今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。
「 戦前という時代は誤り伝えられているから、正したいと何度か試みながらうまくいかなかった。
『戦前まっくら史観』というものを、四十年間先生が生徒に吹きこんだから、それで育った今の
大人たちはそれから出たがらない。
戦前まっくら史観の戦前は、一般に昭和六年の満州事変から、昭和二十年の敗戦までの
足かけ十五年をさす。大正に生れ昭和に育った私はそれがウソだということを身をもって知って
いる。」
「 国民は満州事変をこれで好景気になると喜んだのである。日清日露の戦争は共に一年前後で終
っている。満州事変もすぐ終ると安心していた。果して一年あまりでわが軍大勝利で終って景気
は回復した。今も昔もそれは学生の売行きを見れば分る。以後大学の工学部の卒業生は全員売切
れた。文学部が売切れになるのは日支事変以後である。
私が自活しなければならなくなったのは昭和十二年二十二のときからであるが、二流の雑誌社
の編集部員一名募集の三行広告に三十余人集まった。十三年には十人、十五年には二人になった。」
(山本夏彦著「世は〆切」文春文庫 所収)
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