vagabond の 徒然なるままに in ネリヤカナヤ

エメラルドグリーンの海,溢れる太陽の光,緑の森に包まれた奄美大島から,乾いた心を瘉す写真をお届けします。

心に残る5つの映画(2005年)

2005-12-31 22:37:24 | 映画
一年の締めくくりに,今年観た映画の中で,印象に残ったものをまとめておこうと思う。
奄美大島には映画館が一軒しかなく,しかも,演目の入れ替わりが早いため,とうとうこの映画館(「シネパニック」という映画館)で鑑賞することはできなかった(来年の課題)。
そのため,ここでご紹介する映画も,旧作が多く,映画館で鑑賞したのは第1位の「エレニの旅」だけだが,どうかご容赦頂きたい。
なお,その他に今年観た映画の主なものの簡単な感想は,こちらにありますので,併せてご覧ください。

第1位 「エレニの旅」(2004年・希・仏・伊・独)
B000BFLABM
この作品は,ギリシャの映画監督テオ・オンゲロプロスが,構想2年,撮影2年をかけて完成させたもので,映画が総合芸術といわれる所以を久々に感じさせてくれた本格的作品である。
主人公は,ギリシャ難民の女性・エレニ。「エレニ」は,ギリシャ女性に一般的な名前であり,また,ギリシャの愛称でもあるらしい。
この映画の中で,止め処ない悲しみと涙に翻弄されるエレニは,ギリシャの近代史そのものを表している。

時は,ギリシャ史の中でも激動の時代の一つ,1919年から1949年まで,物語が関わる場所は,ウクライナ,ギリシャ,アメリカ,そして,沖縄と,時空を超えて展開する。
冒頭,ギリシャ人の入植地オデッサ(ウクライナ地方)から共産革命の煽りを受けてギリシャ本土へ「難民」として帰還した幼いエレニ達のシーンから始まる。
まずは,草原に立ちすくむ疲弊しきった難民たちを捉えた遠くからのショットが圧巻。
そして,彼らの目の前を覆い尽くすのは,水。
この作品では,生命のメタファーとしての「水」が随所に登場する。時に,優しく,時に,厳しく。
エレニは恋人と約束する。「いつか二人で河の始まりを探しに行こう」と。
しかし,その約束は,希土戦争(イズミル(スミルナ)等を巡るギリシャ・トルコ間の戦争),近親間の愛憎,洪水,第二次世界大戦,そして,大戦後の内戦と激流に弄ばれ,叶えられることはない。
この映画は,そんなエレニの激動の人生(運命)を描いた叙事詩だ。
モティーフには,峻烈なギリシャ神話のエピソード(オイディプスやオデュッセウス)も形を変えて盛り込まれている。
複数の人間が作り出す大きな「水」の流れに呑み込まれた,小さな「水」(エレニという生命。そして,小国ギリシャの運命)が辿っていく過程とその末路は,哀しみに満ち溢れている。

この「人の運命への哀歌」(アンゲロプロス監督)を包み込むのは,長大な長回しを伴った美しい映像と哀愁を帯びたギリシャの民族音楽。
映像は,ひんやりとした水の質感を保ちつつ,超絶的なまでに美しく,時の流れを忘れさせるほどに悠然と流れていく。
こちらで,映画のいくつかのシーンが見られるが,特に,水上の送葬のシーンは,具象でありながら抽象絵画すら想起させるような,深みのあるシーン。
また,ダム湖を使って入念に作り込まれた村のセット,そして,その崩壊の姿も,実物ならではの圧倒的迫力がある。
音楽は,流麗に流れ幸福なひとときを演出しながらも,事件が起きるたびに中断され,また新たな悲劇を生み出していき,物語の流れを巧みに支える。
感情を極限まで制御しきった役者たちの演技も,本作のテーマの前では,余計に涙を誘う。

これだけ総合的に完成された作品には久々に出会った。
この映画は,混乱と戦乱の世紀でもある20世紀前半を見事に描き切っている。
私がこの作品を映画館で見て半年が経つが,今でもこのレビューを書きながら涙が溢れて来るのを止められない。
デジタル全盛の世の中ではあるが,アナログなこの作品が21世紀初頭を代表するものになることは間違いないとさえ思える。

原題名は,英語だと"Trilogy:The Weeping Meadow(嘆きの草原)"
アンゲロプロス監督は,当初,Trilogy(3部作)として,1本の長編で20世紀全体を描く予定だったそうだが,上演時間が膨大になり過ぎることから,本作に続き,「第三の翼」と「帰還」と題する2作品を発表することに予定変更したらしい。
続く2作品が非常に待ち遠しい。

この作品は,上演時間は170分と長大,CGは一切使わず実物を丁寧に写し取る,ストーリーも実際の歴史的な流れを背景にしつつも若干抽象的,とハリウッド映画の対局にあるような映画で,この手の映画を見慣れていない人には,相当の忍耐を強いるかもしれない。
一般の映画と同様に鑑賞しようとするとたしかに厳しいかもしれないが,「映像,音楽を3時間にわたりゆったりと楽しめる」ぐらいの気持ちで臨めば,逆に物語がじんわり心の中に染みてくるのではなかろうか。
なお,本作品は,2004年ヨーロッパ映画賞国際映画批評家連盟賞を受賞しているほか,第48回 2006 朝日ベストテン映画祭(主催:朝日新聞大阪本社・朝日放送)の外国部門第1位に選出されているそうだ。
私は,この賞がどれぐらいの価値ある賞かは知らないが,そのおかげで,大阪では,2006年1月に再演されるらしい
アンゲロプロス監督の旧作も同時に再演されるようで,大阪在住の方が非常に羨ましい限りである。

また,来る年には,世界にまだまだ沢山いる「エレニ」の流す涙が少しでも減るように切に願う。
【評価】10点(10点満点)

