vagabond の 徒然なるままに in ネリヤカナヤ

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アルゲリッチ ピアノ協奏曲の夕べ-グルダを楽しく想い出す会-を聴いて

2005-01-28 23:33:20 | 音楽
久々に素晴らしいコンサートを聴き,音楽の力を改めて感じた。昨日,すみだトリフォニーホールにて,アルゲリッチたちの演奏を聴いてのことである。
2000年1月27日に亡くなったフリードリヒ・グルダを偲んで,アルゲリッチ・ファミリーとグルダの息子たちが一堂に会したコンサート。
コンサート当日は,ちょうどグルダの命日であり,そしてモーツァルトの249回目の誕生日にも当たり,聴衆の期待も高まる。

出演は,フランスの気鋭,ルノー・カプソン(Vn)とゴーティエ・カプソン(Vc)の兄弟,フリードリヒ・グルダの息子たちである,パウル・グルダ(Pf)とリコ・グルダ(Pf),そしてマルタ・アルゲリッチ。
オケは,クリスティアン・アルミンク指揮新日本フィルハーモニー交響楽団。

曲目は,次のとおり盛り沢山。
1 モーツァルト 3台のピアノのための協奏曲ヘ長調 K242
2 モーツァルト アダージョホ長調K261とロンドハ長調K373
3 グルダ チェロ協奏曲
4 モーツァルト 交響曲第32番ト長調K318
5 モーツァルト ピアノ協奏曲第20番ニ短調K466
(アンコール)ベートーヴェン トリプル・コンチェルトから第3楽章

曲目1では,パウルの洗練された粒立ちの良いピアノ,アルゲリッチの肉厚の存在感たっぷりのピアノに,リコのピアノが絡む。
三人とも楽しげな演奏で,幸せなひとときが始まる予感。パウルのピアノは,ディスクでは聴いていたが,実演は初めて。
瑞々しい演奏には,父フリードリヒの片鱗を感じた。
これからが楽しみなピアニストの一人である。

曲目2では,ルノー・カプソンのヴァイオリンが楽しめた。
こちらも確かなテクニックと伸びやかな音作りで好感の持てる演奏。
優れた演奏でこんなに沢山のモーツァルトを聴けて幸せな気分。

そして,曲目3が圧巻。
この曲は,クラシック音楽から出発しながら,ジャンルの垣根を超えてジャズの世界でも活躍したフリードリヒが作曲したもの。
編成は20人ほどのこぢんまりしたものだが,その中にドラムス,ギターが加わり,第1楽章は,60年代のロック風のリズムとメロディで始まる。
最初は,いかにもグルダらしいなぁとニヤニヤしながら聴いていたが,チェロが響き始めるや愕然とした。
そのフレーズの激しく,変化に富み,そしてスピード感溢れることと言ったら!
これはコダーイの無伴奏チェロソナタにも匹敵するような難曲だ。
それを若干23歳のゴーティエ・カプソンがグルーブ感溢れる熱演。
アルミンクの伴奏もスゥインギーで素晴らしい。
クラシックコンサート会場の聴衆みんなが,体中でリズムを刻み始めたようにさえ感じた。
オーストリアの大自然を感じさせるような第2楽章を経て,第3楽章のカデンツァも凄い。
ゴーティエの卓越したテクニックと堂々とした引振りには感服。
第4楽章は,懐かしくも哀愁漂うメヌエット。このメロディもたまらなく美しい。
フィナーレは,サーカス風の音楽風のメロディが奏でられる。
ブラスもいい音出している。
ここでも,ゴーティエのチェロは吼えまくり,大きな盛り上がりを見せる。
天才モーツァルトの天衣無縫の数々の楽曲に比べると,フリードリヒのこの曲は,ラフで通俗的な曲だとは思うが,30分間存分に楽しめた。
これだけの曲を,そして,ゴーティエの存在を今まで知らなかったとは!でも,今日は新しい出会いができたのでとっても幸せな気分。
演奏後は,ブラヴォーの嵐。
マイスキーが持っている音楽自体の恰幅の良さは欠ける嫌いがあるが,大器の片鱗を見せるゴーティエの今後の活躍に注目したい。
ちなみに,この曲のディスクは,残念ながら日本では未発売の模様。

曲目4は,10分程度で演奏されるミニ・シンフォニーだが,なかなか優れた演奏。
アルミンクの指揮は,溌剌と,颯爽としており,曲の要所を見事に押さえ,自在に緩急をつけた演奏。
オケも,暖かみのある豊かな響きを聴かせ,モーツァルトの魅力を存分に引き出していた。
はろるど・わーどさんが以前,アルミンクと新日本フィルのマーラー5番を聴いて,「マーラー特有の『うねり』がない」と評されていたが,確かにアルミンクの演奏は,モーツァルトやベートーヴェンのような古典派の演奏において真価を発揮するのかもしれないと思った。
この点は,まだ若いアルミンク(33歳)にとっても,オケにとっても課題なのだろう。
いずれにせよ,アルミンク,ちょっと目が離せない指揮者だと思った。

