一年の締めくくりに,今年観た映画の中で,印象に残ったものをまとめておこうと思う。
奄美大島には映画館が一軒しかなく,しかも,演目の入れ替わりが早いため,とうとうこの映画館(「シネパニック」という映画館)で鑑賞することはできなかった(来年の課題)。
そのため,ここでご紹介する映画も,旧作が多く,映画館で鑑賞したのは第1位の「エレニの旅」だけだが,どうかご容赦頂きたい。
なお,その他に今年観た映画の主なものの簡単な感想は,こちらにありますので,併せてご覧ください。
第1位 「エレニの旅」(2004年・希・仏・伊・独)
この作品は,ギリシャの映画監督テオ・オンゲロプロスが,構想2年,撮影2年をかけて完成させたもので,映画が総合芸術といわれる所以を久々に感じさせてくれた本格的作品である。
主人公は,ギリシャ難民の女性・エレニ。「エレニ」は,ギリシャ女性に一般的な名前であり,また,ギリシャの愛称でもあるらしい。
この映画の中で,止め処ない悲しみと涙に翻弄されるエレニは,ギリシャの近代史そのものを表している。
時は,ギリシャ史の中でも激動の時代の一つ,1919年から1949年まで,物語が関わる場所は,ウクライナ,ギリシャ,アメリカ,そして,沖縄と,時空を超えて展開する。
冒頭,ギリシャ人の入植地オデッサ(ウクライナ地方)から共産革命の煽りを受けてギリシャ本土へ「難民」として帰還した幼いエレニ達のシーンから始まる。
まずは,草原に立ちすくむ疲弊しきった難民たちを捉えた遠くからのショットが圧巻。
そして,彼らの目の前を覆い尽くすのは,水。
この作品では,生命のメタファーとしての「水」が随所に登場する。時に,優しく,時に,厳しく。
エレニは恋人と約束する。「いつか二人で河の始まりを探しに行こう」と。
しかし,その約束は,希土戦争(イズミル(スミルナ)等を巡るギリシャ・トルコ間の戦争),近親間の愛憎,洪水,第二次世界大戦,そして,大戦後の内戦と激流に弄ばれ,叶えられることはない。
この映画は,そんなエレニの激動の人生(運命)を描いた叙事詩だ。
モティーフには,峻烈なギリシャ神話のエピソード(オイディプスやオデュッセウス)も形を変えて盛り込まれている。
複数の人間が作り出す大きな「水」の流れに呑み込まれた,小さな「水」(エレニという生命。そして,小国ギリシャの運命)が辿っていく過程とその末路は,哀しみに満ち溢れている。
この「人の運命への哀歌」(アンゲロプロス監督)を包み込むのは,長大な長回しを伴った美しい映像と哀愁を帯びたギリシャの民族音楽。
映像は,ひんやりとした水の質感を保ちつつ,超絶的なまでに美しく,時の流れを忘れさせるほどに悠然と流れていく。
こちらで,映画のいくつかのシーンが見られるが,特に,水上の送葬のシーンは,具象でありながら抽象絵画すら想起させるような,深みのあるシーン。
また,ダム湖を使って入念に作り込まれた村のセット,そして,その崩壊の姿も,実物ならではの圧倒的迫力がある。
音楽は,流麗に流れ幸福なひとときを演出しながらも,事件が起きるたびに中断され,また新たな悲劇を生み出していき,物語の流れを巧みに支える。
感情を極限まで制御しきった役者たちの演技も,本作のテーマの前では,余計に涙を誘う。
これだけ総合的に完成された作品には久々に出会った。
この映画は,混乱と戦乱の世紀でもある20世紀前半を見事に描き切っている。
私がこの作品を映画館で見て半年が経つが,今でもこのレビューを書きながら涙が溢れて来るのを止められない。
デジタル全盛の世の中ではあるが,アナログなこの作品が21世紀初頭を代表するものになることは間違いないとさえ思える。
原題名は,英語だと"Trilogy:The Weeping Meadow(嘆きの草原)"