第2位 「遠い空の向こうに」(1999年・米)
B0009EP0ES
1957年10月,人類が初めて打ち上げた人工衛星スプートニクが地球の周りを駆け巡った。
それをウエストバージニア州の片隅の炭坑町から見つめていた1人の少年は,やがて,大空への憧れを抱き,3人の仲間たちと力を合わせ,ある教師の支援を得ながら,無謀とも思える小型ロケットの打ち上げに無心に取り組む。
時代に取り残されて寂れつつある田舎町に埋没していくことへの閉塞感と焦り,頑固な父親との確執,幾多の挫折と克服,夢に向かって一生懸命に努力し続けることの大切さ等,どれもありふれたテーマではある。
また,世界中に色んな問題や矛盾があふれかえる中,本当にロケットを打ち上げることが必要なのかという根元的な問題が,心の片隅を駆け抜けるのも事実だ。
しかし,ともすると安直な方向へ傾きがちなこの世の中,hard workが重要だ,ということをもう一度思い起こさせる映画として,心に残った。
原作は,NASAのエンジニアであるホーマー・ヒッカムの自伝小説。
映画の原題は,"October Sky"
Octoberの一つの出来事が,本人の努力と相俟って,大きな人生を切り拓いたという,実直なサクセスストーリーであり,爽やかな印象を抱いた。
恐らく,自分自身がおかれている状況があったからこそ尚更心に残ったのだろうが,いずれにせよ,アメリカ映画の良い部分が凝縮された佳作であることは間違いない。
難病を抱えながら少年たちを支える教師役のローラ・ダーンの演技も優れていたが,主役を演じるジェイク・ギレンホールも好印象で,将来が期待できる。
旧作ではあるが,アメリカ映画にもまだまだ良い映画があると感じた。
【評価】9点(10点満点)

第3位 「スター・ウォーズ エピソード3 / シスの復讐」(2005年・米)
B0000AIRN3
2005年は,「スター・ウォーズ」シリーズが終わった年である。
第1作から第3作まで勧善懲悪のSFに過ぎなかった「スター・ウォーズ」シリーズは,第5作と本作とで,俄然,深みを増した。
無償の愛(アガペーに相応するのでしょうか?)を捧げるべき存在だったジェダイが,それとは異質の,愛を失うことの怖さを覚えたとき,独占欲,支配欲や怒り,恨み等を抱き始め,邪悪なダークサイドへ落ちていくというのは,心理学,哲学,神学等の様々な要素の影響を受けているようで,興味深い(その方面に造詣が深くはない私は,「興味深い」程度で終わってしまうのだが…)。
それにも増して,イラク戦争が混迷の度を深め行く最中に,善と悪とが表裏一体・紙一重であることを暗示したこの映画が公開されたことには,何がしかの因縁すら感じる。
共和制に背を背けようとするアナキンに対してオビ=ワン・ケノービの吐く「私は民主主義に忠誠を誓った」との台詞は,この時期に聞くと,皮肉に響く。
民主主義の象徴であるアメリカが,「民主主義」を実現するために進駐し,多数の無垢の市民も巻き添えにしている中,その国内では,民衆の多数は,さほど真摯な考えも持たずに元首の導く方向性に安易に首肯しており,真剣な議論の結果には忠実に従うはずの民主主義システムが働いているようには思えないという状況においては,なおさら空虚でさえある。
それでも,民主主義システムよりマシなシステムは今のところないのであろうが。
いずれにせよ,「シスの復讐」は,超一流のエンターテイメントでもあるとともに,本年を象徴する作品であった。
なお,この作品でも,ユアン・マクレガー(「ビッグ・フィッシュ」,「ムーラン・ルージュ」ほか)は良い俳優だと思った。
【評価】9点(10点満点)

第4位  「ギルバート・グレイプ」(1993年・米)
B000A16QGG
これも古い映画だ。初見だというのが恥ずかしいぐらい。だが,良いものは良い,ということで掲げた。
所はアイオワ州の片田舎。夫の自殺を契機に過食症になり家の中から出ることさえなくなった母,知的障害があって町の給水塔に上りたがる弟(レオナルド・ディカプリオ)と2人の姉妹と共にギルバート(ジョニー・デップ)は暮らしている。
大きな夢もなければ,希望もない。
ただ,ごく普通に起きて,ごく普通に働いて,ごく普通に弟を風呂に入れて,そして,ごく普通に眠るだけ,そんな抑揚のない毎日が繰り返し訪る。
そんな兄弟の楽しみの一つは,一年に一度巡ってくるキャンピングカーのピカピカ光る隊列(何かのフェスティバルに行くらしい)が通り過ぎるのを見ること。
いつもは,その隊列も過ぎ去ってしまえばそれまでなのだが,今年に限っては,事情がちょっと違った。
ある少女(ジュリエット・ルイス)とその祖母を乗せたキャンピングカーが故障してしまい,彼女たちは,修理部品が届くまでの間,町に留まることになったのだ。
そして,ギルバートは次第に彼女に惹かれていき,やがて,ギルバートを中心として今まで完結していた生活の何かが崩れ始め,とうとう一家にとって重大なある事件が起きる…

この映画では,何かが起きそうで,何も起きないともいえて,全体として淡々としたトーンだ。
なのに,他では味わえない清々しさを感じ,そして何だかホッカリと心の温まる不思議な癒し系の佳品で,例えると,見終わった後に,爽やかな5月の風が心の中を吹き抜けるようなそんな映画。
内容的には,一言でいうと,家族の「絆」とその一方で感じられる「束縛」の狭間で,上手くバランスをとりながら,平凡な毎日をつつがなく過ごしていくことの大切さがひしひしと伝わる,そんな作品である。
ジョニー・デップが,平凡だが心優しいギルバートをサラリと好演。この人は,こういう役柄を演じさせると絶品。
そして,意外な発見が,ディカプリオの芸達者振り。弟役を見事に演じ切っていた。ディカプリオは,あのタイタニックぐらいしか観たことがなかったが,タイタニックでの演技振りとは打ってかわった名演技(タイタニックファンの方,ゴメンなさい!)。ディカプリオの演技だけでもこの映画を観る価値はある。
監督は,スウェーデン出身のラッセ・ハルストレム。あの「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」(1985年・瑞)の監督でもあったことを知り,妙に納得。同監督の作品には,未見だが,「ショコラ」(2000年・米)もあるようで,いずれこちらも観てみたい。
【評価】8点(10点満点)

