我が身体
安楽with no anger
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拾い読み備忘録(96)

2016年05月01日 21時14分29秒 | エッセイ
発音は、外国語学習における最も難しい問題のひとつであり、また、われわれの学習の正しさを計る物差しでもあります。無論語彙や文法を知らなくては、大した会話ができるはずもありませんが、外国語でコミュニケーケートする時、相手が、われわれの外国語の知識を判断する最初の基準は、まず第一に発音なのです。われわれの能力を判断する材料として、それはちょうど女性における容姿のような役割を演ずるのです。美人は、初めに姿を見せた時は《常に正しい》のです。後になって、彼女は実は馬鹿で、退屈で、意地悪だということが明らかになったりするものですが、最初の内は、何と言っても、やはり軍配は彼女の方に上げられるのです。
「わたしの外国語学習法」ロンブ・カトー著 米原万里訳 ちくま学芸文庫 2000年
富翁
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