アンゲロプロス監督は,当初,Trilogy(3部作)として,1本の長編で20世紀全体を描く予定だったそうだが,上演時間が膨大になり過ぎることから,本作に続き,「第三の翼」と「帰還」と題する2作品を発表することに予定変更したらしい。
続く2作品が非常に待ち遠しい。
この作品は,上演時間は170分と長大,CGは一切使わず実物を丁寧に写し取る,ストーリーも実際の歴史的な流れを背景にしつつも若干抽象的,とハリウッド映画の対局にあるような映画で,この手の映画を見慣れていない人には,相当の忍耐を強いるかもしれない。
一般の映画と同様に鑑賞しようとするとたしかに厳しいかもしれないが,「映像,音楽を3時間にわたりゆったりと楽しめる」ぐらいの気持ちで臨めば,逆に物語がじんわり心の中に染みてくるのではなかろうか。
なお,本作品は,2004年ヨーロッパ映画賞国際映画批評家連盟賞を受賞しているほか,第48回 2006 朝日ベストテン映画祭(主催:朝日新聞大阪本社・朝日放送)の外国部門第1位に選出されているそうだ。
私は,この賞がどれぐらいの価値ある賞かは知らないが,そのおかげで,大阪では,2006年1月に再演されるらしい。
アンゲロプロス監督の旧作も同時に再演されるようで,大阪在住の方が非常に羨ましい限りである。
また,来る年には,世界にまだまだ沢山いる「エレニ」の流す涙が少しでも減るように切に願う。
【評価】10点(10点満点)
第2位 「遠い空の向こうに」(1999年・米)
1957年10月,人類が初めて打ち上げた人工衛星スプートニクが地球の周りを駆け巡った。
それをウエストバージニア州の片隅の炭坑町から見つめていた1人の少年は,やがて,大空への憧れを抱き,3人の仲間たちと力を合わせ,ある教師の支援を得ながら,無謀とも思える小型ロケットの打ち上げに無心に取り組む。
時代に取り残されて寂れつつある田舎町に埋没していくことへの閉塞感と焦り,頑固な父親との確執,幾多の挫折と克服,夢に向かって一生懸命に努力し続けることの大切さ等,どれもありふれたテーマではある。
また,世界中に色んな問題や矛盾があふれかえる中,本当にロケットを打ち上げることが必要なのかという根元的な問題が,心の片隅を駆け抜けるのも事実だ。
しかし,ともすると安直な方向へ傾きがちなこの世の中,hard workが重要だ,ということをもう一度思い起こさせる映画として,心に残った。
原作は,NASAのエンジニアであるホーマー・ヒッカムの自伝小説。
映画の原題は,"October Sky"
Octoberの一つの出来事が,本人の努力と相俟って,大きな人生を切り拓いたという,実直なサクセスストーリーであり,爽やかな印象を抱いた。
恐らく,自分自身がおかれている状況があったからこそ尚更心に残ったのだろうが,いずれにせよ,アメリカ映画の良い部分が凝縮された佳作であることは間違いない。
難病を抱えながら少年たちを支える教師役のローラ・ダーンの演技も優れていたが,主役を演じるジェイク・ギレンホールも好印象で,将来が期待できる。
旧作ではあるが,アメリカ映画にもまだまだ良い映画があると感じた。
【評価】9点(10点満点)
第3位 「スター・ウォーズ エピソード3 / シスの復讐」(2005年・米)
2005年は,「スター・ウォーズ」シリーズが終わった年である。
第1作から第3作まで勧善懲悪のSFに過ぎなかった「スター・ウォーズ」シリーズは,第5作と本作とで,俄然,深みを増した。
無償の愛(アガペーに相応するのでしょうか?)を捧げるべき存在だったジェダイが,それとは異質の,愛を失うことの怖さを覚えたとき,独占欲,支配欲や怒り,恨み等を抱き始め,邪悪なダークサイドへ落ちていくというのは,心理学,哲学,神学等の様々な要素の影響を受けているようで,興味深い(その方面に造詣が深くはない私は,「興味深い」程度で終わってしまうのだが…)。