第5位 「パルプ・フィクション」(1994年・米)
B00005V1CJ
ギャングもので,台詞回しも長くてルーズ,無意味な会話が多いetc.拒否反応を示す方も多いであろう,題名通りの三文小説(pulp fiction)だが,造り自体が結構斬新で楽しめた。
時間軸を逆転させた映画には,「メメント」があるが,本作は,さらに造りが複雑で,4つの一見無関係なエピソードが,徐々に一つに収斂していくというもの。
強盗,八百長,薬物,ギャング等,アンダーグラウンドなエピソードだらけで,この映画を観たからといって自分が成長するとも思えないが,その世界に入り込んでしまえば,馬鹿げた会話の一つ一つも単純に楽しめる。
1994年カンヌ映画祭でパルムドールを受賞したクエンティン・タランティーノ監督の出世作だが,キャストがまた凄い。
ブルース・ウィリス,サミュエル・L・ジャクソン,ティム・ロス,ユマ・サーマン,スティーブ・ブシェーミという誰が主役を張ってもおかしくない顔ぶれに加えて,極めつけは,ジョン・トラボルタ!贅肉がたっぷり付いてしまったトラボルタの仕草と台詞,そしてユマ・サーマンとのダンスシーンには笑えた。
まあ,たまにはこういう馬鹿馬鹿しい映画も良いかと思って,第5位に入れた。
【評価】8点(10点満点)

大晦日の夜に,徒然なるままに今年観た映画の感想を書いてしまいました。
最後までお付き合いくださりありがとうございます。
やはり日頃からこまめに書いてはアップしておかないとだめですねぇ。疲れました
来年も,地理的事情等から新作中心にはならないと思いますが,思い出したように,映画のレビューを書いていきたいと思います。

ということで,このエントリーが今年の最後となりました。
今年1年お付き合いくださりありがとうございました。
来年も新たな気持ちで取り組みたいと思いますので,よろしくお願いいたします。
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今年観た映画(2005年)

2005-12-31 22:33:59 | 映画
今年観た映画について,簡単な感想を書いてみます。
なお,2005年に私が観た映画のベスト5は,こちらにアップしてありますので,併せてご覧ください(文字数が1万文字を超えたので,2つのエントリーに分けました)。

●「ムーラン・ルージュ」:2001年・米。可笑しくて切ないミュージカル映画。ユアン・マクレガーの「ユア・ソング」が最高!【評価】8点(10点満点)

●「バッド・サンタ」:2003年・米・独。とてつもなく下品だが,市井のアメリカ人が抱えている問題を毒を持ちながら描いており,最後はなかなかにしんみりさせる佳品。サンタ役のビリー・ボブ・ソーントンがはまり役。なお,サンタさんを信じている人は絶対に観ないでください 【評価】8点(10点満点)

●「バーバー」:2001年・米。コーエン兄弟の描くブラックな世界。この作品でも,ビリー・ボブ・ソーントンが良い味出している【評価】7点(10点満点)

●「21グラム」:2003年・米。ある悲劇を切っ掛けに3人の男女の人生が大きく転換する…こちらも時間軸がズレる作品。ショーン・ペンは,良い人の役でも憎々しい顔で,気になる存在。まずまず【評価】7点(10点満点)

●「デッドマン・ウォーキング」:1995年・米。死刑囚の贖罪を扱った重苦しい映画。非道な犯罪と贖罪と遺族感情の慰謝と…答えはなかなか出ない。死刑囚役は,ショーン・ペンがはまり役。【評価】7点(10点満点)

●「群衆」:1941年・米。フランク・キャプラが,マスコミによる情報操作,群集心理の怖さ等を描いた古典的名作。ただ,結末の処理の仕方が,今ひとつだったので,厳しめに…【評価】8点(10点満点)

●「ハウルの動く城」:2004年・日。宮崎アニメは,ある種,安心して観られる。ただ,ちょっとこの映画は,皮相的で深みに欠けるかな,と思った。キムタクは,予想していたよりはアフレコ上手で,「泣き虫の魔法使い」という役柄にもマッチしていた。【評価】7点(10点満点)

●「日本のいちばん長い日」:1967年・日。岡本喜八監督。1945年8月15日の終戦時の玉音放送の録音レコードは,陸軍の反乱分子によって破棄される寸前だったという,終戦前夜の内幕や人間模様をドキュメンタリータッチで描いた映画。ドキュメンタリー系なので,映画としての評価は厳しめにしたが,歴史の作られる裏では,こんな動きもあったということは,知っておいても良いのではないかと思う。ちなみに,原作は,大宅壮一編纂の同名の書籍だが,現在絶版の模様で,残念。【評価】8点(10点満点)

●「真夜中の弥次さん喜多さん」:2005年・日。宮藤官九郎の初監督作品ということで,ちょっとだけ期待して観たが,期待はずれ。スポット的には,面白い部分はあるのだが,それが全体的に作品として統合されていない気がする。良いプロデューサーが付いて,うまく調理(切り貼り等)していれば,もっと面白い作品に仕上がった気がするだけに残念。【評価】5点(10点満点)

●「オペレッタ狸御殿」:2004年・日。鈴木清順監督。実は,東京で一本だけ映画を観る時間が出来たときに迷ったのが,この作品と第1位にした「エレニの旅」だった。この作品の評判も良かったので,とことん迷った挙げ句,こちらはレンタルDVDでも観られるが,「エレニの旅」は難しいかも,と考え,「エレニの旅」を劇場で観ることにしたが,大正解だった。この映画は,私には全く理解不能で面白くなかった。ストーリーは単純,映像はいかにも作り物,役者の演技も今ひとつ。役者の能力というよりは,どう演じて良いのか戸惑っている感じで,流石に,平幹二朗と由紀さおりは,独自の持ち味を出していたが… これが清順ワールドといわれればそれまでかもしれないが,私には合わなかった。観たことを後悔した映画は久々。【評価】2点(10点満点)
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ジェラール・ドパルデューが引退?

