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なぜ「そうじ」をすると人生が変わるのか? 【その1】ー拾った人だけがわかるんじゃよ

2011-04-15 20:59:47 | 意見発表
【その1】 2011年4月8日 志賀内泰弘 [コラムニスト]
ダイヤモンドオンライン
なぜ「そうじ」をすると人生が変わるのか? 【その1】
実話をベースとした日本初の「そうじ小説」

この記事は、実話をベースとした日本初の「そうじ小説」である『なぜ「そうじ」をすると人生が変わるのか?』の【第1話】を、全5回に分けて、公開するものです。

【はじめに】
 本書は、実話をベースとした、日本初の「そうじ小説」です。

 読み進めていく中で、「そうじをするだけで、こんなことが起こるはずがない!」

 と思う読者もいらっしゃるかもしれませんが、本書は、著者自身の体験はもちろん、全国の経営者、友人、知人たちから集めた、実際に起こった「さまざまな実話をベース」に書かれている小説なので、「フィクションだから…」と一概にはあなどれません。

 主人公は、とあるサラリーマン。公園で見かけた「ゴミ拾いをする老人」との出会い。たった1つの空缶を拾ったことから、人生が変わりだします。なぜ「そうじ」をすると人生が変わってしまうのか? それは…、

「ゴミを1つ拾う者は、大切な何かを1つ拾っている」
 からなのです。最近、空前の「そうじブーム」によって、「そうじに興味を持つ人」が増えております。ですが、実際に「そうじの習慣」が身についた人は、それほどいないようです。

 しかし、「そうじの習慣」が身についた人は、100%確実に、人生が変わっていきます。これは、私の経験上、自信を持って断言できます

「仕事」「お金」「人望」「恋愛」だけでなく、「家庭」「人間関係」「運」「人生そのもの」すべてがよくなっていきます。

 そして、それは、「そうじをした人だけがわかる、そうじをしない人にはわからない」ものなのです。

 では、「本書のストーリー」を通して、なぜ「そうじ」をすると人生が変わるのか? を味わっていただければと思います。

 本書を読み終わった後は…、「そうじを始めずには、いられないあなた」になっていることでしょう。

【 1 】
 爽やかな4月の風が頬をなでていった。

 駅から会社までの通勤の道のりを、山村圭介は腕を大きく振って歩いていた。いつものように橋を渡り真っすぐ進もうとして、「工事中の看板」に突き当たった。新しい大きなビルができるらしく、ガスやら電気の埋設工事のため迂回を余儀なくされた。

 時計を気にしつつ、川沿いの道を早足で右に折れた。そして、ちょっと近道をするため、公園の中をぬけることにした。つい先日までは、その公園を満開の桜がピンクに染めていたが、いつしか葉桜となり目に眩いばかりの新緑となっていた。「ハア~」と大きく息を吸い込んだ。

 その時である。圭介は、公園のベンチのあたりにいる1人の老人に目が留まった。手に袋を持ってゴミを拾っているようだ。別にそのこと自体珍しいことではない。「地域の奉仕活動」か何かであろう。しかし、どこか違和感を抱いた。近づいてみて、その違和感は具体的なものになった。

 その老人は、「スーツ」を着ていたのだ。70歳はとうに超えていよう。いや、80近いかもしれぬ。今流行りのイタリアンスーツではなく、往年のイングランド調の背広をパリッと着こなしている。圭介のような素人が見ても、ずいぶん高そうな代物に見えた。要するに「紳士」なのだ。

 老紳士は右手に軍手をはめて、左手には2つのゴミ袋を持っている。空缶とその他のゴミを分別しながら、黙々と拾っている。圭介は、ふと立ち止まり思った。
(ひょっとして、ボケ老人かな)

「認知症」になった伯父がいる。夜中に突然スーツを着て、「今から会社へ行く。緊急役員会の招集があった」と外へ飛び出して行った。伯母が慌てて止めたが、そのままタクシーに乗ってしまった。会社のガードマンが警察に通報し、大事になってしまったと聞いている。そのことが頭にあったので、ちょっと心配になったのだ。

