「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

良心的 2005・03・26

2005-03-26 07:00:00 | Weblog




 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。


 「この世は、当人と他人から成っている他人の目には、ありあり見えることが、当人には見えない。」

 「当人というものは、思い知ることがない存在である。」

 「日支事変はもとより、日清日露の戦役まで侵略戦争だと中国人が言うのは自然だが、日本人が言うのは不自然である

  それなら当人ではない、他人である当人というものは、自分の利益とみれば、他人の島まで自分の島だと

  いいはるものである
それが健康な個人であり、国家である故に健康というものはいやなもの

  である/strong>。けれども、おお、個人も法人も国家も、健康でなければならないのであるわが国の

  当人ぶりは、他国の当人ぶりにくらべると著しく遜色がある
白を黒だと言いはること少ないのは良心的なのでは

  ない
弱いのである中国が言うべきことを、さき回りしてわが国が言うのは、知らないで

  媚びるのである
かくの如く自分が言いはること少なく、他人の言いはることに迎合する国は、怪しいかな他国に

  尊敬されないのである
。」

 「理解をさまたげるものの一つに、正義がある。良いことをしている自覚のある人は、他人もすこしは手伝ってくれてもいい

  と思いがちである。だから、手伝えないといわれるとむっとする。むっとしたら、もうあとの言葉は耳にはいらない。」


 「私は衣食に窮したら、何を売っても許されると思うものである女なら淫売しても許される

  ただ、正義と良心だけは売物にしてはいけないと思うものである。」


  (山本夏彦著「二流の愉しみ」講談社文庫 所収)


 「良心的という言葉は良心そのものではないが、良心に似たもの、近いものというほどの意味に使われている。良心と

  言いきるには勇気がいる、また恥ずかしい。だから良心的とだれが言いだしたか知らないが、うまいことを言ったもので、

  たちまち世間に歓迎され流行するにいたった。こんなことを言うのは、私がこの言葉を憎んでいるからである。

  もし私がこの語を字引にいれるとしたら、良心に似て非なるもの、良心に近いようで遠いもの、良心のにせもの、

  良心だと思いこんでいるもの――というほどのことを、字引だから一字一字たしかめて、彫るように万感をこめていれるだろう
。」

  (山本夏彦著「『戦前』という時代」文春文庫 所収)


 「異端を述べる言論は、二重の構造になっていなければならない。すなわち、一見世論にしたがっている

ように見せて、読み終ると何やら妙で、あとで『ははあ』と分る人には分るように、正体をかくしていなければならない


  いなければ、第一載せてくれない。」

  (山本夏彦著「毒言独語」中公文庫 所収)







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