2005-10-31 22:12:32 | 映画
フランスの名優ジェラール・ドパルデューが引退を示唆したとの報道に接した。
ジェラール・ドパルデューといえば,私にとっては,「シラノ・ド・ベルジュラック」(1990年)に尽きるが,「グリーン・カード」(1990年),「カミーユ・クローデル」(1998年),「1900年」(1976年)等の佳作への作品も多数あり,フランスを代表する演技派俳優である。
そのドパルデューが引退を示唆したというのだから,ショックが大きい。

「私には失うものはない。170もの作品に出演した。証明すべきものはもう残っていない。愚か者のように(俳優という職業に)しがみつくつもりはない」と仏新聞に語ったそうである。
たしかに,最近の出演作は,以前の作品に比べるとパッとしないものが多いので,気には掛かっていたが,引退するほどのことは無いと思う。
俳優は,作品に恵まれない時期もあると思う。年をとるにつれて,体力的にもきつくなることもあるだろう。
だが,歳をとって初めて表現できる演技というのもあるのではなかろうか。あまり演技が上手いとはいえないマストロヤンニが,単なる優男から,老境に至って味のある演技を見せてくれたように。
ドパルデューは,荒ぶる感情と繊細な感覚を持ちつつ,それらの絶妙なバランスの上に立って,非常に魅力的な人間像を再現することのできる希有な俳優だと思う。
現在,名戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」を再現できるのは,ドパルデューを置いて他にいないといっても過言ではない。
そんな才能漲る名優ドパルデューには,是非,「引退」は思い止まり,是非,「作品に恵まれないから少しお休み」ぐらいに止めて欲しいものだ。

ところで,ドパルデューの出演作には,「めぐり逢う朝」(1992年)という,バロック時代の音楽家師弟の物語を描いた名作があるらしいのだが,残念ながら,まだDVD化されていないため未見である。
これだけ評価の高い作品が未だDVD化されていないというのは,嘆かわしい限りである。
ブロードバンドの進展により,こういった若干マイナーな映画についても安価にネット配信されるようになればよいのだが,音楽のネット配信の現状を見ると,メジャーな音楽が中心で,産業音楽の最後の残り火が,燃え尽きる前の徒花を咲かせているに過ぎないような気がする。気のせいならば良いのだが。

變臉(へんめん)~この櫂に手をそえて~

2004-12-19 22:02:12 | 映画
 久々に心に染み渡る映画を見た。その映画は,「變臉(へんめん)~この櫂に手をそえて~(1996年・中国)」。あまり有名な映画ではないようだが,1930年代の中国の陋習とそれを乗り越える普遍的な人間愛とを見事に描いた名作だと思った。未見の方には,是非,ハンカチを片手にご覧頂きたい。

 主人公は,變臉(仮面の早変わりの大道芸)の名人で,四川の人々から「變臉王」と呼ばれる老人。伝統芸である變臉は,門外不出で男子の弟子にしか伝承が許されていない。變臉王は,ある日,超人的な變臉の芸に感動した四川劇の人気俳優(女形)から劇団への入団を誘われるが,これを断る。しかし,顧みれば,妻には去られ,子供は病気で亡くし,水上生活を続ける天涯孤独な自分には,芸を伝承する弟子すらもおらず,唯一の友は,「将軍」と名付けた猿のみ。そこで,一念発起,寒村から売られてきた「男の子」を買い,芸を継がせることを決めた。その子のキラリと光る目の輝き(!)に惹かれたのである。
 變臉王は,その子をクーワーと名付け,玉のように可愛がる。風邪をひけば,家宝の剣を質に入れて高価な漢方薬を買ってやる(この当たりから涙,涙の連続です…)。大道芸に行くときも,寝るときもいつも一緒。しかし,そのクーワーが,様々な騒動を巻き起こし,變臉王は窮地に追いつめられる。おまけにクーワーは…。後は是非ご自分でご覧ください!

 變臉王を演じるのは,NHKのテレビドラマ「大地の子」で主人公・陸一心の養父・陸徳志を演じたズゥ・シュイ(朱旭)。朱さんが,画面に登場するだけで,「大地の子」を思い出して涙腺が緩みっぱなしになりそうなのを何とかこらえた。そして,人身売買,男女差別といった陋習の中でも,人間としての愛情を決して忘れない実直な變臉王の演技は,徳志役にも勝るとも劣らぬ名演。
 監督は,「古井戸」(最近は,「LOVERS」,「HERO」等で,監督として有名になったチャン・イーモウが主演する名作)等のウー・ティエンミン(呉天明)。呉監督は,印象的なエピソードを小気味良く並べる中で,泣かせどころではジンワリとした雰囲気を上手く出しており,古典的ながらも勘所を押さえた好演出。
 そして,子役の周任瑩(チョウ・レンイン)と猿の「将軍」がまた良い。變臉王の心の中まで見透かしたような「将軍」の快演,そして周囲の状況に全神経を集中させたかのような動物的な周の名演が素晴らしい。初めて登場する場面,變臉王に出会いはじめて人間として扱われた場面,大道芸を見せる場面等々,場面ごとに最適な「目」の使い方を見せる周の演技には感心した。

 この映画は,現在,残念ながらDVDも出ておらず,おまけにビデオも絶版になっているようであり,レンタルビデオ店でも置いているところは少ない(私も,何件か訪ね歩いた挙げ句漸く見られた。)。ただ,呉監督の最新作「CEO(最高経営責任者)」(世界に冠たる中国の総合家電メーカー「ハイアール」のサクセスストーリーを描いた映画)が現在公開中であり,これに併せてDVDが発売にならないかなぁと淡い期待を抱いているところである。變臉の芸や四川劇の華やかな場面や,街並みのジメッとした雰囲気なんかをクッキリとデジタル処理された画面で見ると最高なんだけどなぁ。

年末年始に「感動」を味わいたい方は,是非!