それにも増して,イラク戦争が混迷の度を深め行く最中に,善と悪とが表裏一体・紙一重であることを暗示したこの映画が公開されたことには,何がしかの因縁すら感じる。
共和制に背を背けようとするアナキンに対してオビ=ワン・ケノービの吐く「私は民主主義に忠誠を誓った」との台詞は,この時期に聞くと,皮肉に響く。
民主主義の象徴であるアメリカが,「民主主義」を実現するために進駐し,多数の無垢の市民も巻き添えにしている中,その国内では,民衆の多数は,さほど真摯な考えも持たずに元首の導く方向性に安易に首肯しており,真剣な議論の結果には忠実に従うはずの民主主義システムが働いているようには思えないという状況においては,なおさら空虚でさえある。
それでも,民主主義システムよりマシなシステムは今のところないのであろうが。
いずれにせよ,「シスの復讐」は,超一流のエンターテイメントでもあるとともに,本年を象徴する作品であった。
なお,この作品でも,ユアン・マクレガー(「ビッグ・フィッシュ」,「ムーラン・ルージュ」ほか)は良い俳優だと思った。
【評価】9点(10点満点)
第4位 「ギルバート・グレイプ」(1993年・米)
これも古い映画だ。初見だというのが恥ずかしいぐらい。だが,良いものは良い,ということで掲げた。
所はアイオワ州の片田舎。夫の自殺を契機に過食症になり家の中から出ることさえなくなった母,知的障害があって町の給水塔に上りたがる弟(レオナルド・ディカプリオ)と2人の姉妹と共にギルバート(ジョニー・デップ)は暮らしている。
大きな夢もなければ,希望もない。
ただ,ごく普通に起きて,ごく普通に働いて,ごく普通に弟を風呂に入れて,そして,ごく普通に眠るだけ,そんな抑揚のない毎日が繰り返し訪る。
そんな兄弟の楽しみの一つは,一年に一度巡ってくるキャンピングカーのピカピカ光る隊列(何かのフェスティバルに行くらしい)が通り過ぎるのを見ること。
いつもは,その隊列も過ぎ去ってしまえばそれまでなのだが,今年に限っては,事情がちょっと違った。
ある少女(ジュリエット・ルイス)とその祖母を乗せたキャンピングカーが故障してしまい,彼女たちは,修理部品が届くまでの間,町に留まることになったのだ。
そして,ギルバートは次第に彼女に惹かれていき,やがて,ギルバートを中心として今まで完結していた生活の何かが崩れ始め,とうとう一家にとって重大なある事件が起きる…
この映画では,何かが起きそうで,何も起きないともいえて,全体として淡々としたトーンだ。
なのに,他では味わえない清々しさを感じ,そして何だかホッカリと心の温まる不思議な癒し系の佳品で,例えると,見終わった後に,爽やかな5月の風が心の中を吹き抜けるようなそんな映画。
内容的には,一言でいうと,家族の「絆」とその一方で感じられる「束縛」の狭間で,上手くバランスをとりながら,平凡な毎日をつつがなく過ごしていくことの大切さがひしひしと伝わる,そんな作品である。
ジョニー・デップが,平凡だが心優しいギルバートをサラリと好演。この人は,こういう役柄を演じさせると絶品。
そして,意外な発見が,ディカプリオの芸達者振り。弟役を見事に演じ切っていた。ディカプリオは,あのタイタニックぐらいしか観たことがなかったが,タイタニックでの演技振りとは打ってかわった名演技(タイタニックファンの方,ゴメンなさい!)。ディカプリオの演技だけでもこの映画を観る価値はある。
監督は,スウェーデン出身のラッセ・ハルストレム。あの「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」(1985年・瑞)の監督でもあったことを知り,妙に納得。同監督の作品には,未見だが,「ショコラ」(2000年・米)もあるようで,いずれこちらも観てみたい。
【評価】8点(10点満点)