いよいよ曲目5はアルゲリッチの再登場。
カプソン兄弟もオケに加わりご愛敬。
実は,アルゲリッチのライブは初体験でとても楽しみ。
アルゲリッチは,13歳から一年半にわたりフリードリヒに師事し,その後も,音楽面の悩みや私生活面の悩みについて彼に相談していたらしい。
私は,以前からモーツァルトのニ短調コンチェルトは,グルダとアバドの振るウィーンフィルとが共演したディスクを愛聴している。こちらは,繊細で,音楽は自然に流れ,そしてキラキラとガラス細工が輝くような天上的な美しさの,それでいて胸を締め付けるような演奏。
アルゲリッチが,そんな師匠の演奏とどのような違いを見せるのか楽しみである。
まずは,イントロ,新日本フィルも切々と胸に伝わるなかなかに良い響きを聴かせる。
そして,ピアノの登場。
荒々しい。
が,音楽の「つかみ」が凄い。タッチが強く,音色が太く響く。
そして,アルゲリッチ独特の,(オケを半分無視したかのような)テンポの「揺らぎ」の感覚が心拍数を高める。
こんなニ短調コンチェルトがあったのか!
天国でモーツァルトにそっと寄り添うかのようなフリードリヒの演奏とは180度異なり,モーツァルトの哀しみを全身全霊を込めて振り払うかのような演奏だ。「私がいるから大丈夫よ」と思わせてくれるような演奏なのだ。
アルゲリッチの果てしなく大きな愛に包まれ,無上の感動を覚えた。
これは紛れもない名演である,そう思った。フレーズが重ねられる度,次はどんな音が聞けるのか楽しみであると同時に,少しずつ聴かれる音楽が減っていくことに悲しみを感じるほどであった。
やはり生アルゲリッチは凄かった。

アンコールも贅沢極まりない。
トリプル・コンチェルトは,これまでオイストラフ,ロストロポーヴィチとリヒテルの演奏をディスクでは聴いていたが,それほど大した曲ではないと思っていた。
ところが,この日の演奏は,最高!この曲の良さを再認識した。
アルゲリッチが,これでもかというほどにカプソン兄弟を煽り,それに若い二人が応えるスリリングな演奏。
ゴーティエは,この曲についてはちょっと練習不足だったかな,と思ったが,そんなことはとるに足らないと感じられるぐらい。
一緒に演奏するのが,そして聴衆も含めてこの場所・時間を共有できるのがみんな楽しそうなのである。
パウルがアルゲリッチの「譜めくり」をしていたが,その姿も何だか微笑ましかった。
アルゲリッチが,マイスキー,ルノーと録音した同曲のディスクが欲しくなってしまった。

午後7時から始まって終演は午後10時。
音楽っていいなと,そして,仲間っていいもんだなと,強く感じた3時間であった。

★★★2月20日のNHK芸術劇場で放映されるそうですので,コンサート会場へ足を運べなかった方も,是非共テレビでお楽しみください!ご覧になったら,是非,感想もお聞かせください!!★★★

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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
アルミンク。 (はろすど・わーど)
2005-01-29 22:37:09
素敵なコンサートだったようですね!

やはり行くべきでした…。芸術劇場で是非拝見したいと思います。



グルダのモーツァルトのコンチェルトですが、私も良く聴きます。

アーノンクールとのコンビの演奏も好きですね。

(アバドはゼルキンとコンビの、枯れた透明感溢れる演奏も一級品だと思います。)



ところで拙ブログを引用していただいてありがとうございました。

私もアルミンクを一回だけしか聴いていないので、

何とも判断しかねますが、

前回マーラーを聴いた際は、

とても即物的な演奏をする方だと思いました。

奇をてらわない分、アンサンブルの精度や、

各パートのバランスに細心の注意を払う。

オーケストラビルダーとしては、

今の新日本フィルにとって最良の指揮者ではないでしょうか。

今後もずっと聴いていきたいコンビです。
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芸術劇場 (vagabond67@管理人)
2005-02-02 07:37:57
コメントありがとうございます。

芸術劇場楽しみですね。

私も早く「復習」したいと思っています。

アルミンクの指揮が「即物的」と感じられたとのこと,たしかにそういった見方もできるかもしれませんね。私も,感情過多にはならずスマートに演奏するなあと思いました。もっとも,その指揮振りは,当日の曲目には非常にマッチしているようでした。

いずれにしても,はろるど・わーどさんのおっしゃるように,有能な指揮者の下,新日本フィルがビシビシ鍛えられて,優れたオケに成長するとよいですね。

N響は暫く低迷しそうですが...
返信する
アルゲリッチ! (はろるど・わーど)
2005-02-21 01:40:15
vagabondさん、こんばんは。



先ほど途中から観ておりましたが、いやはや素晴らしいコンサートだったようですね。

モーツァルトのニ短調協奏曲を、あれほど情熱的に演奏するとは…。恐れ入りました…。



>新日本フィルがビシビシ鍛えられて



オケのサポートも抜群でした。

このコンサートを生で聴かれたvagabondさんが羨ましいです。
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