今日の「お気に入り」。
「 あらゆる仕事には、『誰の分担でもないけれど、誰かがしなければいけない仕
事』というものが必ず発生します。誰の分担でもないのだから、やらずに済ます
ことはできます。でも、誰もそれを引き受けないと、いずれ取り返しのつかない
ことになる。そういう場合は、『これは本当は誰がやるべき仕事なんだ』という
ことについて厳密な議論をするよりは、誰かが『あ、オレがやっときます』と言
って、さっさと済ませてしまえば、何も面倒なことは起こらない。
家事もそうです。どう公平に分担すべきかについて長く気鬱なネゴシエーション
をする暇があったら、『あ、オレがやっときます』で済ませたほうが話が早い。
ですから、最初から『家事は全部オレの担当』と内心決めていた方がメンタル面
では気楽なのです。
相手に期待せず、押しつけず、全部自分でやる。だから、相手がしてくれたら
『ああ、ありがたい』と感謝する気持ちになれる。
もちろん、結婚しているときは、それほど達観できませんでした。
でも、離婚して、家事労働は全部僕一人でやらなければならなくなったときに、
『家事労働のフェアな分担』のために結婚している間、どれほど不毛な言い争い
をしてきたのかが痛感されたのは本当です。」
「 人間を疲れさせるのは労働そのものではなく、労働をする『システム』を設計
したり、管理したり、合理化したりすることだということをそのときに学びま
した。」
( 内田 樹著 「そのうちなんとかなるだろう」㈱マガジンハウス刊 所収 )