僕の感性

詩、映画、古書、薀蓄などを感性の赴くまま紹介します。

森鴎外の『舞姫』と献呈文

2010-08-21 23:39:14 | 読書
森鴎外の『舞姫』をコミック版で読んでみました。
漫画では主人公の太田豊太郎と踊り子エリスとの出会いの場面が
「こんなに綺麗な少女が あんな所で何故泣いているのだろう・・・」の一言なのに
原文では雅文体でとっても詳しく少女の描写がなされています。


今この処を過ぎんとするとき、鎖(とざ)したる寺門の扉に倚りて、声を呑みつゝ泣くひとりの少女(をとめ)あるを見たり。年は十六七なるべし。被(かむ)りし巾(きれ)を洩れたる髪の色は、薄きこがね色にて、着たる衣は垢つき汚れたりとも見えず。我足音に驚かされてかへりみたる面(おもて)、余に詩人の筆なければこれを写すべくもあらず。この青く清らにて物問ひたげに愁(うれひ)を含める目(まみ)の、半ば露を宿せる長き睫毛(まつげ)に掩(おほ)はれたるは、何故に一顧したるのみにて、用心深き我心の底までは徹したるか。





天方伯爵を取るか、エリスを取るかの決断に苦悩した上、精神障害をきたしたエリスを残し
太田は帰国してしまうのです。




21日、ゲーテ博物館で森鴎外が翻訳出版した『謎』の原作者、フーゴー・フォン・ホーフマンスタール宛に綴った献呈文が見つかりました。


ドイツ語で、「この悲劇を創作された作家、ホールマンスタール様に謹呈しますこと、光栄です。御作品の翻訳者より、東京にて」とペン書きしてあります。

几帳面な筆跡で、ホーフマンスタールに親近感を持ち、深く共鳴していたことが窺える献呈文です。