僕の感性

詩、映画、古書、薀蓄などを感性の赴くまま紹介します。

パンの会

2013-02-13 17:31:11 | 文学
 私はどちらかというとご飯党だが、時よりパンも食べたくなる。特に揚げパンや生クリームたっぷりのものが好きだ。

「パンの会」というとパンの試食会のようだが、さにあらず、1908年(明治41年)に北原白秋や木下杢太郎らのスバル派と
画家の石井柏亭や山本鼎らが興した文藝運動の場なのである。

パニックの語源であるギリシャ神話の半獣神パンにその名をとった。
彼らはフランスのヴェルレーヌ、ボードレール、ランボーなどフランスの詩人に憧れ、隅田川をセーヌ川に見立て隅田川界隈の
西洋料理店で会合を行った。反自然主義を標榜し、江戸情緒趣味や異国情緒への憧憬など浪漫主義を提唱した。

長田幹彦は当時の様子を次のように述べている。

真のノスタルジアと空想と詩とに陶酔し、惑溺した時代だ。芸術上の運動が至醇な自覚と才能から出発した時代だ。心の扉に「商売」の札がなかった時代だ。人生は美しかった。

北原白秋の「邪宗門」も石井柏亭の装幀でとても素敵な作品に仕上がっている。


        われは思ふ、末世の邪宗、切支丹でうすの魔法、
        
        黒船の加比丹(かぴたん)を、紅毛の不可思議国を、
        
        色赤きびいどろを、匂い鋭(と)きあんじゃべいいる、
        
        南蛮の桟留縞(さんとめじま)を、はた、阿刺吉(あらき)、珍陀(ちんだ)の酒を。
        
        目見(まみ)青きドミニカ人は陀羅尼(だらに)誦(づ)し夢にも語る、
        
        
        芥子粒を林檎のごとく見すという欺罔(けれん)の器(うつは)、
        
        波羅葦僧(はらいそ)の空をも覗(のぞ)く伸び縮む奇なる眼鏡を。
                            
                          [北原白秋---邪宗門秘曲]