【評価】10点(10点満点)ちょっと甘いかなあと思ったが,私は涙ものには弱いのであった…

「記憶」の欺瞞~映画「メメント」を観て

2004-10-21 01:39:03 | 映画
 数年前に話題になった映画「メメント」を漸く観た。妻の「殺害」を目の当たりにして,そのショックで10分間しか記憶ができなくなった主人公が,復讐を果たすべく奮闘するという物語である。彼の頼りは,要所要所で撮ったポラロイド写真とそこにかき込んだメモ,キーポイントを書き込んだ模造紙,そして,体に彫り込んだ事件解決のキーワード(タトゥー)。一体,何が真実なのか??是非,メモを片手に見て欲しいお奨めできる映画である。面白い!!!
 この作品は,「映画」の可能性をまたひとつ生み出したものであること間違いない。以下,ネタバレだが,おそらく予備知識を持った方が絶対に楽しめると思うので,敢えて少しだけネタバレする。

 映画は,2つの系統を辿る。1つは,カラーの系統で時系列とは「逆転」,もう1つは,モノクロの系統で時系列の「順転」。これだけは押さえておいた方がよい。あとは,メモ(特に,日本人にとっては覚えにくい,登場人物の名前)をとりながら,映画の流れに身を委ねる。そうすると,必ずや,「シックス・センス」ばりのトリックに陥ること間違いない。『記憶』の曖昧さを補うものが,「メモ(記録)」だと言われている。しかし,本当に,『記録』が『記憶』を補完し,真実を凍結保存することができるのか。
 この映画は,上質のエンターテイメントでもあると同時に,「記憶」の欺瞞,そして,結局はその時点時点の人間の恣意にコントロールされたものに過ぎない「記録」の揺らぎをえぐった作品である。
 私は,この映画を見終わって,芥川龍之介の「藪の中」(黒澤明監督の「羅生門」の原作)を思い出した。
 一体,何が真実なのか?この映画では,そのキーは,タトゥー”I’ve done it (殺(や)ったぜ)”にある(と思う)。
 このDVDには,物語の進行が時系列の順に並び替えられたヴァージョンもオマケで収録されている。見終わった後,とてつもなく疲れる映画ではあるが,是非,何度も見直して,「記憶」の欺瞞と「狂気」を味わって欲しい。知的好奇心が刺激されること間違いない。
 良かったら,「真実」が何だと思うか,コメントしてください。

追記 私は,最初に見たときに,思わず3回見てしまった。事実関係を掘り下げたいのなら,2回目以後は,日本語吹き替えで見た方が良いかも知れない。字幕だとどうしても情報量に限界があるので…
 
メメント(2001・米)

【評価】8点(10点満点)(残虐な場面(殺人シーン)が出てくるので2点減)

嵐の夜の映画鑑賞3~博士の異常な愛情

2004-10-12 05:13:02 | 映画
博士の異常な愛情(1964・英・米)

嵐の夜の鑑賞第3作は,鬼才スタンリー・キューブリックの「博士の異常な愛情;または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」。最初に断っておくと,この映画は,ブラックユーモアに満ち溢れた作品で,万人受けするものではないし,それに,特定の時代背景を理解していないと真のメッセージは分からない。そういう特殊な映画であるが,20数年振りに見て,やはり名作だと思った。

ソ連が崩壊し,ベルリンの壁もなくなった今では,「核戦争の危機」といっても,パキスタンのカーン博士のブラックマーケット関与やIAEAの北朝鮮査察問題を思い浮かべる程度で,あまりピンとこないかもしれない。しかし,ゴルバチョフの登場とそれに続くソ連崩壊に至るまで,第二次世界大戦後の世界は,1962年のキューバ危機に代表される米ソ間の核開発競争とそれに伴う核戦争の危機に常に直面していた。危機の度合いを示す指標として「終末時計」(アインシュタインらが考案した,核戦争勃発による地球壊滅までの残り時間を示す時計。午前0時を指した時が核戦争勃発時点)が考案され,国際情勢の変動の都度,時刻の増減も報道されたりしたものである(冷戦時代には2分前にまで迫った。冷戦終了により,17分前まで戻されたが,パキスタンの核実験,同時多発テロ等により,7分前にまで進められた模様。)。

この映画は,キューバ危機の2年後のピリピリした状況で公開された映画である。米空軍の将軍が,突如,ソ連の戦略核基地攻撃命令を出し,水爆を搭載した十数機の爆撃機が爆撃に向かう。これを知った米国大統領は,軍隊の首脳,ドイツから移住した博士(Dr.Strangelove~題名はこの博士の名前の直訳。直訳だが,作品自体を上手く表した名訳だと思う。),在米ソ連大使等を集め,爆撃を阻止するための対策会議を開くが,事前の「綿密な」計画の基に走り始めた爆撃を阻止することは簡単ではない。しかも,爆撃を受けたソ連からの報復も予測され… 核爆弾という人間の知能ではコントロールが不可能ではないかと思われる武器を持ってしまった恐怖,これを扱う人間の悲しいまでの凡庸さ,綿密・完璧な筈の「システム」の脆さ,そして,終末期を迎えても血統にこだわる狂気等を,キューブリックならではのキレの良い映像感覚で描く。ピンクパンサー・シリーズのクルーゾー役のピーター・セラーズが,大統領,英国軍大佐,Dr.Strangeloveの三役を名演している。

米国は,「世界の警察」を自負しているが,その歴史は,常に,果敢なまでのtrial & errorで進んでいる。朝鮮戦争時のマッカーシーによる赤狩り,ベトナム戦争への突入と泥沼化した戦争からの撤退,極端なまでのアファーマティブ・アクション等が象徴的だ。過激なまでの突撃,それに対する「言論の自由」が正常に機能した上での反論。これが至る所で働いている。キューブリックのこの映画も,冷戦時の危機的状況における,核保有による力の均衡(核均衡論)に対する痛烈なまでの皮肉であり,「言論の自由」が正常に働いている証拠でもある。時代全体が不安感を感じていたことの現れでもあると思うが,あの時期に,この手の作品をメジャーリリースできるのは,やはり凄いことだと思う。ストーリーや映像,美術自体も良くできているが,作品の存在自体が時代を象徴していると言う点で,時代を超えて語り継がれる紛れもない名作である。なお,核戦争の恐怖を心理的に描いた作品としては,他に,核爆弾を使用した第3次世界大戦勃発後の世界を描いた渚にて(スタンリー・クレイマー監督,グレゴリー・ペック主演。無線信号が印象的)があり,こちらもお勧めできる名作。