 でも、仮にそうだとしても、交通事故の心配もないし、まぁ大丈夫だろう。
(むやみに他人事に首を突っ込まないほうがいいな)

 そう思うと、圭介は会社への道を急いだ。

 山村圭介33歳。独身。ガスショップ「田中エナジー」の営業兼工事マネージャーをしている。田中エナジーは、「ガスの配管工事」や「ガス器具の販売」を主体に行ってきたが、近年は収益率の低下から「建築リフォーム」に進出し、もっぱら工務店のような業務に力を注いでいる。そのため、ここ数年で社員が20人と3倍に増えた。

 圭介は田中エナジーの社長・田中修(たなかおさむ)の甥っ子で、大学を卒業してすぐ入社した。最初はガスの取付け工事だけしていたが、社長の「親類の会社以外のところで一度働いたほうがいいだろう」という方針で、3年間「知り合いの工務店」へ修業に出された。そして戻ってすぐに工事マネージャーとして、「リフォーム部門」の立ち上げを任されたのだった。

「おい、圭介。ちょっと来てくれ」

 出社するなり、田中社長に呼ばれた。事務所の隣にある作業場へと促されて付いていった。圭介は心の中で「またか…」と思った。
「なんとかならんかの~、これ」

 社長は床を指差して言った。そこには、かんな屑や配線コード、パイプの切れ端が散乱していた。いつも、言われると「そうじ」をしているが、長続きはしなかった。「工事マネージャー」である圭介が厳しく言わないので、8人の部下もちゃんと片付けようとしない。

 社長がうるさく言うと、その場にいる者が慌ててホウキとチリトリを持ってそうじを始める。だが、また3日もすると元通り。言う方も、言われる方も愉快ではなかった。そんな状態が、「リフォーム部門」がスタートして3年もの間繰り返されてきた。

「お前なぁ、何回言ったらわかるんかなぁ~、ちゃんとそうじしなきゃいかんだろう」
「…すみません。今からスグやります」
「いや、そうじゃなくってなぁ。いいかぁ、毎日、仕事が終わったら日課にしたらいいじゃないか、そんなに大変なことじゃぁないだろうに…」

 温厚な社長の田中だが、今日は少し口調が荒い。圭介は無言でホウキを手に取ると、さっと大きなゴミをかき集めた。

「おいおい、聞いてるんか」
「聞いてますよ。わかってますけどね、いつも人使いが荒くて、そうじなんてする暇ないでしょう。一昨日だってそうでしょう。7時に事務所に戻ってきたら、『二丁目の銭湯のボイラーを見てやってきてくれ』でしょ。こっちは、飯も食べずに夜中の12時近くまで修理してたんですよ」
「…いや、悪い悪い、まぁ、そう怒るなよ。圭介が頑張っているのはよくわかっているよ。リフォームもようやく軌道に乗りつつあるし、それもみんな圭介のおかげだよ」
「だったら…」
「でもな、俺の性分というかさ、汚れているのは、とにかく気になって仕方がないんだ」

 圭介はちょっとムキになって言い返す。
別に、仕事上、困るほど汚れているわけじゃないでしょう。つまずいて転ぶほどゴミが落ちているわけでもないですし、少しくらいいいじゃないですか
「…う~ん、だけどなぁ」

 圭介はゴミ袋にかき集めた廃材を押し込んで、
「さあ、これでいいでしょ。少しはさっぱりしましたよ」

 社長はしげしげと床を眺めた。

「まだ、小さな汚れがあちこちにあるだろう、もっとだねぇ、こう丁寧にやって、キレイさっぱりした感じにはできんのかね…」
「社長、こうも言いますよね。『アイデアは雑然の中から生まれる』って。この前テレビを見てたら、ナントカっていう小説家が『整理・整頓していないグチャグチャの机の上から名作が生まれる』って言ってましたよ」
「小説家とガス屋を一緒にするなよ」
「じゃぁですね、お聞きしますけど。いつも社長は、キレイ、キレイって言うけど、そうじをすると売上が上がるんですか? お金が手に入るんですか?」