第5位 「パルプ・フィクション」(1994年・米)
ギャングもので,台詞回しも長くてルーズ,無意味な会話が多いetc.拒否反応を示す方も多いであろう,題名通りの三文小説(pulp fiction)だが,造り自体が結構斬新で楽しめた。
時間軸を逆転させた映画には,「メメント」があるが,本作は,さらに造りが複雑で,4つの一見無関係なエピソードが,徐々に一つに収斂していくというもの。
強盗,八百長,薬物,ギャング等,アンダーグラウンドなエピソードだらけで,この映画を観たからといって自分が成長するとも思えないが,その世界に入り込んでしまえば,馬鹿げた会話の一つ一つも単純に楽しめる。
1994年カンヌ映画祭でパルムドールを受賞したクエンティン・タランティーノ監督の出世作だが,キャストがまた凄い。
ブルース・ウィリス,サミュエル・L・ジャクソン,ティム・ロス,ユマ・サーマン,スティーブ・ブシェーミという誰が主役を張ってもおかしくない顔ぶれに加えて,極めつけは,ジョン・トラボルタ!贅肉がたっぷり付いてしまったトラボルタの仕草と台詞,そしてユマ・サーマンとのダンスシーンには笑えた。
まあ,たまにはこういう馬鹿馬鹿しい映画も良いかと思って,第5位に入れた。
【評価】8点(10点満点)
大晦日の夜に,徒然なるままに今年観た映画の感想を書いてしまいました。
最後までお付き合いくださりありがとうございます。
やはり日頃からこまめに書いてはアップしておかないとだめですねぇ。疲れました
来年も,地理的事情等から新作中心にはならないと思いますが,思い出したように,映画のレビューを書いていきたいと思います。
ということで,このエントリーが今年の最後となりました。
今年1年お付き合いくださりありがとうございました。
来年も新たな気持ちで取り組みたいと思いますので,よろしくお願いいたします。
ブログ村にエントリーしてみました。よかったらクリックしてください。
奄美大島には映画館が一軒しかなく,しかも,演目の入れ替わりが早いため,とうとうこの映画館(「シネパニック」という映画館)で鑑賞することはできなかった(来年の課題)。
そのため,ここでご紹介する映画も,旧作が多く,映画館で鑑賞したのは第1位の「エレニの旅」だけだが,どうかご容赦頂きたい。
なお,その他に今年観た映画の主なものの簡単な感想は,こちらにありますので,併せてご覧ください。
第1位 「エレニの旅」(2004年・希・仏・伊・独)
この作品は,ギリシャの映画監督テオ・オンゲロプロスが,構想2年,撮影2年をかけて完成させたもので,映画が総合芸術といわれる所以を久々に感じさせてくれた本格的作品である。
主人公は,ギリシャ難民の女性・エレニ。「エレニ」は,ギリシャ女性に一般的な名前であり,また,ギリシャの愛称でもあるらしい。
この映画の中で,止め処ない悲しみと涙に翻弄されるエレニは,ギリシャの近代史そのものを表している。
時は,ギリシャ史の中でも激動の時代の一つ,1919年から1949年まで,物語が関わる場所は,ウクライナ,ギリシャ,アメリカ,そして,沖縄と,時空を超えて展開する。
冒頭,ギリシャ人の入植地オデッサ(ウクライナ地方)から共産革命の煽りを受けてギリシャ本土へ「難民」として帰還した幼いエレニ達のシーンから始まる。
まずは,草原に立ちすくむ疲弊しきった難民たちを捉えた遠くからのショットが圧巻。
そして,彼らの目の前を覆い尽くすのは,水。
この作品では,生命のメタファーとしての「水」が随所に登場する。時に,優しく,時に,厳しく。
エレニは恋人と約束する。「いつか二人で河の始まりを探しに行こう」と。
しかし,その約束は,希土戦争(イズミル(スミルナ)等を巡るギリシャ・トルコ間の戦争),近親間の愛憎,洪水,第二次世界大戦,そして,大戦後の内戦と激流に弄ばれ,叶えられることはない。