ところで,ソ連の崩壊後も,南北問題,食糧難,カンボジア等での地雷の悲劇,イラク問題等,人類が直面する問題は山積であるが,「映画」という媒体が,これにがっぷり取り組む機会はめっきり少なくなっている気がしていた。そんな中,その手法等に賛否両論があるものの華氏 911が米国で大ヒットした。大統領選にぶつけたことが大きいのだろうが,イラク問題に関して米国民が疑問を抱き始めているのが,最大の要因だと思う。ブレの激しい国を「同盟国」として持ってしまっている日本が,今後,国際社会でどのように立ち回るのかは,大きな問題だが,これも「言論の自由」の一局面なのだろうな,とそんなことを考えている。

【評価】9点(10点満点)

嵐の夜の映画鑑賞2~スパイダーマン

2004-10-10 09:18:02 | 映画
スパイダーマン(2002・米)

嵐の夜の鑑賞第2作は,「スパイダーマン」。「スパイダーマン2」(未鑑賞)の評価が比較的高かったことから,普段はあまり見ないハリウッドアクションものを見ることにした。昔,テレビでアニメ版をよく見たが,当然のことながら,CG版は,格段の迫力とリアリティがある。また,ストーリー的には,単純な勧善懲悪だが,その裏にあるヒーローの『苦悩』が比較的丁寧に描けており,アメコミを映画化したものにしては,そこそこ楽しめる。
 全編を支配するキーワードは,「大いなる力には,大いなる責任が伴う」(このキーワードが,恐らく,Part2以後に繋がっていく。)。
 身につまされる言葉ではあるが,この映画が公開されたのが,2001年の「911」の直後であるということ,その当時のアメリカの状況(世界の警察アメリカがテロリスト=悪の枢軸国を駆逐しなければならないという機運が猛烈に高まっていた),そして現在のイラクでの何が「正義」かほとんど分からなくなっている泥沼の状況等を考えると,少し背筋が寒くなる気もする。
 もっとも,そういったことを考えなければ,ストーリー展開はキビキビして無駄がないし,スパイダーマンを演じるトビー・マグワイアは悩める青年を好演しているし,楽しめる一編ではある。
 ところで,悪役ゴブリンを演じるのは,ウィレム・デフォーであり,見事な悪役振りを演じている(顔自体が,悪役顔という気もする。)。彼をはじめて認識したのは,既に古典の領域に達してしまった感のある「プラトーン」。この映画の中で,彼は,村人たちの虐殺を阻止しようとするエリアスを演じており,それ以来,注目していた。その後も,「ミシシッピー・バーニング」「最後の誘惑」等の上質の作品で好演していたが,最近は,「スピード2」をはじめ,B級アクションものでの悪役振りが目立つような気がするが,気のせいだろうか?

【評価】7点(10点満点)

嵐の夜の映画鑑賞~スクール・オブ・ロック

2004-10-09 22:04:25 | 映画
スクール・オブ・ロック スペシャル・コレクターズ・エディション(2003年・米=独)

 関東地方は,昨晩から風雨が激しく,今日は一日家に籠もりっきり。というわけで,この24時間で,3本も映画を見てしまった。そのうちの一つが,「スクールオブロック」。嵐の夜はコメディに限る!
 人気上昇中のジャック・ブラックが演じるのは,売れないロック・バンドのリードギタリスト。バンドを首になって食い詰めたあげく,友人に成り済まして名門小学校の代用教員になった彼は,ロックの歴史とスピリットを子供たちに教え始め,お利口さんの子供たちの影響を受けながら,彼らの能力を引き出していく…というお話。
目を血走らせながら真面目にロックンロールスピリットを子供たちに教え込む役どころを怪演するジャックは最高!!全編に70年代のロックの名曲とそのパロディが溢れる。何よりも一番の魅力は,性別も,人種も,そして個性もすべてがバラエティに富んだ子供たちが,自分たちの能力を伸ばしていくところ。
 「おまえ何ができるんだ」「私は,~ならできる」「やってみろ」ってな感じで,どんどん子供たちをその気にさせる展開には,『お約束』的なものも感じながらも,やっぱり感動しちゃいました。特に,太った黒人の女の子が,「私,やっぱり歌いたい」と言い出して,アレサ・フランクリンのエピソードが出てくる場面は大好き。アレサが,カフェの女店主を演じる,あの名作ブルース・ブラザーズを想い出しちゃいました。この作品は,盛りだくさんの笑いもあるんだけれど,子供たちとのやりとりの中でほろりとくる場面があるんですよ。子供たちの「演奏」も見事で,本当に弾いているのかなと思わせるほど。
 反体制・反権力でありながら,自分は負け犬というロックの根本精神を押さえつつ,やっぱり「夢」は諦められないという非常に好感の持てるスタンスのこの映画は,お奨め。ロックを愛する人もそれ程ではない人も絶対に楽しめます(AC/DCはもちろんのこと,ツェッペリンもキッスも,下手をするとデビット・ボウイさえ知らないうちの同居人もかなり楽しんでました。)。

【評価】9点(10点満点)

衝動買い~水野晴郎シネマ館

2004-10-02 01:41:20 | 映画
私は,せっかちである。そして,欲しいもの(欲しかったもの)が手に入らなかった時には,大いに落ち込んでしまう。ゆえに,衝動買いも多い(今一つ三段論法になっていない...)。ということで,先ほど,水野晴郎シネマ館(DVD10枚組・2,700円)をゲットしてしまった。数か月前から,巷では話題になっていたようだが,私は知らなかった...
これは,いわゆる食玩である(ジューシーのカバヤ)。著作権が切れた作品を集めてセット販売しているようだが,いずれの作品も水野氏らしいこだわりのあるもので,いずれもそこそこ定評のあるもののようだ。
500円DVDにも驚いたが,このシリーズは,これを遙かに凌駕するもの。
私は,今何かと話題の楽天で買ってしまったが,コンビニ等でも扱っている模様。
手許に届くのが待ち遠しい!