 社長は言葉に詰まってしまった。「そうじをすると売上が上がるのか? お金が手に入るのか?」そんなことは考えたこともなかった。社員に面と向かって訊かれると、答えようがない。言葉に詰まって、ちょっと力んで社長が言った。
「とにかくだなぁ。キレイにすると、すごく気持ちがいいんだよ!」

 話はここまでになった。次々と社員が出勤しはじめ、作業着に着替え、それぞれ現場へと飛び出していった。

圭介は別に怠け癖があったり、いいかげんな性格というわけではなかった。いや、それよりも勤勉で、かつ頭もよかった。新しくつくった「リフォーム部門」が収支トントンのところまでこんなに早く達成できたのも、圭介の地道な努力と部下の統率力によるものだ。若い社員は、なかなか「精神論だけ」ではついて来ない。心の底から「よし、それならば、やってやろう!」と納得させないといけないのだ。 圭介にはそれができた。しかし、それだけに、圭介自身も少々理屈っぽく、上司の命令があったとしても、「理路整然とした説明」がないと動かないところがあった。

 圭介からしてみれば、そうじをするのが、嫌いなわけではなかったが、そこまでの「そうじの重要性」を感じていなかった。作業場の床の汚れが気になりだしたら、ちゃんと部下に号令をかけてみんなで一斉にそうじをしていた。たぶん、2~3週間に一回くらいは、そうじをしているだろう。そうじなんて、仕事に支障が出ない限り、その程度でいいものだと思っていた。

 あまり社長がうるさいので、ついつい、
「そうじをすると売上が上がるんですか? お金が手に入るんですか?」
などと言ってしまったが、これは社長がしつこく言うので、日頃から思っていることだった。そうじを30分する時間があったら、営業を一軒でも取った方が確実に「利益」につながるはずだ。だって、「お客さん」はお金を払ってくれるが、「そうじ」はお金を払ってはくれないのだから…。
「よし、今日は、牧原さんちの仕事の帰りに、大矢さんちのお爺ちゃんの家に寄ってみよう」

 山村圭介は、作業着に着替え、部下と一緒に勢いよく事務所を飛び出して行った。

【 2 】
 翌朝は、小雨が降っていた。

 昨日と同じように、工事中の道を迂回して公園の中に入った。すると、あの老人がまたしてもゴミを拾っていた。それも、この小雨の中、傘もささずに黙々とゴミ拾いをしているのだ。

 夕べ帰宅して、伯母に電話してみた。「公園の老人」を見たせいか、その後の具合が気になったのだった。幼い頃、ずいぶんと可愛がってくれた伯父だったが、最近はボケが進行していて、毎日一緒に暮らしている伯母は、すでに伯父の面倒をみるのに精根尽き果てていた。ほっておくと、勝手に家を出て行ってしまう。かといって、部屋に鍵をかけておくと、ドンドンと叩いて大騒ぎになる。

「私、もう疲れたわ。おとうさんを、どこかの施設にお願いしようと思うの…」
圭介はいたたまれなくなって電話を切った。

 そんなこともあり、今度は公園の老人のことが気になってしまった。この小雨の中、大勢ではなく、たった1人で老人がゴミ拾いをしているというのは、どう見ても異常な光景に見えた。

 腕時計を見ると、出社時間にはまだ30分ほど余裕があった。腰を屈めて黙々とゴミ拾いをして歩いている老人の後を、10メートルほど後ろから付いていった。木立に隠れながら、気づかれぬように。圭介は迷っていた。声をかけようかどうしようかと。しかし、もし「ボケ老人」だったら、どうしたものか。会話になるのだろうか。

 そんなことを考えていて、ふっと気づくと老人が踵(きびす)を返して圭介の方に歩いてきた。急なことで、動けなくなってしまった。そして、ベンチをはさんで向き合う形になった。老人が口を開いた。