この映画は,そんなエレニの激動の人生(運命)を描いた叙事詩だ。
モティーフには,峻烈なギリシャ神話のエピソード(オイディプスやオデュッセウス)も形を変えて盛り込まれている。
複数の人間が作り出す大きな「水」の流れに呑み込まれた,小さな「水」(エレニという生命。そして,小国ギリシャの運命)が辿っていく過程とその末路は,哀しみに満ち溢れている。
この「人の運命への哀歌」(アンゲロプロス監督)を包み込むのは,長大な長回しを伴った美しい映像と哀愁を帯びたギリシャの民族音楽。
映像は,ひんやりとした水の質感を保ちつつ,超絶的なまでに美しく,時の流れを忘れさせるほどに悠然と流れていく。
こちらで,映画のいくつかのシーンが見られるが,特に,水上の送葬のシーンは,具象でありながら抽象絵画すら想起させるような,深みのあるシーン。
また,ダム湖を使って入念に作り込まれた村のセット,そして,その崩壊の姿も,実物ならではの圧倒的迫力がある。
音楽は,流麗に流れ幸福なひとときを演出しながらも,事件が起きるたびに中断され,また新たな悲劇を生み出していき,物語の流れを巧みに支える。
感情を極限まで制御しきった役者たちの演技も,本作のテーマの前では,余計に涙を誘う。
これだけ総合的に完成された作品には久々に出会った。
この映画は,混乱と戦乱の世紀でもある20世紀前半を見事に描き切っている。
私がこの作品を映画館で見て半年が経つが,今でもこのレビューを書きながら涙が溢れて来るのを止められない。
デジタル全盛の世の中ではあるが,アナログなこの作品が21世紀初頭を代表するものになることは間違いないとさえ思える。
原題名は,英語だと"Trilogy:The Weeping Meadow(嘆きの草原)"
アンゲロプロス監督は,当初,Trilogy(3部作)として,1本の長編で20世紀全体を描く予定だったそうだが,上演時間が膨大になり過ぎることから,本作に続き,「第三の翼」と「帰還」と題する2作品を発表することに予定変更したらしい。
続く2作品が非常に待ち遠しい。
この作品は,上演時間は170分と長大,CGは一切使わず実物を丁寧に写し取る,ストーリーも実際の歴史的な流れを背景にしつつも若干抽象的,とハリウッド映画の対局にあるような映画で,この手の映画を見慣れていない人には,相当の忍耐を強いるかもしれない。
一般の映画と同様に鑑賞しようとするとたしかに厳しいかもしれないが,「映像,音楽を3時間にわたりゆったりと楽しめる」ぐらいの気持ちで臨めば,逆に物語がじんわり心の中に染みてくるのではなかろうか。
なお,本作品は,2004年ヨーロッパ映画賞国際映画批評家連盟賞を受賞しているほか,第48回 2006 朝日ベストテン映画祭(主催:朝日新聞大阪本社・朝日放送)の外国部門第1位に選出されているそうだ。
私は,この賞がどれぐらいの価値ある賞かは知らないが,そのおかげで,大阪では,2006年1月に再演されるらしい。
アンゲロプロス監督の旧作も同時に再演されるようで,大阪在住の方が非常に羨ましい限りである。
また,来る年には,世界にまだまだ沢山いる「エレニ」の流す涙が少しでも減るように切に願う。
【評価】10点(10点満点)
第2位 「遠い空の向こうに」(1999年・米)
1957年10月,人類が初めて打ち上げた人工衛星スプートニクが地球の周りを駆け巡った。
それをウエストバージニア州の片隅の炭坑町から見つめていた1人の少年は,やがて,大空への憧れを抱き,3人の仲間たちと力を合わせ,ある教師の支援を得ながら,無謀とも思える小型ロケットの打ち上げに無心に取り組む。
時代に取り残されて寂れつつある田舎町に埋没していくことへの閉塞感と焦り,頑固な父親との確執,幾多の挫折と克服,夢に向かって一生懸命に努力し続けることの大切さ等,どれもありふれたテーマではある。
