vagabond の 徒然なるままに in ネリヤカナヤ

エメラルドグリーンの海,溢れる太陽の光,緑の森に包まれた奄美大島から,乾いた心を瘉す写真をお届けします。

カペルマイスター・ブロムシュテット 最後の日本公演~深い祈りとともに

2005-02-27 23:04:34 | 音楽
朝起きると,聖書を読み,祈りを捧げ,そしてスコアに向かって曲の研究をする。そんな敬虔なクリスチャンでもあるブロムシュテットが,7年に及んだライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の第18代カペルマイスターとして最後の日本公演を行った(2005年7月に退任し,リッカルド・シャイーにカペルマイスターを譲る。)。
この公演は,「日本におけるドイツ年2005/2006」の一環として行われるものである。
私は,今日,東京サントリーホールで,この一連の公演の最終日を聴いた。

演目は,次のとおり。
1 メンデルスゾーン作曲 交響曲第4番 イ長調 op.90「イタリア」
2 ブルックナー作曲 交響曲第7番 ホ長調 (ハース盤)

ブロムシュテットは,今年で78歳とは思えないほど若々しく,背筋をピンと伸ばし,颯爽とした指揮振りで格好良い。しかも両曲とも暗譜である。バトンも洗練されている。
(まだ70歳にもかかわらず,椅子に座り,猫背で,楽譜を睨みながら指揮をするブリュッヘンとは対照的な姿である。)
そして,曲の全体を大づかみにガシッと捉え,一筆で一気呵成に描いたような,自然で,全くけれん味のない名演奏を聴かせてくれた。
N響の名誉指揮者としても親しまれているブロムシュテットであるが,やはり手兵ゲヴァントハウスからは,期待に違わず,ヴィンテージワインを味わうかのような濃密な音楽が紡ぎ出され,素晴らしい演奏会であった。

特に,ブルックナーが素晴らしかった。
第1楽章の冒頭,微かな弦のトレモロで,「原始霧」が漂い始める。
ウィーンフィルに比べると,湿り気を感じさせるような濃厚な「霧」の出現である。
この冒頭から曲の世界に引き込まれる。

私は,ブルックナーの同曲に関しては,カラヤン,ジュリーニがそれぞれウィーンフィルを振った演奏を愛聴してきたが,ヴァイオリンの響きが全く違う。
ウィーンフィルの今にも切れんばかりの薄絹のような響きに比べると,線が太いのだが,その分,心にじわじわとしみ通るような渋い響きを聴くことができる。
そこにチェロが絡み,荘重に音楽が進んでいく。
高音の弦楽器は渋く,そして低音の弦楽器は重厚に響き,心の底へと響いてくる。
日本の楽団では,チェロやコントラバスが少しくぐもった音色になりがちなのだが,これらの楽器群も,重厚でありながらも,一音一音がきっちりと伝わってくる。
ドイツの名門楽団らしい,重心が低く,腰の据わった,安定感のある,そして構築力の高い演奏である。

粒立ちの良いフルートの響きも実に美しい。
そして,トランペット,トロンボーン,チューバが壮麗な響きを奏でるのはいうまでもないが,ホルンが深く透った音色を聴かせてくれる。
第2楽章で登場する4本のワーグナー・チューバ(普通のチューバを小型にした感じのもの)の奏でる「送葬の音楽」も渋く心に染み渡る。
これら金管楽器の分厚い響きは,体格の良いゲルマン民族ならではのものなのかもしれない。
特に,第4楽章での金管楽器の爆発ぶりは凄まじかった。
なお,今日一番感心したのは,フルートとホルンの美しい響きであった。
クラリネットの音色や節回しには堅さを感じたが,管楽器の奏者は全般にまだ若い(30歳から40歳ぐらいか)ながらも,素晴らしい演奏を聴かせてくれた。

メンデルスゾーンも,清々しく溌剌とした演奏。
特に,第3楽章のホルンの響きが,高原を吹き抜ける涼風のようで心地よかった。
ゲーテと同様に「南の国」イタリアへの遙かなる憧れを抱いたメンデルスゾーンの思いを巧みに再現した素敵な演奏であった。

プログラムの冒頭には,「物であふれる今日,精神面,倫理面での育成がこれまでになく必要とされています。音楽を魂の糧として,私たちの生活を豊かにしようではありませんか。」とのブロムシュテットの挨拶が掲載されていた。
その言葉どおり,ブルックナーが推敲に推敲を重ねて作り出した世界が全宇宙に向かってじわじわと広がっていくかのような壮大な演奏であった。同時に,ブロムシュテットの深い祈りの気持ちや,清らかな気持ちも感じられた。
また,カーテンコールで,楽団員一人ひとりの所へ駆け寄って握手を求める姿にも,このマエストロらしい誠実な人柄を感じた。
アンコールは残念ながら無かったが,楽団員が下がった後も,拍手に応えて,ブロムシュテットが登場し,観衆みんなが別れを惜しんでいたのが印象的だった。

ところで,ブロムシュテットがカペルマイスターになってから,マズア時代には失われていたゲヴァントハウス管弦楽団の輝きが復活したともいわれていたようだ。
確かに,今日の演奏を聴いただけでも,音楽の熟成と楽団員との信頼が強く感じられた。
一方,クラリネットをはじめまだ若く若干の青さを感じられる楽団員については,さらなる鍛錬と成長が期待されるところでもある。
にもかかわらず,このような熟成の途中で,ブロムシュテットがカペルマイスターを降りるというのは,まことに残念でならない。
また,ブロムシュテットがゲヴァントハウスと共演したCDも数点しかなく,彼のけれん味のない演奏は,あまり時代にそぐわなくなっているのかなとも思う。
しかし,彼の音楽は,その精神性とともに,時代を超えて生き残る「本物」であることは間違いない,と思う。
今後も,ブロムシュテットは,定期的にゲヴァントハウスの客演指揮者として登場するらしい。
これからも,長生きをして,心に更に磨きをかけ,彼らしい気高い演奏を続けて欲しい,そう祈らずにはいられない。

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2 コメント

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NHKのFMで聞けそうです (Curling)
2006-09-06 22:13:54
以下のもの、過去のケースより、NHKのFMで聞けそうです。



今年2006年11/23、24、25 

本拠地ゲバントハウスでのコンサート!

<指揮> ヘルベルト・ブロムシュテット 

<ピアノ> ピ-ター・ゼルキン 

ライプツィヒ・ゲバントハウス管弦楽団

【曲目】

ストラビンスキー「ピアノと管楽器のための協奏曲」

ブルックナー 交響曲第7番 ホ長調



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



ただし、3ヵ月後~半年後となりそうです!



例えば、、、、、、、



2005年7月1日のコンサート

ブロムシュテット/ゲバントハウス「ブルックナー8番」さよならコンサート!



NHK・FMで、2006年04月03日放送されてます。下記参照。

http://plaza.rakuten.co.jp/noclasica/diary/200604030000/





他にも、古楽奏法(ピリオド奏法)で演奏された、モーツアルトのピアノコンチェルトや、第41番「ジュピター」など、本拠地ゲバントハウスでのこのコンサートもNHK・FMで放送されました。



というわけで、3ヵ月後~半年後待つと、NHK・FMで放送されそうです。



番組表をたえずチェックという感じですね。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



あと、かなりコストパホーマンスが高いDVD情報です。

URLをどうぞ!



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情報ありがとうございます (vagabond67@管理人)
2006-09-08 06:52:35
Curlingさん,情報ありがとうございます

しばらく番組表とにらめっこですね

それにしてもNHK FMのクラシック放送,昔と比べると随分寂しくなりましたね...
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