今日の「お気に入り」は、新見南吉さん(1913-1943)の「でんでんむしのかなしみ」。
「 イツピキノ デンデンムシガ アリマシタ。
アル ヒ ソノ デンデンムシハ タイヘンナ コトニ キガ ツキマシタ。
『ワタシハ イママデ ウツカリシテ ヰタケレド、ワタシノ セナカノ カラノ
ナカニハ カナシミガ イツパイ ツマツテ ヰルデハ ナイカ』
コノ カナシミハ ドウ シタラ ヨイデセウ。
デンデンムシハ オトモダチノ デンデンムシノ トコロニ ヤツテ イキマシタ。
『ワタシハ モウ イキテ ヰラレマセン』
ト ソノ デンデンムシハ オトモダチニ イヒマシタ。
『ナンデスカ』
ト オトモダチノ デンデンムシハ キキマシタ。
『ワタシハ ナント イフ フシアハセナ モノデセウ。ワタシノ セナカノ カラノ
ナカニハ カナシミガ イツパイ ツマツテ ヰルノデス』
ト ハジメノ デンデンムシガ ハナシマシタ。
スルト オトモダチノ デンデンムシハ イヒマシタ。
『アナタバカリデハ アリマセン。ワタシノ セナカニモ カナシミハ イツパイデス。』
ソレヂヤ シカタナイト オモツテ、ハジメノ デンデンムシハ、ベツノ オトモダチノ
トコロヘ イキマシタ。
スルト ソノ オトモダチモ イヒマシタ。
『アナタバカリヂヤ アリマセン。ワタシノ セナカニモ カナシミハ イツパイデス』
ソコデ、ハジメノ デンデンムシハ マタ ベツノ オトモダチノ トコロヘ イキマシタ。
カウシテ、オトモダチヲ ジユンジユンニ タヅネテ イキマシタガ、ドノ トモダチモ
オナジ コトヲ イフノデ アリマシタ。
トウトウ ハジメノ デンデンムシハ キガ ツキマシタ。
『カナシミハ ダレデモ モツテ ヰルノダ。ワタシバカリデハ ナイノダ。ワタシハ
ワタシノ カナシミヲ コラヘテ イカナキヤ ナラナイ』
ソシテ、コノ デンデンムシハ モウ、ナゲクノヲ ヤメタノデ アリマス。」
「 一ぴきの でんでんむしが ありました。
ある ひ、その でんでんむしは、たいへんな ことに きが つきました。
『わたしは いままで、うっかりして いたけれど、わたしの せなかの からの
なかには、かなしみが いっぱい つまって いるではないか。』
この かなしみは、どう したら よいでしょう。
でんでんむしは、おともだちの でんでんむしの ところに やっていきました。
『わたしは もう、いきて いられません。』
と、その でんでんむしは、おともだちに いいました。
『なんですか。』
と、おともだちの でんでんむしは ききました。
『わたしは、なんと いう、ふしあわせな ものでしょう。わたしの せなかの からの
なかには、かなしみが、いっぱい つまって いるのです。』
と、はじめの でんでんむしが、はなしました。
すると、おともだちの でんでんむしは いいました。
『あなたばかりでは ありません。わたしの せなかにも、かなしみは いっぱいです。』
それじゃ しかたないと おもって、はじめの でんでんむしは、べつの おともだちの
ところへ いきました。
すると、その おともだちも いいました。
『あなたばかりじゃ ありません。わたしの せなかにも、かなしみはいっぱいです。』
そこで、はじめの でんでんむしは、また べつの、おともだちの ところへ いきました。
こうして、おともだちを じゅんじゅんに たずねて いきましたが、どの ともだちも、
おなじ ことを いうので ありました。
とうとう、はじめの でんでんむしは、きが つきました。
『かなしみは、だれでも もって いるのだ。わたしばかりではないのだ。わたしは、わたしの
かなしみを、こらえて いかなきゃ ならない。』
そして、この でんでんむしは、もう、なげくのを やめたので あります。 」
( 新美南吉著 「新美南吉全集・116作品⇒1冊」所収 )
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