また,世界中に色んな問題や矛盾があふれかえる中,本当にロケットを打ち上げることが必要なのかという根元的な問題が,心の片隅を駆け抜けるのも事実だ。
しかし,ともすると安直な方向へ傾きがちなこの世の中,hard workが重要だ,ということをもう一度思い起こさせる映画として,心に残った。
原作は,NASAのエンジニアであるホーマー・ヒッカムの自伝小説。
映画の原題は,"October Sky"
Octoberの一つの出来事が,本人の努力と相俟って,大きな人生を切り拓いたという,実直なサクセスストーリーであり,爽やかな印象を抱いた。
恐らく,自分自身がおかれている状況があったからこそ尚更心に残ったのだろうが,いずれにせよ,アメリカ映画の良い部分が凝縮された佳作であることは間違いない。
難病を抱えながら少年たちを支える教師役のローラ・ダーンの演技も優れていたが,主役を演じるジェイク・ギレンホールも好印象で,将来が期待できる。
旧作ではあるが,アメリカ映画にもまだまだ良い映画があると感じた。
【評価】9点(10点満点)
第3位 「スター・ウォーズ エピソード3 / シスの復讐」(2005年・米)
2005年は,「スター・ウォーズ」シリーズが終わった年である。
第1作から第3作まで勧善懲悪のSFに過ぎなかった「スター・ウォーズ」シリーズは,第5作と本作とで,俄然,深みを増した。
無償の愛(アガペーに相応するのでしょうか?)を捧げるべき存在だったジェダイが,それとは異質の,愛を失うことの怖さを覚えたとき,独占欲,支配欲や怒り,恨み等を抱き始め,邪悪なダークサイドへ落ちていくというのは,心理学,哲学,神学等の様々な要素の影響を受けているようで,興味深い(その方面に造詣が深くはない私は,「興味深い」程度で終わってしまうのだが…)。
それにも増して,イラク戦争が混迷の度を深め行く最中に,善と悪とが表裏一体・紙一重であることを暗示したこの映画が公開されたことには,何がしかの因縁すら感じる。
共和制に背を背けようとするアナキンに対してオビ=ワン・ケノービの吐く「私は民主主義に忠誠を誓った」との台詞は,この時期に聞くと,皮肉に響く。
民主主義の象徴であるアメリカが,「民主主義」を実現するために進駐し,多数の無垢の市民も巻き添えにしている中,その国内では,民衆の多数は,さほど真摯な考えも持たずに元首の導く方向性に安易に首肯しており,真剣な議論の結果には忠実に従うはずの民主主義システムが働いているようには思えないという状況においては,なおさら空虚でさえある。
それでも,民主主義システムよりマシなシステムは今のところないのであろうが。
いずれにせよ,「シスの復讐」は,超一流のエンターテイメントでもあるとともに,本年を象徴する作品であった。
なお,この作品でも,ユアン・マクレガー(「ビッグ・フィッシュ」,「ムーラン・ルージュ」ほか)は良い俳優だと思った。
【評価】9点(10点満点)
第4位 「ギルバート・グレイプ」(1993年・米)
これも古い映画だ。初見だというのが恥ずかしいぐらい。だが,良いものは良い,ということで掲げた。
所はアイオワ州の片田舎。夫の自殺を契機に過食症になり家の中から出ることさえなくなった母,知的障害があって町の給水塔に上りたがる弟(レオナルド・ディカプリオ)と2人の姉妹と共にギルバート(ジョニー・デップ)は暮らしている。
大きな夢もなければ,希望もない。
ただ,ごく普通に起きて,ごく普通に働いて,ごく普通に弟を風呂に入れて,そして,ごく普通に眠るだけ,そんな抑揚のない毎日が繰り返し訪る。
そんな兄弟の楽しみの一つは,一年に一度巡ってくるキャンピングカーのピカピカ光る隊列(何かのフェスティバルに行くらしい)が通り過ぎるのを見ること。
いつもは,その隊列も過ぎ去ってしまえばそれまでなのだが,今年に限っては,事情がちょっと違った。