「おいキミ。何かワシに用かね?」

 そのしっかりとした口調に、圭介は驚きを隠せなかった。見てくれは70代でも、声には50歳くらいの若々しさがある。

「い、いえ…別に」
「別に、ということはないじゃろう。さっきからワシの後を付けてきて。最初は何者かと心配したが、見れば普通のサラリーマンのようじゃしな。しかし、知らぬ者にずっと後を付け回されるのは愉快ではないのう…」
「す、すみません」

 圭介は赤面した。どうやらボケ老人ではなさそうだ。となると、ますます疑問が膨らんだ。なぜ、ゴミを拾っているのか。
「あの、1つ、聞いてもいいですか」
「何じゃな、いきなり…。尾行の次は質問かな?」

 初対面で、まだ一言二言しか言葉を交わしていなかったが、老人の瞳の奥に、なにやら「優しさ」のようなものを感じとった。ちょっとうるさそうな人物ではあるが、敵をつくらないタイプの人間に見えたのだ。

「申し訳ありません。私はこの近所の会社に勤める者なんですが、昨日、通勤の途中で初めてあなたをお見受けしたんです。公園の中でゴミを拾っておられるのを…」

「おぉ、そうだったのかね。それで…」
「それで、なんというか、どうしてゴミを拾っておられるのか、理由をおうかがいしてもよろしいでしょうか? 失礼ながらお役所の清掃員ではなさそうだし、かといって地域の清掃ボランティアのようにも見受けられません…」

「なんだ、そんなことか…。ただ、拾いたいから拾っているんじゃよ」
「拾いたいですって?」
「そうじゃよ。考えてみたまえ。拾いたくなければ、拾うわけがないじゃろう」

 少し雨脚が弱くなった。圭介は、質問を変えてみた。

「では、なぜ拾いたいんですか。拾うと、何かよいことがあるんですか?」
「ほう、そうきたかね。よいことがないと拾っちゃいけないのかな?」
「…そんなわけではないですが。人は、何か自分にとって得することがないと、普通は行動に移さないものでしょう。違いますか?」
「うほう、なかなかはっきり言うヤツじゃな。まぁ、確かに、キミの言うとおりかもしれんな」

 老人は、なんだか突然に現れた客人を喜ぶかのように、表情を崩して答えた。
「まぁ、最初に答えを言うのは好きではないが、答えを言ってしまうと、実は、そうじをすると、得することがあるんじゃな」
「得って何ですか?」

 圭介は、急に昨日の社長との話を思い出した。「そうじをすると、売上が上がるのか」と質問したが、社長はちゃんとは答えられなかった。この老人なら、なんと答えるのだろうか。しかし、次に、圭介が思ってもみないことを言った。

「別に、拾いたくないなら、拾わんでもいいよ」
「え!?」
「聞こえんかったかな。別に拾いたくないなら、拾わんでもいいと言ったんじゃ」

 圭介はこの言葉に「カチン」ときた。「ゴミ拾いをすると、何か得することがある」と老人は言う。「その得とは何なのか?」と聞いたのだ。それなのに、「別に、拾いたくないなら、拾わんでもいいよ」と言う。こちらだって、別に、「拾いたい!」とも思わない。圭介は、軽い憤りを感じて言い返した。

「ひょっとして、何か今までの人生で悪いことをして、それの『罪滅ぼし』か何かなのですか?」
「わっははは。面白いことを言うのう。まぁ、そこまで言うのなら1つ、教えてやろう。耳を貸しなさい」

 そう言うと老人はベンチをぐるりと回って、圭介に近づいてきた。そして、立ち尽くす圭介の耳元でポツリと囁いた。

拾った人だけがわかるんじゃよ

 何だかバカにされた気分だった。キョトンとした圭介を尻目に、老人はまた「ゴミ拾い」を始めた。腕時計を見ると、始業時間の5分前だった。「遅刻だ!」老人に一礼をして慌てて駆け出した。

(その2へ続く)【全5回】
こうなると次を読みたくなる。それはまた日に


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