〈川俳会〉ブログ

俳句を愛する人、この指とまれ。
四季の変遷を俳句で楽しんでいます。「吟行」もしていますよ。

拾い読み備忘録(101)

2016年05月08日 18時00分41秒 | エッセイ
…………高座をつとめる藝人もみんな鬱屈を背にしたような、冴えない表情をしていた。そんな冴えない表情をした藝人たちが、ひとたび口をひらいて自分の藝にかかると不思議なことに寄席全体が、ぱっと明るくなるのだ。その変わり目にふれるのが楽しかった。面白かった。ひとを嬉しい気分にしてくれた。
もちろんなかには、はじめから終いまで明るくなろうとせず、冴えない表情のままで自分の持ち時間を消化して、楽屋へ去っていくさびしい藝人もいないではなかった。それはそれで、また別の魅力を寄席の番組にそえていたのだ。見違えるように、明るい色彩を高座にふりまいてみせたひとも、ひとたび自分の藝を終えると、とたんに元の屈折した姿に戻るのだが、この戻る瞬間にまたなんとも言えぬ味わいを、いい藝人は持っていた。
(「第一講・寄席との出会い」より)
「昭和の演藝二十講」矢野誠一著 岩波書店 2014年
                      富翁
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