ある少女(ジュリエット・ルイス)とその祖母を乗せたキャンピングカーが故障してしまい,彼女たちは,修理部品が届くまでの間,町に留まることになったのだ。
そして,ギルバートは次第に彼女に惹かれていき,やがて,ギルバートを中心として今まで完結していた生活の何かが崩れ始め,とうとう一家にとって重大なある事件が起きる…
この映画では,何かが起きそうで,何も起きないともいえて,全体として淡々としたトーンだ。
なのに,他では味わえない清々しさを感じ,そして何だかホッカリと心の温まる不思議な癒し系の佳品で,例えると,見終わった後に,爽やかな5月の風が心の中を吹き抜けるようなそんな映画。
内容的には,一言でいうと,家族の「絆」とその一方で感じられる「束縛」の狭間で,上手くバランスをとりながら,平凡な毎日をつつがなく過ごしていくことの大切さがひしひしと伝わる,そんな作品である。
ジョニー・デップが,平凡だが心優しいギルバートをサラリと好演。この人は,こういう役柄を演じさせると絶品。
そして,意外な発見が,ディカプリオの芸達者振り。弟役を見事に演じ切っていた。ディカプリオは,あのタイタニックぐらいしか観たことがなかったが,タイタニックでの演技振りとは打ってかわった名演技(タイタニックファンの方,ゴメンなさい!)。ディカプリオの演技だけでもこの映画を観る価値はある。
監督は,スウェーデン出身のラッセ・ハルストレム。あの「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」(1985年・瑞)の監督でもあったことを知り,妙に納得。同監督の作品には,未見だが,「ショコラ」(2000年・米)もあるようで,いずれこちらも観てみたい。
【評価】8点(10点満点)
第5位 「パルプ・フィクション」(1994年・米)
ギャングもので,台詞回しも長くてルーズ,無意味な会話が多いetc.拒否反応を示す方も多いであろう,題名通りの三文小説(pulp fiction)だが,造り自体が結構斬新で楽しめた。
時間軸を逆転させた映画には,「メメント」があるが,本作は,さらに造りが複雑で,4つの一見無関係なエピソードが,徐々に一つに収斂していくというもの。
強盗,八百長,薬物,ギャング等,アンダーグラウンドなエピソードだらけで,この映画を観たからといって自分が成長するとも思えないが,その世界に入り込んでしまえば,馬鹿げた会話の一つ一つも単純に楽しめる。
1994年カンヌ映画祭でパルムドールを受賞したクエンティン・タランティーノ監督の出世作だが,キャストがまた凄い。
ブルース・ウィリス,サミュエル・L・ジャクソン,ティム・ロス,ユマ・サーマン,スティーブ・ブシェーミという誰が主役を張ってもおかしくない顔ぶれに加えて,極めつけは,ジョン・トラボルタ!贅肉がたっぷり付いてしまったトラボルタの仕草と台詞,そしてユマ・サーマンとのダンスシーンには笑えた。
まあ,たまにはこういう馬鹿馬鹿しい映画も良いかと思って,第5位に入れた。
【評価】8点(10点満点)
大晦日の夜に,徒然なるままに今年観た映画の感想を書いてしまいました。
最後までお付き合いくださりありがとうございます。
やはり日頃からこまめに書いてはアップしておかないとだめですねぇ。疲れました
来年も,地理的事情等から新作中心にはならないと思いますが,思い出したように,映画のレビューを書いていきたいと思います。
ということで,このエントリーが今年の最後となりました。
今年1年お付き合いくださりありがとうございました。
来年も新たな気持ちで取り組みたいと思いますので,よろしくお願いいたします。
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