僕の感性

詩、映画、古書、薀蓄などを感性の赴くまま紹介します。

鎌倉

2017-09-08 09:25:00 | 文学


鎌倉のいはゆる谷の奥で、波が聞える夜もあるから、信吾は海の音かと疑つたが、やはり山の音だった。
 
遠い風に似ているが、地鳴りとでもいふ深い底力があつた。自分の頭のなかに聞えるようでもあるので、信吾は耳鳴りかと思つて、頭を振つてみた。
 
音はやんだ。
 
音がやんだ後で、信吾ははじめて恐怖におそはれた。死期を告知されたのではないかと寒けがした。

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長年鎌倉に在住した川端康成の名文、「山の音」からの抜粋である。

四方を海と山に囲まれ、切通の多い城塞のような地形が、山の音を聴かせたのであろう。


夏目漱石も円覚寺を訪れ、「門」の題材を探っている。

芥川龍之介は1916年から1年住んで、「地獄変」や「蜘蛛の糸」を書いている。

多くの文士たちが愛した鎌倉だが、週末の観光客の多さで道路が大渋滞するのだそうだ。

例えば、鎌倉から北鎌倉まで普通15分で着くところが、2時間もかかるという。
これでは地元住民はたまったものではなく、生活が脅かされてしまう。

何も車で来なくとも横須賀線を利用すればと思うのだが。

そこで鎌倉市では、休日ETCを使って鎌倉市民以外を対象に、幹線道路9か所で1000円を課金する試みを導入するそうだ。
はたしてこれで渋滞が緩和されるかは疑問符が付くのだが、

自分がよく鎌倉を訪れた昭和55年頃は人も少なく悠々とお寺さんを廻って歩くことができた。

さだまさしの「縁切寺」の曲の中にも「今日のあの町は人影少なく思い出に浸るには十分すぎて」と出てくる。

東慶寺に入ろうとしたら彼女に泣かれてあきらめたが、3年後に別れを切り出されたという
歌詞が今、まざまざとよみがえってくる。