タイトル・バックに魅せられて

2004-10-01 23:59:44 | 映画
 ほとんどの人はご存じないと思うが,"Pen"という雑誌がある。と,若干居丈高な書き出しだが,かくいう私も,実は,今日はじめて書店で出会った。手に取った瞬間,独自のこだわりがあってなかなかいい味を出していると思った。最新号の特集は,「名作がいっぱい 映画のデザイン」。タイトルバック(キャスト,スタッフ等を紹介した部分),ポスター,字幕,ロゴといった普段は,本編の刺身のツマ的な役割しか果たさない脇役たちのために,全力投球したアーティストたちを集めた特集である。
 この特集には,映画に対する強い 愛 を感じた。個人的には,タイトル・バックデザインの名手と言われているモーリス・ビンダーとの出会いが嬉しかった。
 今日まで,「モーリス・ビンダー」という名前は,私の辞書にはなかった。が,あの「シャレード」の洒脱で当時としてはモダンなタイトルバックを作り,なおかつ,007シリーズのタイトルバックも長年手がけた人物と知り,私の脳裏に深く焼き付いた。
 007といえば,シルエットを巧みに使ったタイトルバックは誰でも知っていると思う。私は,英国の水戸黄門といっても過言でないこのシリーズのフリークではないが,あのタイトルバックが流れる前の,前座的なエピソードは大好きだ。あの短時間で,いつもグイッと本編へと引き込む凝縮したストーリーには,マンネリ感はあるものの,いつも感心する。これをグイッと引き締めているのが,あの独特の美的センスを持ったタイトルバックと有名すぎるテーマソング。
 そして,「シャレード」(オードリー・ヘップバーン&ケーリー・グラント)は,マンシーニの甘美な音楽が全編に流れる佳品だが,のっけから作品の中へと引き込むのが,台詞なしに映像だけで「おいおい!」と思わせる冒頭のエピソード。これに続くのが鮮烈な印象を残すタイトルバック,そして,タイトルバック直後にいきなりオードリーが瀕する危機…この展開だけで,もう映画の世界にのめり込んでしまう。タイトルバックを中心とした冒頭部分だけでも,「シャレード」は一見の価値がある,と思う。
 というわけで,007シリーズとシャレードといった素晴らしいタイトルバックを創ったビンダーの存在を知っただけでもPenの最新号には大感謝。他にも,スペイン,チェコ等,普段は目が届かない映画の脇役も盛りだくさんに紹介されている。
 こんな素敵な特集を組む力をもった雑誌の編集者はどんな人なのだろうと,興味深く考えた。しばらく,この雑誌から目が離せそうにない。

スター・ウォーズは永遠に~DVD-BOXを買ってしまった

2004-09-30 23:16:37 | 映画
スター・ウォーズ トリロジー DVD-BOXが今日届いた。

エピソードⅣ~Ⅵ(第1作から第3作)と,4時間に及ぶ特典映像からなる4枚組のBOXセット。
このシリーズはもう何度も見たが,デジタルリマスタリングされたというのと,Amazonで20%オフ(\7,980)だったのとで,思わず衝動買い。
先ほど,30分ほど見てみたが,も~感動もの!
映像は,クッキリシャッキリ,音声もドルビー5.1サラウンドEXで,体全体に響いてくる。
ハリソン・フォードも若くてチャキチャキしてる。
また,場面ごとに音声解説もあり,特撮の裏話等も聴ける。
当然のことながら,英語の台詞字幕にも切り替られ,英語三昧を目指している私としては,これを利用して,英語力のブラッシュアップを図ろうと考えている

ということで,これからじ~っくり見ようと思うので,今日のBlogはこれでお終い。
あ~明日の仕事はどうなるのだろうか??

オーソン・ウェルズの審判

2004-09-23 22:13:37 | 映画
オーソン・ウェルズの「審判」(1963年)

数週間ぶりの映画鑑賞。オーソン・ウェルズ監督・脚本の「審判」を観た。原作は,実存主義文学者フランツ・カフカの同名小説。カフカと言えば,「ある朝,グレゴリー・ザムザが目を覚ますと,自分が一匹の巨大な虫に変わっているのを発見した。」で始まる「変身」が有名だ。このカフカの小説に,市民ケーン等で誉れ高い鬼才ウェルズが取り組めば,ぶっ飛ばないわけがない!!
小気味よいカット割り,場面によっては超然とした長回し,コントラストの強いライティングといった独特の映像感覚が,グイグイとウェルズの世界に引き込む。

ストーリーは,ある朝,突然,全く身に覚えがないにもかかわらず,「逮捕状態」であると宣告された青年Kが,警察の監視下に置かれながら,疑惑を晴らそうと孤軍奮闘,苦悩するというもの。「『法』の前の『門』で長年待ち続けた者が,年老いた末に,門番に問うたところ,『門は今閉まる』と答えられる」との冒頭の寓話(これ自体が難解)をモチーフに話は展開する。

無表情で魂を抜かれたかのような群衆,無機質の(63年当時から見た)近未来風のビル,Kを取り巻く不条理きわまりないエピソードの数々。一度顧客をつかむとあの手この手で離そうとしない弁護士,法律家たちは言説を弄するばかりで,他の被告人同様,Kの裁判は一向に進まない。Kは徐々に底なし沼へとはまりこんでいく…
エンディングの後も,ウェルズの描き出した超非日常的な世界に,しばし呆然。と同時に,カタルシスを感じた。
こんな経験は,タルコフスキーのノスタルジア,ゴダールの気狂いピエロ以来である。

出演者の中では,ロミー・シュナイダー(ヴィスコンティの「ルードヴィヒ」での美しさが忘れられない,悲劇の名女優)が妖艶。弁護士事務所の事務員兼看護婦役を演じており,色仕掛けでKを離さず,闇へと引きずり込もうとする。この役柄は,安部公房の「砂の女」にも一脈通じるものがあるように感じられた(20年ぶりに公房も読みたくなった…)。

久々のシュールな体験。ストーリーは難解だが,映像を眺めるだけでも,昨今のCG乱発のものとはひと味違った映像体験ができる。

【評価】9点(10点満点)

ボクのヒーロー(実写編)

2004-09-06 22:20:38 | 映画
「友を持つならダルタニャン」ともいう(「三銃士」)。小学生のころ子供名作全集で読んで心が揺さぶられた。が,「友」ではなく「ヒーロー」を選べと言われると,迷わず,同じく仏蘭西の国民的英雄シラノ=ド=ベルジュラックを選ぶ。
時は絶対王制期のフランス。詩人にして剣豪,月世界の旅人にして毒舌の名人。そんなシラノの唯一の欠点はめっぽう大きな鼻。
絶世の美女ロクサーヌに恋するシラノが,同じくロクサーヌに恋する美男子だが恋を語る才覚に欠けた男に成り代わり,ロクサーヌに恋をささやく。2人の男の恋の結末やいかに…
シラノについては,当初エドモン=ロスタンにより戯曲として書かれ,映画化もされた。
シラノは,快男児にしてフランスの国民的英雄。
演ずるは,当代きっての名優ドパルデュー。衣装良し,時代考証良し,映像良し,音楽良し,そして何よりも台詞の一音一音が天上の音楽を聴くように美しい(やはり恋を語るならフランス語ですね。)。
今の日本では忘れられた「男の心意気」を堪能できるストーリーであり映像でもある。
戯曲(シラノ・ド・ベルジュラック岩波文庫)も手許に置きつつ,落ち込んだ時には,いつかはシラノのようにと思う今日この頃である。
最後の台詞は何度聞いても(読んでも)涙が出る。

スター・ウォーズ エピソード7・8・9?

2004-09-01 23:00:07 | 映画
「スター・ウォーズ エピソード7・8・9」の噂が出回っている。スター・ウォーズ・フリークではないが,出会いは小学生の頃。冒頭の画面中央を流れていくテロップとテーマ曲に体中を電流が走った。そして,全9作との構想を聞き,前後のストーリーがどのようになるのか思いを巡らした。しかし,1983年の「ジェダイの復讐」以来,「エピソード1」まで十数年もの年月を要し,その間,スター・ウォーズは,3作で終わりとの噂を何度も聞いた。

待ちに待った「エピソード1」は,それまでの3作に比べると見劣りする部分も多々あったが,「スター・ウォーズ」を見た頃の想像とは,ここが違うぞ,あそこは想像通り...という具合に,小学生の頃の思いに重ね合わせながら,慈しむように見た。価値観が多様化した現在,善悪の二元論はアナクロ過ぎるとの声もあったが,それでも,自分の記憶のうちの欠けていた何かを埋めるように,「エピソード2」も見た。

ルーカスには,存命中に,是が非でも全作を完結して欲しい。その一方,あのころのドキドキした思いをぶち壊しにしないで欲しいとも思う。
それは,初恋の人に十数年経ってから「会いたい」と思う心持ちにも似ている。

アラバマ物語~500円DVDの誘惑

2004-08-29 16:48:35 | 映画
映画「アラバマ物語(米・1962年)」を見た。昨年亡くなったグレゴリー・ペックの代表作であり,アメリカの「良心」そのものが感じられる名作との誉れが高い作品だが,噂に違わず良い作品だった!!

舞台は,1930年代,恐慌下のアメリカ南部。物語は,白人女性を強姦した疑いで逮捕された被告人の弁護を行うこととなった主人公アティカス・フィンチ(弁護士)の黒人差別との戦い,アティカスの子供たちの「怪人」ブーを巡る小さな冒険を軸に展開する。派手なアクションやロマンスはなく,極めて地味なストーリー展開ながら,子供の視点から,アメリカ南部の日常生活,法廷での応酬等を通じて,黒人差別という重いテーマをじっくりと描き,独特の余韻が残った。

白人の偏見を向こうに回し,正義を貫く「強い父」という側面と,母を亡くした後,子供たちを思いやる「優しい父」という側面,両方を兼ね備えたアティカスの姿は理想の父親像といえよう。アティカスが,2003年に米国映画協会が決めたAMERICA's GREATEST HEROES (ヒーロー)& VILLAINS(悪役)の堂々第1位に選ばれたのも当然だろう(第2位はインディ・ジョーンズ,第3位はジェームスボンド)。
ただ,アメリカの実情を見れば,現在も黒人差別が依然根強く残っており,現代のアティカスの登場を待ち望んでいるアメリカ人も多いのではないかとも思われる。そんな人間世界の生きにくさがあるからこそ,作品制作後40年たった今なお,アティカスの持つ「良心」が熱望されるのかも知れない。皮肉なものである。

なお,本作では,子役の巧さも見逃せない。子供と「怪人」を描いた映画では,「ミツバチのささやき」というスペイン映画があり,この作品のことを懐かしく思い出した(私が見たのはかれこれ,15年前!)。これも子供の微妙な心理を独特の陰影のある映像で描いた名画だが,非常に残念ながら今は廃盤のようである…

ところで,アラバマ物語は,なんと500円でDVDが入手できる。vagabondはシャレード踊る大紐育とこのアラバマ物語を買ってしまった(ほとんど衝動買い)。シャレードの画質は今ひとつだったが,アラバマ物語はモノクロということもあって,それほど画質が悪いとは思わなかった。コスミック出版というところから出ていて,他に,駅馬車邂逅めぐりあい[トム・ハンクスの「めぐり逢えたら」のオリジナル]ほかが,なぜか「書籍」扱いで売られている。レンタル代と変わらないので,他の作品も衝動買いしそうで怖い。
いい時代になりました。